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□壊したい程愛しい人。
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ランプの灯に鈍く光るナイフ。
アルフォンスはナイフの刃を、虚ろな目で見つめていた。
酷い顔の自分が映っている。
どうしてこうなってしまったのだろう。もう思い出せない。
ぼんやりとした思考回路。
左腕には点々と、小さな痕と塞がりかけの切り傷。
そうだ、ボクは、兄さんを失うかもしれない恐怖に堪えられなくなって……薬物に手を出したんだ…

木造りの固い椅子からゆっくりと立ち上がると、アルフォンスはナイフを左腕に当てて、一気に横に引いた。
皮膚が一枚、長く切れ、血が床へ流れ落ちた。
まるでアルフォンスの代わりに泣いているかのように、パタパタと血の涙が落ちていく。


******


高い空から太陽が落ち、太陽のオレンジと月の紫が空で混ざりあった。
オレンジと紫のグラデーションが、妖しい程に美しい。
まるでこの世の終わりを告げるかのような色。

読んでいた本を閉じ、アルフォンスは落ちてゆく太陽を見守った。

いや、終わりではなく、始まりかもしれない…
もう這い上がってこれない程、落ちればいい…ボクと共に。

「アル」

辺りが暗くなったのに、アルフォンスは気がつかなかった。
仄暗い部屋でエドワードの、自分を呼ぶ声で我に返った。

「ああ、ごめん、兄さん。ちょっと考え事してた…今、灯入れるね」
「いや、オレも部屋で本読んでてさ…気がついたらこんな時間になってて」

アルフォンスはソファーから立ち上がり、テーブルに置いてあったランプに灯を入れた。
カシャン、とランプの蓋をする。
手をランプにかざすと、灯が指をオレンジ色に透かした。

いつからだろう。どうしてだろう。
ボクは兄さんを壊したくて堪らない。
愛しているのに、大切なのに、粉々に壊してしまいたいんだ。
そんな醜い感情をぶつけて、兄さんに酷い事をしてしまったら、兄さんはボクから離れていってしまうかもしれない…
そんな混沌とした気持ちを抱え考えている内に、何を考えているのかも判らなくなり、どうしようもなくなって。
この気持ちから解放されたかった。


夕食を2人で作り、一緒に食事をした。
エドワードがチキンを食べたがったので、チキンのクリームソースにサラダ、コンソメスープというメニューだ。
カチャンと皿にカトラリーを置き、エドワードは食事を済ませた。

「美味かった!ごちそうさま!」
「ホント?良かった。兄さんが美味しいって食べてくれると、とっても嬉しい」

にこりと微笑むとエドワードがふぃっと目を反らした。

「…何?どうしたの?」

暫く躊躇ったエドワードは目を反らしたまま言った。

「…お前、最近おかしくねぇ?」

鈍いくせに、変なところで感がいい。

「別に?いつも通りだけど?」
「じゃあ、これは何だよ!?」

フォークを持ったままの左手をいきなり掴まれ、袖を捲り上げられた。


----------だから今日の夕空は、何かの始まりだと思ったんだ………
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