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□壊したい程愛しい人。
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何秒経ったのだろうか。沈黙がとても長く感じられた。
カチカチと時計の針が時を刻む音だけが、ダイニングに木霊する。
強い光を持った黄金の目がアルフォンスの琥珀色の目を睨み付ける。
ふぅーっと長い溜め息を吐き、アルフォンスはエドワードの手を払い退けた。
「何もないよ。猫に引っ掛かれただけ」
「そンな、猫の傷なんかじゃねぇだろ!?何かあったんだろ?話せよ!」
イライラする。無神経過ぎる。
いちいち、人の神経を逆撫でするなよ。
アルフォンスはガチャガチャと音を立てて食器を重ね始めた。
これ以上ここでこの話をしていたくない。
重ねた食器を両手で持ち、エドワードに背を向けた瞬間、ガタンと椅子の倒れる音がして、エドワードに背後から抱き締められた。
「無視すンな!何もないわけねぇだろ?頼むから話してくれ」
ああ…この人は。自分から始めようとするのか。
心の奥の何かがプツンと弾けた音がした。
ガシャーン!!ガタン!
凄まじい音を立てて、アルフォンスが持っていた食器が床に落ち、椅子が倒れ、テーブルクロスが引っ張られた。
弾みでクロスの上のグラスも、ガーベラとスプレーフラワーが飾ってあった花瓶も、全て砕け散った。
「ん…っ…んぅ!!」
右手でエドワードの顎を掴み、左手で華奢な腰を抱く。
逃げようとする唇を逃がさない。
噛みつくように口付け、吸う。
エドワードの唾液と自分の唾液が混ざり合い、喉の奥へ飲み込まれてゆく。
無理やり舌を探し当て、絡め捕る。
エドワードの口端から飲み込まれきれない唾液が頬を伝って、首筋へ流れた。
「ふ…ぅ…はっ…」
酸素が足りなくなったのか、エドワードの表情は苦しさに歪んだ。
もがいていた躯も力が入らなくなり、アルフォンスのシャツを掴んでいた手は小刻みに震えていた。
見開いていた目には、苦しさのせいか、この行為の為なのか、涙が滲んだ。