ヴァリアー


□みちなるもの
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ドシャ降りの雨の中を走る。
真っ暗で何も見えない中を、必死で走る。
どこにいるかもわからない彼を探して。



























毎日死にたいと思っていた。
それでも無意識に生に執着した私は、自らの身体に無数の証を刻んだ。
真っ赤な命の証。
とうに痛みは麻痺してしまっていたけれど、それでも生きていることを実感できた。
それが唯一の救いだった。
自分の命を繋ぎとめる最後の手段だった。




だがある日、私を苦しめる日常が一瞬で消え去った。
屋敷に戻るとそこにはもう、一つの命も残っていなかった。
否、何も知らずに帰ってきた私と、血の海の中心で笑う彼以外という意味においては。



「なにオマエ?……へぇ〜」

ブロンドの髪をした彼に、まじまじと顔を覗かれる。
綺麗、などと思うのは不謹慎だろうか。
たぶん私は、…今から彼に殺される。

「なぁ、この傷なに?」
「え…?」

彼の視線は私の両腕。
珍しく剥き出しにしていた両腕には、自ら付けた無数の切り傷。
古いものや、まだ血の滲んでいるものなどが無惨に腕を飾っている。
たぶんこれのことだろう。

「死にたくて。でも生きていたくて。」
「は?馬っ鹿じゃねーの?」

心のままに話したら、アッサリと馬鹿にされた。
それがなんだか清々しくて妙に嬉しくて、私は思わず笑う。

「そんなわけのわかんねー人生、オレが終わらせてやるよ。」

しししっ、と彼が笑った。
それもいいかも。
私の人生を絶望に追いやった家族は全員消えたけれど、だからといって未来に希望が生まれたわけでもない。
哀しくもないけれど、嬉しいわけでもない。
これから先も傷を増やしながら生きていくくらいなら、この綺麗な彼に潔く殺してもらった方がラクかもしれない。

「じゃあ、よろしくお願いします。」

私はそう言って、一応頭を下げてみた。
けれど、顔を上げたらそこにはもう彼はいなかった。
あれ…?
茫然と立ち尽くす私の頭上から、彼の声が降ってくる。

「どうしても終わらせて欲しくなったら、王子のとこに来な。察してやるよ。」


































終わらせて欲しい。
周りが消えても、私には未来なんか生まれなかった。
もう限界なの、ねぇどこにいるの?
早く私を終わらせて…
私は必死に雨の中を走り続けた。









「見ぃーっけ!」

突然聞こえた声に、ピタリと足を止める。
慌てて振り向くと、暗闇にボーっと浮かび上がるブロンド。
彼だ……!!
もつれる足で、私は走り寄った。

「もうダメ。早く殺して…」

声が震える。
急速に体温が下がって、息が苦しくなるのを感じた。
ああ、私はもう……こんなに辛い…

「誰が殺すっつった?」
「……え?」
「終わらせてやるっつったんだよ。」

彼はそう言うと、雨でびしょ濡れの私の長い髪を掴む。
そして…

シャキン!!

滑らかな音がしたと思うと、頭が妙に軽くなった。
そして、ペタペタと髪が頬につく感触。

「……あ。」
「しししっ、王子とお揃いな。」

私の長い髪はバッサリと切られ、彼と同じような長さになっていた。
ボタボタと彼の手から切られた髪が落ちる。
それは雨で地面に叩き付けられ、惨めな私自身の様だった。

「約束通り、オマエの悲惨な人生はこれで終わり。」
「………」
「今日からは王子が楽しませてやるよ。」
「……え?」







わけのわからないまま手を引かれた。
そして彼と共に雨の中を走る。
いつの間にか私の頬は、雨とは違うもので濡れていた。

やがて空が白み出し、太陽が昇り始める。
それは本当に絵に描いたような私の新しい人生の幕開けだった。





END.




















◎あとがき◎
またやってしまった、眠れないという理由での突発書き。
無計画な夢の犠牲者はまたしてもベルちゃん。
うあああ申し訳ない。
人生捨てたもんじゃないということです、こんな私でも元気に生きてる\(^O^)/←
失礼致しました。


2009.5.29

 

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