短編@
□幸せの形
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早朝。
任務を終えてアジトに戻ると、甘ったるい匂いが鼻についた。
こんな時間に何事だと厨房に足を向ける。
「もっとイチゴ盛れって。あとクリームも。」
「んもう、欲張りなんだから!ま、いいわ、全部乗せちゃう!!」
厨房にいたのは馬鹿みたいにデカいケーキを盛り付けるルッスーリアと、なんやかんや注文をつけるベル。
何やってんだコイツら…
「う゛おぉい!何事だぁ!?」
「あら、お帰りなさいスクアーロ。」
「ちっ。」
たまらず声をかけたオレに、笑顔を見せたルッスーリア。
それとは逆に、面倒臭そうに顔を背けたベル。
コイツが言い出しっぺかぁ…
「う゛ぉい、ベル。何事だぁ?」
「うるせーよ。」
「な゛っ!?いいから説明しろぉ!!」
「スクアーロには関係ねーし。」
「なんだとぉ、ガキぃ!!」
ちっとも話が進まないオレ達に、ルッスーリアが割って入る。
「今日はベルちゃんの誕生日なのよ、スクアーロ。ね、ベルちゃん?」
「ちっ。」
「誕生日だぁ!?」
オレは間抜けな声を上げた。
そりゃそうだ、オレ達には誕生日を祝うなんていう甘ったるい考えは少しもない。
それはベルだって同じはずだ。
今までこんなこと一度も…
「オレは祝う気なんかねぇぞぉ!」
「は?スクアーロになんか祝ってもらう気ねーし。」
「なら、誰に祝わせる気だぁ?」
「………」
黙って目をそらしたベル。
それでピンときた。
―――マーモンかぁ…
オレはなんだかどっと疲れが出て、何も言わずに厨房を出た。
そして大きな溜息をつくと自室に向かった。
シャワーを済ませ、ベッドに横たわる。
目を閉じると、あの日のことが鮮明に蘇ってきた。
マーモンが死んだ、あの日のことが…
―――
―――――――
――――――――――――――
「えっ?マーモンが!?…あらやだ、自害?まぁ、そうなの…」
馬鹿みたいに響いたルッスーリアの声に、オレ達は動きを止めた。
「マーモン、死んだそうよ。」
そんなオレ達に、ルッスーリアが首を振りながら告げる。
「ししっ。バッカじゃねーの、あのチビ。」
真っ先に口を開いたのはベルだった。
ちっとも哀しまないベルの態度を誰も不思議には思わない。
オレ達は皆そんなもんだ。
誰かが死んだからっていちいち哀しむような、そんな感情は持ち合わせちゃいねぇ。
だからその後も何も変わらない日が続いた。
だが、少し経ってオレはベルの異変に気付いた。
態度は前と変わらない、任務も普通にこなしている。
が、明らかに痩せているのだ。
もともと細い奴だったが、今はもうそんなレベルじゃねぇ。
ガリガリだ。
加えて、顔色も悪い。
だが、妙だ。
ベルはちゃんと食事をしている。
むしろ以前より大食いになったんじゃねぇかと思うほどだ。
…まぁいい、任務に支障がないならオレの気にすることじゃねぇ。
そう思って放っておいたのだが、ある日オレはその原因を知ることになる。
「……っ………ゴホッ………うっ…」
なんだぁ?
深夜、ベルの部屋から微かに漏れるうめき声。
「う゛ぉぉい!どおしたぁ!?」
たまたま鍵が開いていたこともあって、オレはベルの部屋に上がり込んだ。
真っ暗な部屋の中、唯一明かりがついていた洗面所に向かう。
「ベル…?」
それは異様な光景だった。
うずくまって吐き続けているベル。
身体は震え、自慢の金髪は汗で頬に張り付いていた。
「う゛ぉぉい…」
「んあ?」
肩を揺すってみると、ベルがこちらを向いた。
その顔に不覚にも焦る。
前髪からのぞいた真っ赤に腫れた目、そして頬に残る涙の跡。
「しししししっ…」
不意にベルが笑い出した。
「なんかさぁ…、よくわかんねーんだけど最近こんな調子なんだよね、オレ。すっげー食ってんだけど全部吐いちゃう。マジ苦しいんだけどなんとかならね、スクアーロ?」
……
………
オレは言葉が出なかった。
マジで自分の情況を理解していないベルに、なんて言えばいいのかわからなかった。
病気だ。
ベルは心がやられちまってる。
原因は……
マーモンの死、それしかねぇだろうな。
「オレにはどうすることも出来ねぇ。自分でなんとかしやがれぇ…」
「ちっ、役立たず。」
これ以上ベルのふざけた姿を見ていたくなくて、オレは部屋を出た。
奴が完全に壊れるのが先か、その前に立ち直れるか…
まぁ、オレの知ったことじゃねぇ。
だが、意外にも事態はアッサリと好転した。
「どうもー、フランですー。」
この生意気な新人に変な被り物をさせて、ベルの心は落ち着いたらしい。
ベルの体型は徐々に戻っていき、顔色も良くなっていった。
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