◇ ◆ 薦 蓮 集 ◆ ◇


【い】 1件

【芋(夜神月×マット) (いも)】


「いらっしゃ――あ、月さん!」
「久しぶりだね。マット…頑張ってるね」

店は丁度、暇な時間帯なのか、客は一人もいなかった。手っ取り早く、済ませてしまおうと思った。

「あ。俺、今お茶を――」「いいから。そこ座って」

彼は、とても勘が鋭い。メロがあえて何も言わなくとも、傍にいただけで、マットはメロの苦しみや悲しみを、全部理解してしまった…今、僕がここに来たというだけで、大方の予想はついたことだろう。

「――駄目です。絶対に!」「預けたものを返してくれ」会話の順序が、逆になってしまっている。

「預けたものは【芋】だ。憶えているだろう?」マットの表情が、陰鬱になった。だが、こんな子供に怯むわけにはいかない。

「ハッキリ言わせてもらう」「君は部外者だ」「あの子が――いない今、僕らと何の関係もない」…込み上がってくる、感情を抑えるのに精一杯だった。僕は、上手く言えただろうか。

「――今、取ってきます」無表情のマットが、奥に引っ込んだ。結構、大荷物だったので、慎重に駐車場まで運んでもらった。

「俺は、許せない」…帰り際、マットが一言だけ呟いた。僕は笑って、彼の髪をくしゃっと撫でた。

「…ありがとう。じゃあね」



という夢を見た。《最後の望み》は叶ったよ、メロ。彼は、無関係だ。



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