T


♪01【きっかけはファータ】
1ページ/5ページ




『あ、あったこれだ』



誰もいない放課後の生徒会室。

僕は棚から一冊のファイルを引き抜くと、ゆっくりとその表紙を開いた。



『ふーん…、前回の優勝者はこの人か。えーっと、おうさきのぶたけ…あ、しのぶって読むのか』



「第9回星奏学院学内コンクール」と表されたファイルを開くと、総合成績順に写真と個人データが記載されていた。
パラパラと捲っていくと、1番最後のページには、参加者全員で撮られたと思われる集合写真も飾られていて。
優勝者はもちろんのこと、他の参加者たちそれぞれが皆、誇らしげな笑顔を浮かべているのが実に印象的だ。

なぜ僕がこんなものを見ているのかというと、今日校長から学内コンクールの開催を言い渡されたからだ。

我が星奏学院では創立当初から数年毎、不定期に音楽コンクールが開催されているらしく。
それがどうも今年行われることに決まったようなのだ。





“おお!?こいつは懐かしいのだっ!!”

『え…』



突然背後から聞こえた小さな声に、思わず後ろを振り返る。
この部屋にいるのは自分だけだと分かってはいるものの、それでも確かめずにはいられないのが人間というものだ。



キョロキョロ



(…空耳、か?)

ぐるっと部屋中を見回してみたところで、当然他の誰かなんているはずもなく。
腑に落ちないながらも、気を取り直してもう一度ファイルに目を落とすと、今度は見たこともない奇妙な物体がそこに浮遊していた。



『ッうわ…!?』

“…ぉ?ぉおおお…!?お前、我が輩が見えるのかっ!?”



(なななんだ!?このちんちくりん…)

(…ていうか怖っ!喋ったよ)

僕の目の高さまで浮かび上がり、興奮したように話し掛けてくる物体には、どこをどう探してみても、操り糸のようなものは見当たらなく。
手のひらサイズのその小さな身体には羽根のようなものが生え、全身には金色の光を纏っていた。



『…虫…?』

“はうっ!?ひ、ひどいのだぁ…。お前、キレイな顔してなんてこと言うのだぁ…!!”

『いや、ていうか…』

“我が輩の名はリリ…ファータという種族なのだっ!!”



(…種族?何言ってるんだ??)

僕はその物体の主張を聞きながら、考えられる全てのことを想定した。
そして導きだした答えが、まさかのコレだ。



『…妖精、とか?いや、…んなわけないよな、はは』





──…そのまさかだった。






次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ