Wants 1st 番外編
□『恋する君と休日。』
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「昂介起きたか。」
「おー、多分。」
リビングに入れば、キッチンに立った巳弘が口端を上げる。
俺たちは休みだけど、巳弘のバーは普通に営業日だ。
普段なら朝方帰ってきてまだ寝てたりすんだけど、今日は目が覚めちまったらしい。
二度寝しろよっつったら、巳弘は「また後で1〜2時間寝る」と言ってキッチンに入ってくれた。
ちょっと悪ぃ気もするけど、せっかくメシを作ってくれるみたいだし、お言葉に甘えることにしたのだ。
何だかんだで巳弘も忙しいから、いつも手料理を食わせてもらえるわけじゃねぇし。
「うわ、圧力鍋出してる。」
「美味いし節約になんだろ。」
「俺それの使い方、いまだわっかんねーんだよなァ…」
「ははっ。まぁ説明書とか見んのだりぃよな。」
「そうそう。結局それでいつも使わねぇ。」
「まぁわざわざカレーとか、とろみがあるようなもん作らなきゃ平気だろうけど…危ねーから、お前は普通の鍋にしとけ。」
適当に会話をしつつも、巳弘の手が休まる事は無い。
やっぱ巳弘には敵わねぇよな…としみじみ思いながら、カウンター越しにそれを眺めていると、カチャリとリビングの扉が開く。
自ずと巳弘と二人して視線を上げれば、そこには漸が立っていた。
正確には、猫を抱いた漸が。
「おかえり。」
「…ただいま。」
巳弘に言われて、漸はシンプルにそう答える。
「あれ、漸出てたのか。」
「のんに、エサあげようと思って。連れてきた。」
そう言って猫を抱いたままソファーの方にやってきた漸は、微かに口元を緩めてその背中を撫でていた。
話によれば、バーの裏で巳弘が餌付けしていたらしい猫。
くりっとした瞳はグリーンに近いブルーのような不思議な色で、かなり大人しい。
「……」
猫を見つめる漸を、俺はぼんやりと観察する。
ちなみについ最近知ったばかりなのだが…漸の裸眼は、かなり衝撃的だった。
最初は事故的に、裸眼時の漸とこのリビングで鉢合わせたんだけど。
大抵の日本人よりは明らかに淡いライトブラウンの右目に、グリーンの強いヘーゼルの左目。
秋斗で外人っぽい顔には慣れていたはずだけど、漸はまた全然違うイメージだったっつーか…とにかくただでさえ独特の雰囲気を持っている漸だから、それは神秘的にさえ見えた。
今も裸眼な漸があの猫を抱くと、瞳の色といいしなやかな様子といい、どことなく似通ったものを感じる。
何となく、巳弘が珍しく猫なんて構った理由がわかった気がした。
「漸、のんのエサそこ入ってるから。あとわかるよな?」
「うん。」
巳弘にそう言われた漸は頷き、一度“のん”と呼ばれた猫をソファーに下ろすと、巳弘の指示通りエサの準備を始める。
と、もう一度リビングの扉がカチャリと開く音がした。
「ふぁ…っ」
ようやくやって来た昂介に、俺は口元が緩む。
と同時に、巳弘も微かに肩を揺らした。
漸に至っては、二度見してたし。
「…?」
不思議そうに首を傾げた昂介の額は、全開だ。
何故なら昂介は、以前篠原家に泊まりに行った時に知って以来、俺が熱烈にリクエストしている髪型で――普段流している前髪は頭上にて、ポンポンの付いているゴムで括られているからだった。
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