Wants 1st 番外SS
□パロディシリーズ
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『spice』
Side:コウスケ
「うっわすっげマジきれー!」
「あはは、コウスケ興奮し過ぎ」
「そりゃそうだろ、いつぶりの上陸だっつの!」
向かっていた星は、すぐそばまで迫っている。
「空」と呼ばれる、頭上に広がった延々と続く闇の中でも、一ヶ月程から一際 光を放っていたそこは、最早ここ――スペース・タウン全体を照らす勢いで青く輝いていた。
スペースタウン、それは俺たちが暮らす場所のことだ。
部屋を出れば、そこは最早街そのものの景観。
でも実際は空気の濃度が変わらないよう、巨大なドームが被せてあって、いわば丸々街ごと宇宙船となっている。
人口は、は500人弱。
それほど大きなコミュニティではないから、辺りを見渡せば知り合いばかり。
気心知れた世界だと思えば聞こえは良いが、正直俺にとっては少し退屈でもあって。
定期的に上陸する星が見えてきては、こうして興奮してしまうのだ。
「まぁ、テレビも朝から、あそこの話ばっかしてるしな」
「何か強ぇ生き物いっかな。俺対戦してぇ」
「やめとけコウスケ。お前チビだから、相手がデカかったらプチっと――」
「うるせぇばかやろ全然小さくねぇぞこのやろう!」
「そのブレス無しの反論が、何よりの肯定だよな」
星を仰ぎながら肩を竦めた友人を一睨みして、俺は低く唸ってみせる。
ちくしょう、腹立つわ。
俺はまだ、成長途中なんだっつの……たぶん。恐らく。きっと。
「そういや、ツバサは?」
「そうなんだよ!」
友人の言葉に反応して、俺は思いっきり顔をしかめた。
街はこんなに騒然としていて、近々上陸する青い星を仰いでいる人間ばかりだというのに。
ツバサときたら、まだ家で寝ているのだ。
どんな事が起きても「へぇ」とか「ふーん」とか穏やかに受け止める彼が、興奮することなんてあるのだろうか……それが大人になるってことなのだろうか。
俺にはまだ、到底理解出来ない。
「もう一回起こしてくるわ」
「ははっ、頑張れよー」
友人に手を振り、俺は駆け出す。
ついこの前エリート職に就職が決まった翼は、今や一等地にある区画内にある、スゲー立派な家に住んでいる。
普通このエリアに入るには許可証がいるのだが、俺は――
「どうぞ」
「あ、ど、ども……」
――俺はツバサから、特別にパスを預けられている。
基本的にこれを持っているのは、ここに住む人間の家族や、家族になる予定の者だけだ。
つまりは。
「うわー」
……今更だけど。
今はちゃんと、「幼馴染み」ではなく「恋人」に昇格したんだなって実感出来て、ここを通るたびに顔が熱くなってしまう。
いまだに、ツバサが彼氏だなんて信じられない。
すげぇカッコイイし、頭いいし、優しいし……俺、幸せ過ぎる。
そんなことを思いながら両手でほっぺたを覆いつつ、真っ直ぐにツバサの部屋へと向かった。
***
「あれ、ツバサ起きてる!」
「おう、おはよ」
「ちょ、セクシー! 目が潰れる!」
「……」
出たよ朝からビックリだよ何この人! 光ってる!
シャワーを浴びてきたばかりらしいツバサは、下にスウェットを履き、首にタオルを引っ掛けただけの姿で水を飲んでいた。
つまりは、鍛えられた細マッチョ的な素晴らしき上半身がオープンなワケですよ。
少し伸びた髪を括っているのも、またいつもと違う雰囲気を漂わせていてかなりやばい。たまらない。
あれ、俺ちょっと変態っぽい?
「時々俺、コウスケってスゲーなと思うよ」
「俺も! ツバサは奇跡の産物だよ!」
「……うん、多分俺の言ってる意味とは全ッ然違ぇと思うけど、とりあえずありがとう」
ぽんと頭に置かれた手でくしゃりと髪を撫でられ、俺の嬉しさレベルはMAXまで上がった。
むしろメーターは振り切っている!
「よしよし、可愛い可愛い」
「マジで!」
「……おすわり」
「え、座るの?」
俺は不思議に思いながらも、すぐその場でぺたんと腰を下ろす。
と、何故かツバサは頭を抱えてしまった。
「……可愛いけど。可愛いけど、コウスケの将来が心配過ぎる……」
「?」
「頼むからお前、俺以外の指示とか命令は、よく内容を確認してから聞けよ」
「? わかった」
「くれぐれも、そう簡単に犬にならないように」
「え、犬?」
よくわかんねぇけど、ツバサが笑ってくれたからまぁ良いや。
へらりと笑うと、これまたキュンとくるような甘い笑みを返される。
うわー、朝から良いものを見た。
今日一日、素晴らしい日になるに違いない。
「で? 朝からどうしたんだ?」
「はっ、そうだった!」
あんなに興奮していたのに、いつの間にか頭の中は目の前のツバサでいっぱいになっていた。
恐るべしツバサ……!
「別に俺は何もしてねぇんだけど」
「エスパー?!」
「いや声に出てたから」
気を取り直して俺は、また一段と近付いてきた星についての話をする。
ツバサは俺に、相変わらず「へぇ」と淡白な相槌を打ちながら、キッチンで朝食の準備を始めた。
「何でそんな落ち着き払ってんのツバサ!」
「コウスケが俺の分も騒いでくれてるから、安心して任せてる」
「えっ」
「……何で赤くなるんだよ、今のときめきポイントはどこだ」
ぐりぐりと俺の頭を撫でくり回したツバサは、苦笑する。
「なぁ、ツバサ今日休みだよな?」
「おう」
「なら、せっかくだから見に行こうよ。センター区の記念碑前だと、丁度スゲー良い角度で見えるからさ」
「えー」
「記念撮影したい! 星をバックに、ツバサとのツーショットが欲しい!」
「あー、はいはい。そういうことね……仕方ねぇなァ」
畳み掛けるようにねだれば、ツバサはテーブルに着きながら頷いてくれた。
やった! ツーショットゲット!!
「じゃあメシ食ったら、支度するから」
「わかった!」
「家出る時連絡するし、それまで外で遊んでても良いぞ」
「俺は子どもかよ!」
「違うのかよ、そりゃびっくりだ」
「ツバサ酷ぇ!」
――スペース・タウンにて、平凡な日々の中で。
好きな人と過ごす時間だけは、いつも特別だ。
fin.
***
昂介はどこでも元気。
2012.10.13