Wants 1st 番外SS
□Original TitleV
6ページ/12ページ
44.恋人たちの実情
Side:Yuki
テストや課題ばっかりだった長い一週間を終え、ようやくたどり着いた週末。
多くの生徒がそうであったように、俺も例に漏れず、今週は特に休みを心待ちにしていた。
その理由は勿論、単純に休めるからでもあるけれど……本当の事を言えば、涼とゆっくり一緒にいられると思ったからだ。
そりゃ涼とは学年が違うとはいえ、同じ学園の生徒だし、同じ寮棟に住んでるし……本当に会いたいと思えば、いつでも会えるけれど。
それでもやっぱり試験が多い時期は自分も勉強しないといけないし、成績上位をキープし続けている涼の邪魔をしてはいけないと思うから。
他人にはワガママだ何様だと言われがちな俺だけれど、一応ある程度の遠慮くらいはしている。
ただでさえ涼は、“白”で忙しいっぽいし……
それに俺と付き合って成績がガタ落ちしたとか言われたら、普通に俺も悔しい。
だから、これでも我慢してるんだ。
「どうしても会いたい」と思っても、3回に1回くらいしか、涼の部屋に押し掛けてねぇんだから。
――って言ったら、ケイに「多ッ」ってツッコまれたけど。
「……」
でも、結局はこうなるらしい。
ケイと二人でシェアしている自室と比べると、やたらと広く感じる涼の一人部屋。
俺はソファーに転がったまま、それはもう不貞腐れていた。
数時間前――涼と俺は朝飯を食い終わり、このソファーに座っていて。
まぁ厳密に言えば涼は雑誌を見ていたし、俺はその肩に凭れ掛かってぼーっとテレビを観てたんだけど。
とにかくぴったり涼に寄り添っていた俺は、何となく、もうちょいくっつきたい衝動に駆られたのだ。
雑誌を見てんのはわかってたけど、別に俺がいる時に見なくてもいいだろうと思って、ごろんとその上に頭を乗っけた。
案の定「見えねぇよ」と呆れた顔をした涼を、何とかその気にさせようと奮闘し始めてから数分後。
とうとう俺の誘惑に乗っかってきた涼は、雑誌をテーブルに置いて、俺だけを見てくれた。
恋人だからと言って、これが簡単な事だとは思わないで欲しい。
相手はあの涼なのだ、本当にその気が無い時は、絶対に取り合ってくんねぇんだから。
……多分。
まぁ俺は、失敗した事ねぇけど。
別に前に放置された時に癇癪を起こして、それ以来涼がさらに甘くなった気がするとかは、まったく思ってねぇけど。
「……ちぇっ」
で、せっかくその気になってくれたのに。
しかも涼の手はもう俺の素肌に触れていたし、多分互いの気持ちも盛り上がってたし、そのままいけば一分後にはきっと繋がってたって段階だったのに。
そんな俺たちの空気をブチ壊すように、涼の携帯が鳴り響いた。
鳴っただけなら問題無いけど――正確には鳴り続けたのだ。
涼は、“白”のトップだから。
そっち方面からくる電話を無視出来ないのは、重々承知している。
けど……けどさ。
今日は休みだし。久し振りだし。
ていうか直前だったし。
あのタイミングでバイバイとか、マジでない。
しかも「ほんと悪いな」とか言って宥めるように撫でられたら、怒るタイミングも失うっつーの。
「チクショウ……」
結局「いってらっしゃい」も言えずに拗ねていた俺を置いて、涼は出て行ってしまった。
……いや、最後まで謝ってくれてたし。
涼だって同じように思ってくれてんのは、わかっているけれど。
それでも割り切れないのが、恋愛感情ってもんだ。
これまでは、よく聞く「仕事と私、どっちが大事なの?!」とかいう女の台詞に対して、超めんどくせぇとか思ってたけど。
今なら多少はわかる。
いや、俺は男だから、思うに留まってそんな事は絶対口にしねぇけどさ。
「バーカバーカ、涼のバーカ……」
何となくムシャクシャして、そう呟いてみるものの。
その声音は完全に落胆してて、自分でも淋しがっているようにしか聞こえない。
最悪だ。
何かもう上手く言えないけど、とにかく最悪。
――昨日のだけじゃ、全然足りないんだよ。
涼のバーカ……。
それからようやく玄関の鍵が開く音がしたのは、昼を過ぎて午後になる頃だった。
あのままソファーでぼうっとしていた俺は、どうやらいつの間にかうたた寝をしていたらしい。
物音にそっと目を開けば、こちらに近付いてくる足音。
「ただいま」
「……」
「まだご機嫌斜めか?」
……何だよ、ご機嫌斜めって。
別に俺が悪いワケじゃねぇのに。
思わず眉を寄せて無言を続ければ、涼は横たわっている俺の前に立ち、床に膝を着いて顔を覗き込んでくる。
俺は反射的に身体を捩って、ソファーの背凭れの方に顔を向けた。
「由貴、機嫌直せって」
「……バーカバーカ」
「……」
「……」
「あー……そうだな。悪かった」
「……今、何だこのガキって思っただろ」
「いや。でもまぁ、他に言い様が無かったのかとは思った」
「うっせぇバーカ!」
「はいはい、悪かったって」
「痛い! 放せ!」
「こんだけ丁重に扱ってんのに、痛いワケねぇだろ」
ぐいっと背中の下に手を入れられ、強制的に抱き起こされる。
俺は衝動的に目の前の胸板を思いっきり押してやったものの、腹の立つことに、全くびくともしない。
「この石像!」
「ははっ、初めて言われた」
「何笑ってんだよ、マジムカつく!」
「そうだな、悪かった」
「バーカ!」
「お前、それ以外悪口候補はねぇのか?」
マジでうるせぇ。
だって見た目はカッコイイし、頭もいいし、グループの人とかにも信頼されてるし。
具体的な悪口なんて、見付かりやしない。
それこそ「何でそっちを優先したんだよ」なんて本気で思ってはいないから、ただの俺のワガママだって事もわかっている。
「バカ……」
「由貴、悪かった」
ぎゅっと抱き締められて、涼の匂いが濃く香った瞬間。
とうとう俺は、何も言えなくなった。
だって、きっと涼はわかっているから。
俺の悪態は、大抵……
……大抵全部、「淋しい」と「好き」からきている事を。
涼はきっと、ちゃんとわかっている。
「由貴、もう出掛けねぇから」
「……」
大きな手が俺の頬に添えられ、長い指が髪を梳くように頭を滑っていく。
俺は目を閉じて、身体から力を抜いた。
「悪かったな」
「……」
「何かして欲しい事あるか? 今日は特別に、ワガママ聞いてやるよ」
――嘘ばっか。
俺のワガママは、いつも……何でもない時でも、普通に聞いてくれるくせに。
そうわかってはいるけれど、俺はあえて、その言葉に甘えることにした。
「……今日、俺以外の事に集中すんの禁止」
「わかった」
「あと、来週の平日も泊まる日一日増やす」
「あぁ」
「この辺で一番高いケーキが食いたい」
「……まぁ、良いだろ」
「あと――」
「全部でいくつあるんだよ」
そう言って笑い出した涼をじろっと睨むものの、やたらと優しい目で見てくるから、本当に困る。
もっと怒ってもいいのに。
――いや、嘘だ。
俺はこういう、優しい涼が堪らなく好きなのだから。
「……淋しかったんだけど」
「だろうな。わかってる」
「じゃあ早くキスしろよ」
そう言ってそっぽを向けば、フッと笑った涼にすぐ顎をすくわれ、数時間ぶりに唇が重なる。
目を閉じて腕を伸ばせば、涼は俺の身体をしっかりと抱き留めてくれた。
あぁ、本当に、惚れられたもん勝ちだよな。
結局俺は、いつも涼の手のひらで転がされている気がする。
「りょう……」
「ん?」
だけど、それを嫌だとも思えない。
そのくらいには、俺もベタ惚れなのだ。
俺はその大きな身体にぎゅっと抱き着きながら、涼に小さく「もっと」と囁いた。
fin.
***
本当に、涼が由貴をでろんでろんに甘やかしている件。
ますます由貴が王子様化してしまう;
けど由貴も根は繊細で気ぃ遣いなタイプなので、ある意味ワガママも愛情表現の一つだということを、涼も重々承知しているのです◎
多分涼×由貴みたいなCPは、リアルでも長続きする組み合わせだと思います……多分。
2011.12.9