Wants 1st 番外SS

□Original TitleV
5ページ/12ページ



43.彼らの実情

※先日完結した、湊×遥の短編番外『ハニーの実情』を更新している間に、「その後の翼と昂介を追って欲しい」というお声を複数件頂きましたので、SSで書かせて頂く事にしました。

・怪我を負った昂介は、パパ(昂司)と自宅待機中
・秋斗と翼は“白”の活動を終え、車で湊を寮に送り届けた後、昂介の家へ直行

……というところから始まります。




Side:Kosuke



 ピンポンというチャイムの音が聞こえてきて、咄嗟に玄関に向かおうとしたら、父さんに「座ってろ」とドスの利いた声で指示された。
 普段ならそれでも「俺が出る!」と反発するところなんだけど、今日はヘマをしてしまった手前、強く出る事が出来ない。

 だから唇を尖らせてソファーでうなだれていると、しばらくの間を置いた後、くリビングドアが開いた。
 入ってきたのは予想通り、父さんに連れられた翼と秋斗。


 ――ってか、秋斗怖ぇ!
 目で人殺れそうな勢いなんだけど!

 普段ヘラヘラしている事が多い分、秋斗のマジ睨みは本当に利く。
 俺は反射的に目を逸らしつつも、ひたすらソファーの上で小さくなっていた。


「わかってると思うけど、昂介は殴んなよ。傷開くから」


 父さんが秋斗にそう言ったところで、台所の方から母さんが父さんを呼ぶ声が聞こえてくる。
 それに応じて父さんがダイニングへ向かい、リビングのドアが再び閉まったところで、秋斗は目の前にストンと腰を下ろした。

 位置的には、ソファーにいる俺の方が目線が高いけれど。
 全然、責められている感覚が和らぐ事は無い。


「――昂介」

「……」

「お前、下にいつも何つってんだよ」

「え……」

「持ち場でヘマしたり、視界に入る場所で重症者出したら、どうなんだっけ」

「……」


 そう問われて、ぐっと言葉に詰まる。
 でも、そう言われても仕方がない。
 俺が担当しなければならない仕事内で、油断した事から傷を負ってしまったのだから。


「……降、格」

「だよな。その話からすると、本来ならお前も翼も降格なんだけど。お前が今回軽傷で済んだのは、ラッキーだっただけだし」

「……」


 秋斗の言葉に対して、何も言い返せない。
 向こう側に立っている翼も、一言も発しなかった。
 リビング内には、嫌な沈黙が訪れる。


「もしお前らの代わりになるレベルのメンバーがいたら、俺は本当に降格させてたぞ」


 そう言って秋斗は、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。


「特に昂介。お前は絶対、降ろしてたと思う」


 脅しでも何でもなく、素で言われているということは、その目を見れば明らかだ。
 俺はその瞳を見返したまま、ぐっと唇を噛み締めた。

 ――悔しかった。

 昔からずっと、強い秋斗に……頭のキレる翼に追い付こうと、頑張ってきたのだ。

 身体が小柄だから、喧嘩では不利だと言われれば、スピードが上がるように努力したし。
 人を引っ張れる程の気迫が無いと言われれば、何とか「怖い」と思ってもらえるように気を張った。

 メンバー全員の喧嘩時の癖も、性分も、弱点も……一人一人ちゃんと把握して、より強く信頼し合えるように努めているし。

 ようやくここまで上り詰めて、秋斗たちに近い場所に立てるようになったのに。
 そう思うと、悔しくて泣きそうになる。


「……っ」

「秋斗、悪かった」


 何も言えないまま俯いた俺に対し、翼は一言だけそう言った。
 秋斗はチラリと翼を振り返った後、もう一度俺の方に向き直る。


「……昂介は」

「……」

「……」

「……次は、無いようにする」

「約束は守れよ」


 そう言うと、秋斗はそっと手を伸ばしてきて。
 テープで固定されている額の辺りを、指先でするりと撫でてきた。


「お前が致命傷負ったら……しかも翼がいる時にそうなったら、翼は一生引き摺る事になるんだぞ」

「え……」

「翼がお前庇って事故った時の事思い出せば、わかるだろ」


 そう言われて、はっと息を飲む。
 今でもたまに――本当にたまにだけど、いまだに夢に出てくる時があるくらいなのだ。

 激しいエンジン音と、それが人にぶつかる時の不穏な衝撃音。
 ピクリとも動かなくなった翼の姿、閉じられた瞼……

 思い出すだけでも、ズキズキと心臓が痛んでくる。


「……」

「な? わかるだろ」

「……っ」

「翼を振り向せて、長年の恋を実らせた事に比べりゃ、大して難しい事じゃねぇんだから」


 そう言って秋斗はこの家に入ってきて初めて、ふっと微笑んだ。
 そして本当なら俺を一発殴っていたはずの手は、ぽんぽんと俺の頭を撫でて離れていく。


「……うっ」

「昂介、傷に良くねぇから泣くな」


 込み上げるものを抑えきれずに眉を寄せれば、秋斗にそう怒られた。
 けど、こればっかりは自分ではどうしようもない。


「だ……って」

「オイ、勘弁してくれ。傷が開いたら、俺ぶっ飛ばされるどころの話じゃねぇんだけど」


 言わずもがな、それは父さんにという意味だろう。
 何しろ父さんはそれを懸念して、話し合いの場を自宅にしろと言ってきたくらいなのだから。


「オイ翼、何とかしろ」

「何とかしろっつったって……」


 翼は困惑したようにそうぼやきながら、嗚咽を堪えようとしている俺の隣に腰を下ろした。
 そして腰に腕を回してきて、ぎゅっと抱きしめてくれる。


「……っく」

「翼、逆効果になってる」

「あ? じゃあどうすりゃいんだよ」

「とりあえず涙引っ込めりゃいいんだから、ベロチューかますとか卑猥な言葉言わすとか、色々あるだろ」

「あぁ、なるほど。昂介、どっちにする? 公開ベロチューすっか」

「え」


 さっきまでの真面目な空気は突然霧散し、話は変な方向へと進み始める。
 思わずぎょっとして目を見開けば、翼はマジで唇を合わせてきた。

 あ、秋斗が……秋斗がそこで見てんのに……!
 え、ホントに?!


「ん……っ」

「おぉ、生チュー」

「あ……、翼、ちょ……っ」


 翼からのキスは嬉しいけど……嬉しいけど!
 さすがにこれは、めっちゃハズイ!
 俺は若干それを甘受しつつも、どうにか翼の胸板辺りを押して抵抗した。


「効果テキメンだったな」

「あ、秋斗っ! 翼に変な事言うんじゃねぇよッ」

「でも泣き止んだだろーが。やっぱ俺天才だな」

「オイ!」


 翼に解放されて、即座に秋斗に噛み付く俺。
 だけど秋斗は飄々とした様子で、ニヤリと笑うだけだ。

 やばい……超顔熱いんだけど。
 恥ずかし過ぎて目を泳がせていると、フッと笑いを漏らした翼が、額の傷が無い所にキスを落としてきた。
 それに対して、さらに真っ赤になる俺。

 と、突然リビングのドアが開いて、ジュースが乗ったお盆を持った母さんが入ってきた。
 後ろからは、父さんの姿も。


「あら……あらあら。こーちゃんったら泣いてたの?」

「な、泣いてねぇし!」

「何だと?! テメェら泣かしたのか!」

「違うって! 父さんうるさい!」


 突然割って入ってきた両親に恥ずかしさを覚えながら、慌てて立ち上がる俺。
 後ろでは翼と秋斗が、いつものように笑っている。

 ぶっちゃけまだ少し、傷は痛んでいたけれど。
 さっきまでモヤモヤとしていた胸の内は、いつの間にか晴れていた。


fin.
***

……ということで、その後の昂介たちの模様でした。
何だかんだで、昂介は皆に愛されてます。

あんまりヤマらしいヤマも無かったのですが(汗)、SSサイズなのでご了承頂けると嬉しいです(>人<;)

2011.12.4

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ