Wants 1st 番外SS
□Original TitleV
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43.彼らの実情
※先日完結した、湊×遥の短編番外『ハニーの実情』を更新している間に、「その後の翼と昂介を追って欲しい」というお声を複数件頂きましたので、SSで書かせて頂く事にしました。
・怪我を負った昂介は、パパ(昂司)と自宅待機中
・秋斗と翼は“白”の活動を終え、車で湊を寮に送り届けた後、昂介の家へ直行
……というところから始まります。
*
Side:Kosuke
ピンポンというチャイムの音が聞こえてきて、咄嗟に玄関に向かおうとしたら、父さんに「座ってろ」とドスの利いた声で指示された。
普段ならそれでも「俺が出る!」と反発するところなんだけど、今日はヘマをしてしまった手前、強く出る事が出来ない。
だから唇を尖らせてソファーでうなだれていると、しばらくの間を置いた後、くリビングドアが開いた。
入ってきたのは予想通り、父さんに連れられた翼と秋斗。
――ってか、秋斗怖ぇ!
目で人殺れそうな勢いなんだけど!
普段ヘラヘラしている事が多い分、秋斗のマジ睨みは本当に利く。
俺は反射的に目を逸らしつつも、ひたすらソファーの上で小さくなっていた。
「わかってると思うけど、昂介は殴んなよ。傷開くから」
父さんが秋斗にそう言ったところで、台所の方から母さんが父さんを呼ぶ声が聞こえてくる。
それに応じて父さんがダイニングへ向かい、リビングのドアが再び閉まったところで、秋斗は目の前にストンと腰を下ろした。
位置的には、ソファーにいる俺の方が目線が高いけれど。
全然、責められている感覚が和らぐ事は無い。
「――昂介」
「……」
「お前、下にいつも何つってんだよ」
「え……」
「持ち場でヘマしたり、視界に入る場所で重症者出したら、どうなんだっけ」
「……」
そう問われて、ぐっと言葉に詰まる。
でも、そう言われても仕方がない。
俺が担当しなければならない仕事内で、油断した事から傷を負ってしまったのだから。
「……降、格」
「だよな。その話からすると、本来ならお前も翼も降格なんだけど。お前が今回軽傷で済んだのは、ラッキーだっただけだし」
「……」
秋斗の言葉に対して、何も言い返せない。
向こう側に立っている翼も、一言も発しなかった。
リビング内には、嫌な沈黙が訪れる。
「もしお前らの代わりになるレベルのメンバーがいたら、俺は本当に降格させてたぞ」
そう言って秋斗は、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。
「特に昂介。お前は絶対、降ろしてたと思う」
脅しでも何でもなく、素で言われているということは、その目を見れば明らかだ。
俺はその瞳を見返したまま、ぐっと唇を噛み締めた。
――悔しかった。
昔からずっと、強い秋斗に……頭のキレる翼に追い付こうと、頑張ってきたのだ。
身体が小柄だから、喧嘩では不利だと言われれば、スピードが上がるように努力したし。
人を引っ張れる程の気迫が無いと言われれば、何とか「怖い」と思ってもらえるように気を張った。
メンバー全員の喧嘩時の癖も、性分も、弱点も……一人一人ちゃんと把握して、より強く信頼し合えるように努めているし。
ようやくここまで上り詰めて、秋斗たちに近い場所に立てるようになったのに。
そう思うと、悔しくて泣きそうになる。
「……っ」
「秋斗、悪かった」
何も言えないまま俯いた俺に対し、翼は一言だけそう言った。
秋斗はチラリと翼を振り返った後、もう一度俺の方に向き直る。
「……昂介は」
「……」
「……」
「……次は、無いようにする」
「約束は守れよ」
そう言うと、秋斗はそっと手を伸ばしてきて。
テープで固定されている額の辺りを、指先でするりと撫でてきた。
「お前が致命傷負ったら……しかも翼がいる時にそうなったら、翼は一生引き摺る事になるんだぞ」
「え……」
「翼がお前庇って事故った時の事思い出せば、わかるだろ」
そう言われて、はっと息を飲む。
今でもたまに――本当にたまにだけど、いまだに夢に出てくる時があるくらいなのだ。
激しいエンジン音と、それが人にぶつかる時の不穏な衝撃音。
ピクリとも動かなくなった翼の姿、閉じられた瞼……
思い出すだけでも、ズキズキと心臓が痛んでくる。
「……」
「な? わかるだろ」
「……っ」
「翼を振り向せて、長年の恋を実らせた事に比べりゃ、大して難しい事じゃねぇんだから」
そう言って秋斗はこの家に入ってきて初めて、ふっと微笑んだ。
そして本当なら俺を一発殴っていたはずの手は、ぽんぽんと俺の頭を撫でて離れていく。
「……うっ」
「昂介、傷に良くねぇから泣くな」
込み上げるものを抑えきれずに眉を寄せれば、秋斗にそう怒られた。
けど、こればっかりは自分ではどうしようもない。
「だ……って」
「オイ、勘弁してくれ。傷が開いたら、俺ぶっ飛ばされるどころの話じゃねぇんだけど」
言わずもがな、それは父さんにという意味だろう。
何しろ父さんはそれを懸念して、話し合いの場を自宅にしろと言ってきたくらいなのだから。
「オイ翼、何とかしろ」
「何とかしろっつったって……」
翼は困惑したようにそうぼやきながら、嗚咽を堪えようとしている俺の隣に腰を下ろした。
そして腰に腕を回してきて、ぎゅっと抱きしめてくれる。
「……っく」
「翼、逆効果になってる」
「あ? じゃあどうすりゃいんだよ」
「とりあえず涙引っ込めりゃいいんだから、ベロチューかますとか卑猥な言葉言わすとか、色々あるだろ」
「あぁ、なるほど。昂介、どっちにする? 公開ベロチューすっか」
「え」
さっきまでの真面目な空気は突然霧散し、話は変な方向へと進み始める。
思わずぎょっとして目を見開けば、翼はマジで唇を合わせてきた。
あ、秋斗が……秋斗がそこで見てんのに……!
え、ホントに?!
「ん……っ」
「おぉ、生チュー」
「あ……、翼、ちょ……っ」
翼からのキスは嬉しいけど……嬉しいけど!
さすがにこれは、めっちゃハズイ!
俺は若干それを甘受しつつも、どうにか翼の胸板辺りを押して抵抗した。
「効果テキメンだったな」
「あ、秋斗っ! 翼に変な事言うんじゃねぇよッ」
「でも泣き止んだだろーが。やっぱ俺天才だな」
「オイ!」
翼に解放されて、即座に秋斗に噛み付く俺。
だけど秋斗は飄々とした様子で、ニヤリと笑うだけだ。
やばい……超顔熱いんだけど。
恥ずかし過ぎて目を泳がせていると、フッと笑いを漏らした翼が、額の傷が無い所にキスを落としてきた。
それに対して、さらに真っ赤になる俺。
と、突然リビングのドアが開いて、ジュースが乗ったお盆を持った母さんが入ってきた。
後ろからは、父さんの姿も。
「あら……あらあら。こーちゃんったら泣いてたの?」
「な、泣いてねぇし!」
「何だと?! テメェら泣かしたのか!」
「違うって! 父さんうるさい!」
突然割って入ってきた両親に恥ずかしさを覚えながら、慌てて立ち上がる俺。
後ろでは翼と秋斗が、いつものように笑っている。
ぶっちゃけまだ少し、傷は痛んでいたけれど。
さっきまでモヤモヤとしていた胸の内は、いつの間にか晴れていた。
fin.
***
……ということで、その後の昂介たちの模様でした。
何だかんだで、昂介は皆に愛されてます。
あんまりヤマらしいヤマも無かったのですが(汗)、SSサイズなのでご了承頂けると嬉しいです(>人<;)
2011.12.4