Wants 1st 番外SS

□Original TitleU
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23.休み時間

Side:Keigo


 同じクラスの瀬那が、熱を出した。
 最近気温の変化が激しかったから、風邪をこじらせてしまったらしい。

 ということで、本日瀬那は欠席。
 普段教室では瀬那と二人でいる事が多い俺としては、かなり退屈だ。
 だからこうして休み時間にB組を出て、隣のC組に乗り込むのも致し方が無い事だと思う。


「おぉ、京吾くんだ!」

「川瀬ちゃん、おはよー!」

「あはは、おはよー」


 ちなみに隣のクラスでは特に、俺は人気者。
 テンション高めに声を掛けてくる面々に手を振り返せば、やたらと皆喜んでくれる。
 それは何故かというと――


「ゆーきっ」

「んだよケイ、さっきまで一緒にいただろ」

「えー、一緒にいたのは朝じゃん! 今はもう2時間目が終わったところ!」


 つれない由貴の態度に、俺はむすっと顔をしかめる。
 そう。このクラスの唯一のアイドル・由貴は、何を隠そう笑顔の安売りをしない、気難しいお姫様なのだ。

 そりゃ、普段ツン多めの由貴を見てるクラスメートたちは、たまにはデレ多めの俺に会いたくなるよね。
 ほんと、可哀相な市民たちだ。


「みぃくん聞いたー? どう思う? この冷たい子!」

「ははっ、由貴はムダに男勝りな所があるからなァ。ドンマイ京吾」

「何で俺が悪いみてぇな話になってんだよ。つかケイ、その群れたがる癖なんとかしろ」

「何でよ! 由貴冷たい! アキたちはいつも皆で一緒にいたもん!」

「……あー、なるほど。ルーツはそこか」

「まぁ神崎たちは、縄張り意識が強ぇからな」


 俺の言葉に頷く由貴と、補足を入れるみぃくん。
 何かよくわからないけど、俺はアキたちの方に分類されたらしい。

 嬉しいけど……嬉しいけど、ちょっとだけ疎外感。


「冷たい! 由貴の事こんなに愛してるのにー!」

「は? ちょ、うぜぇ!」

「うざい?! この俺に向かってうざい?! この甘党姫!」

「はぁ?! 今それ関係なくね?」

「昼前にチョコパイ食べてるくせに!」

「良いだろ別に!」


 ちなみに現在由貴は、俺の目の前でチョコパイを食べていた。
 約5センチ×15センチくらいの小ぶりなパイだけれど、中には結構濃厚な甘さの厚い板チョコがしっかりと入っている。

 今朝寮から教室に向かう途中、学食の購買に寄って買っているのを隣で見つつ、俺は昼食前によくそんなものを食べれるな……と何度目ともわからない事を思ったものだ。

 まぁ由貴のルームメイトを始めて随分経つし、今や常にスイーツらしきものが入っている冷蔵庫にも慣れたもんだけどね。


「次数学なんだよ。糖分補給すんの」

「由貴って、ホント数学嫌いだよね」

「やる意味がわかんねー。俺文系なのに、何でこんなマニアックな事まで覚えなきゃいけねーの?」

「それを言ったら、ほとんどの教科に対して言えることじゃん。専攻予定以外の教科の成績なんて、どれだけ我慢して頑張ったかっていう、ある意味我慢の勲章みたいなモノでしょ」

「なるほどー」

「え、みぃくんが納得するんだ」


 由貴の言葉に答えれば、何故かみぃくんが頷く。
 由貴はバツの悪そうな顔をして、もぐもぐとチョコパイをかじっていた。


「あー。我慢の勲章とかいらねぇから、数学だけはやりたくねぇ……」

「涼先輩があんなに成績良いんだから、手取り足取り教えてもらえばいーじゃん」

「……」

「あっ、もしかしてー、バカだと思われるのが嫌だとか?」

「っ、バカとか言うな!」

「えー。だって涼先輩を基準にすれば、赤点スレスレってほぼバカ認識じゃないの?」


 特にフォローも入れることなく指摘すれば、みぃくんに「容赦ねぇな……」とぼやかれる。

 えー、だって相手は由貴だし。
 基本皆由貴には甘いから、俺くらいは厳しく言ってあげないと。


「でもまぁ、涼先輩じゃすぐイチャイチャに持――」

「ケイ!!」

「あー、ハイハイ。じゃあ今度は、伸先輩に頼んでみれば?」

「無理。伸って地味にチクチク言ってくるし、わかってる前提で説明してくる内容がもうわかんねーもん」

「あー……めちゃめちゃ頭良い人って、そういう所あるよね」


 それこそ遥とかなら、すごいわかり易いって思うんだろうけど……って、あ!


「じゃあ今度、遥に習いに行こうよ! 俺たちの中で、一番アタマ良いの遥だし!」

「はぁ?! 勘弁してくれ、お前らが来たら、俺が遥とイチャつけねぇじゃん!」


 俺の提案に、即座に反応したみぃくん。
 ここに遥がいたら、きっと真っ赤になってバシバシやるところだろう。
 由貴に至っては、もの凄い蔑みの目でみぃくんを見てるし……。


「いつもイチャイチャしてるんでしょ、たまには良いじゃんー」

「無理無理、俺の癒しタイムを奪うな」

「みぃくんのケチー!」

「ちっせぇ男だなァ」

「は? 何で俺が悪い事になってんだよ!」

「今度遥と一緒にお風呂入って、あんな事やこんな事してやる!」

「え?!」


 俺の言葉に、あからさまに困惑顔を浮かべるみぃくん。
 由貴に至っては、「あ、今のはケイの独断だぞ。俺の意見じゃねぇからな」とさっさと手を引いた。


「京吾と遥が風呂……うーん……別に問題無いような、あるような……」

「オイ湊、コイツの風呂でのセクハラ具合ナメんなよ? 普通に(※ピー)掴んできたり、(※ピー)に(※ピー)してきたりするから」

「は?! マジで!! ……って、何でお前知って」

「由貴とはよく一緒に入るもんねー」

「まぁな」

「はぁぁぁ?!」


 焦るみぃくんはまぁ良いとして……
 あぁ、ちょっとふざけっこする場所間違えたかも。

 背後の、C組の連中がもの凄い聞き耳を立てている。
 若干生唾飲み込んでるし。一部鼻血出しそうだし。
 あーあ、俺知らなーい。


「由貴、背後に気を付けてね。襲われたら、涼先輩に愛のお仕置きされちゃうよ?」

「は?」

「あ、もうチャイム鳴りそう。俺教室戻るねー」


 ひらひらと手を振りながら、俺はさっさとギラついた目をする面々の前を通り抜けてB組へと戻る。
 矛先が俺に向いたら困るもんね。
 由貴みたいに、公の場でガンガン蹴りをかますっていうキャラでもないし。


「あ、でも……」


 あんまり周りを煽り過ぎても、涼先輩に注意されちゃうかも。
 よし、反省したということで、次の休み時間は遥のクラスに行こうっと。ちょっと遠いけど。

 瀬那にお見舞いメールを打ちつつ、俺はそんな事を考えた。


「……あれ、アキから着信――? ……もしもーし? え? ……先生から逃亡中? あははっ。話し相手になりたいけどー、俺もうすぐ授業始まっちゃうもん。……えぇ、愛はあるよ。あるって! ちょー愛してる。アキが一番よくわかってるでしょー? ねぇねぇアキ、今度の週末なんだけどさぁ……」


fin.
***

最早通称名は、「フリーダム京吾」ですね。
従順と呼ばれていた頃が懐かしい。

でも何だかんだで、一番人懐っこくって、皆を気に掛けてる子です。
ちなみに「※」は私が規制をかけました!笑

そしてチョコパイは、私が高校時代ハマってよく食べていたもの。
いかにも由貴が好きそうな味だったんで。
あーチョコパイ食べたいよー!

2011.9.11

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