Wants 1st 番外SS

□Original TitleU
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38.私たちの日常2

Side:ミカ


「昂介! 俺様が登・場!」

「えー……何その決め顔。秋斗うぜぇ」

「んだとコラ、カッコイイ俺様に向かって今何つった? あぁ?」

「自分で言うなって! つか痛ぇよバカ、ワザ掛けんな!」


 そして放課後。
 昼休みは食堂へ行ったから、残念だけど見られなかった“彼”の姿を、ようやく見る事が出来た。

 ――神崎秋斗。
 多分、この街で彼を知らない人はいない。
 昂ちゃんとは幼馴染みで、お昼はよくウチのクラスに来るし、行き帰りも基本的には一緒らしい彼。

 その日本人離れした容姿は、何度見ても見飽きる事は無かった。
 染めたにしては似合い過ぎる金髪に、ブラウンの強めな天然のヘーゼルアイ。
 陶器のような白い肌に無数のピアス、他の誰がやっても似合わないような制服の着崩し方も、さらりとこなしてみせる超絶美形。

 非の打ちどころがない顔立ちは、直視するには強烈過ぎる。
 それでいて喧嘩も昂ちゃんより強く、グループのリーダーを務めているというのだから、世の中って不平等なものだ。


「あー、目の保養」

「ね」


 エリと一緒に、しばし秋斗くんに見惚れた。
 あれはもう、次元の違う人だと思う。
 いわば、雑誌とかテレビとかスクリーン越しに見た方がしっくりきそうなタイプ。

 ちょっと前までは適当に女の子の相手もしてくれてたから、すっごい競争率だったけど。
 最近になって実はやっぱり本命の恋人がいたと発覚して、“神崎秋斗争奪戦”は終止符が打たれたのだ。


 しかも相手は、前から綺麗だと有名だった他校の男子。
 元々密かにファンが多かったとはいえ、彼が恋人だと知った時は、正直相当驚いたし即座には受け入れられなかったけど。

 でも、カッコイイなんて言葉じゃ追い付かないような別次元の彼には、きっと“彼女”がいなくて良かったんだと思う。
 不思議と秋斗くんのファンたちは、同性愛に免疫なんてほとんど無かったにも関わらず、「さすが秋斗くん、普通じゃ納まらないんだね」なんて意見に納まっていた。


 恐らくそれがどんなに完璧な子だったとしても、「あの神崎秋斗」の本命が普通に「彼女」だと知ったら、きっと皆嫉妬してしまう。
 そして、劣等感に苛まれてしまうだろうから。

 ある意味、私たちとは別次元の――性別を超えた彼が恋人で、良かったんだと思う。
 ホントに文句無しに綺麗な子だし、性格も良くて一途だって聞くし。


 彼の存在のお陰で、ウチの学校の女子は皆平等に、秋斗くんのファンという同列に並ぶ事が出来た。
 女子の戦争の火種なんてそこら中に転がっているのだから、大きな争いが一つでも減るという事は、普通に有難い。


「おーいー。秋斗止めろって、昂介イジメんなっつってんだろ」

「いって!」

「翼!」


 ぼんやりと取っ組み合っている昂ちゃんと秋斗くんを見ていたら、教室内にもう一人の男子が入ってきた。
 二人のもう一人の幼馴染み――梶本翼。

 すらりとした長身と大人びた雰囲気が特徴的で、特にその甘い声がたまらないというファンがめちゃくちゃ多い彼。

 ほんのりアッシュ掛かったダークブラウンの髪が、あんなにオシャレに見える高校生なんて他にいないと思う。
 しかもあの――昔はこの辺一帯をシメていた元不良グループのリーダーであり、今では絶大な人気を誇っているファッションモデル・「巳弘」の弟だし。

 そのDNAはしっかりと翼くんにも受け継がれているらしく、一つ一つのパーツがかなり揃っていて、普通に直視し難いくらいカッコイイ。

 ゴージャスな秋斗くんとクールな翼くんが並ぶと、そのコントラストにくらくらしそうになるっていうか。


「やばー! 翼くんマジ格好良い……!」


 年上好きなエリなんか、彼が教室に現れる度に目がハートマーク状態だ。
 いや、かくいう私もガン見中だけど。

 彼が留年して、もう一年この学校に在籍すると聞いた時は、女子はもの凄い歓喜したものだった――それこそ、校内女子全員に報告チェンメ(※)が回ってくる勢いで。
(※チェーンメール=次々と転送して回すメール)

 その原因は怪我による入院だったのだから、不謹慎極まりない話なんだけどね。


「ほら、行くぞ。机直せ」

「えー」

「えーじゃねぇよ」


 不貞腐れる秋斗くんの頭を軽く小突きながら、一緒に机を直してあげる翼くんはまるでお兄ちゃんみたいだ。
 それを手伝うようにいそいそと動く昂ちゃんも、普通に懐いた小犬みたいで可愛い。

 普段はそれなりに男の子っぽいのに、大人っぽい翼くんと並ぶと途端に子どもっぽく見えるんだよね。
 まぁそれは、気を許している幼馴染みの前だからでもあるんだろうけど……。


「昂ちゃん、バイバイ!」

「? あ、じゃーな!」


 三人そろって教室を出ていく姿を名残惜しく思いながら、唯一話し掛けられる昂ちゃんにぶんぶん手を振る。
 昂ちゃんは人懐っこい顔で手を振り返してくれて、その向こう側にいた秋斗くんや翼くんも、微笑むまではいかないけど、柔らかい表情で私の方を見てくれた。
 あぁ、私ってばちょー幸せ者。


「いいなぁミカ! 私も翼くんにバイバイ言いたい!」

「言えばいいじゃん、どさくさに紛れて」

「えー……」


 ……うーん、まぁね。
 確かに翼くん相手に、抜け駆けするのは危険かも。

 昂ちゃんは比較的友達が多い事で有名だからイレギュラーだけど、秋斗くんに恋人が発覚した今、翼くんは異様に女子の関心を引いているから。
 逆にそれが激し過ぎて、ウチの学校の女子内では現在「抜け駆け厳禁・彼らは皆の目の保養」という暗黙のルールが出来上がっている。

 まぁそれを言ったら昂ちゃんだって、「友達以上」の関係はやっぱりNGなんだけどね。
 もし誰かが彼らにリアルに迫ったりしたら、多分呼び出しじゃ済まないんじゃないかなぁ。
 あの三人組は、ある意味この学校の財産認識されてるし。


「昂ちゃんたち見送ったし、ウチらも帰ろっか」

「ん、帰ろ帰ろー」


 私はエリと二人で立ち上がり、さっき昂ちゃんたちが去って言った扉から廊下へと出た。
 下校する生徒でざわめく中、私たちも同様におしゃべりしながら昇降口へと向かっていくと――

「あ、ミカ! やばい今日ラッキーデー!」

「え?」


 目を輝かせたエリがネイルの光る指で差す方向を見てみると、新顔にして校内名物になってしまった、もう一つの美形グループの姿が見えた。

 誰もが王子様キャラと認める、見た目の綺麗さなら、秋斗くんに続くと言っても過言じゃない本城瑞貴。

 彼の魅惑の微笑みにノックアウトされ、転入してきてすぐにファンになった女子は数知れない。
 だけど友好的な雰囲気とは裏腹に、何を想っているのか計り知れないところが逆に魅力的だ。


 そしてその瑞貴くんと同じ日に転入してきたもう一人の美形、賀嶋漸。

 滅多に変化しないポーカーフェイスと、個性派なアッシュグレーの髪とカラコンが、人を簡単に寄せ付けさせないオーラを放っている。
 噂によればあの巳弘のお気に入りらしく、正門前に停まっていた彼の車に乗り込んでいったという目撃証言も後を絶たない。

 掴み所の無いミステリアスな転入生二人は、またたく間に秋斗くんたちとはまた別ジャンルで人気を博した。
 そして……


「お待たせしてすみませんでした、瑞貴さん」

「あ、やっと来た。遅いよ陽」


 誰かを待っていたらしい瑞貴くんと漸くんに向かって行ったのは、一年生の中で有名な、秋斗くんのグループ所属の男子――羽柴陽。

 漸くんに負けないくらいポーカーフェイスで、オレンジ色の髪と口ピが特徴的な彼。
 だけど唯一、瑞貴くんの前ではビックリする程優しい顔をするので有名だ。
 というのも……彼らもまた、性別を超えてカップルになったらしく。


「うわ、うわ! ちょ、どうしようミカ、とりあえず写メっとく?!」

「私ムービーにしとく。写メ頼んだ」

「オッケ」


 陽くんが現れたのを機に、漸くんが校庭へと出て行くと(多分彼は、陽くんを待つ瑞貴くんに付き合って待ってたんだと思う)、瑞貴くんたちは完全にイチャイチャモードに入り始めた。

 するりと両腕を陽くんの腰に巻き付けた瑞貴くんは、それはそれはもう蕩けそうな色っぽい微笑みを浮かべながら、上目遣いで陽くんに何か囁いている。

 キスするんじゃないかって距離で囁き合う二人は変に男くさくないし、何より二人とも綺麗な王子様顔だから、あの距離でイチャついていてもまったく問題無いっていうか。
 むしろ男女でも、あれだけイチャついてて周りが不快にならないカップルってなかなかいないと思う。
 って、


「きゃあああああ」

「あああぁぁぁぁ」

「いやぁぁぁぁッ」


 そこら中から悲鳴というか、歓声が上がった。
 何と、陽くんが瑞貴くんの唇を咥えたのだ。

 瑞貴くんもクスクス笑いながら、全然抵抗らしい抵抗をしないし。
 ていうか、ちょっ、マジでそんな見せていいの?
 ねぇいいの?! ならもっと見せて!


「はぁはぁはぁ」

「エリ息キモイ」

「王子の生チュー……!」


 だけど興奮してるのはエリだけじゃなくて、向こうの方でひっそり見てた女子集団(見た目は普通もしくはギャルだけど、実は趣味が共通でオタクだと有名なグループの子たちだ)が、とうとう野次を飛ばし始めた。
 もちろんその手には、私たちと同様に携帯が構えられている。


「年下攻めの公共晒しプレイ! もっとやれ足引っ掛けて押し倒せ!」

「そんなんじゃもう満足出来ない! ベロチュー激しく希望!」

「ちょ、今ズレたシャツの合間からキスマ発見!」

「いやーんたまんない!」

「マジ今日永久保存版なんだけど!」

「マジ今日永久保存版なんだけど! 大事なことなので繰り返してみた!」

「瑞貴たん可愛いよ瑞貴たんはあはあ」

「見た?! この状況で陽くんフッて笑ったよ! やばいアレ絶対鬼畜攻だと思う!」

「リアル年下ドSとか! 開花させた瑞貴たんGJ!」

「やっぱりリバップル疑惑ってデマじゃね?!」


 ……いや、マジであの子たちどうした。
 綺麗な王子二人の絡みは確かに目の保養だしドキドキするけど、彼女たちの目は本気でちょっと怖い。
 よくわかんない専門用語とか飛び交ってるし。

 結局その後三分程チュッチュした後、彼らは手を繋いで昇降口を出て行った。
 向こう側の彼女たちは完全燃焼したのか、燃え尽きてぐったりしている。
 そして私たちも、密かなコレクションが増えてほくほくしながらローファーに履き替えた。


「あー、今日は良い日だった! 明日も翼くん、教室入ってくるかなぁ」

「あはは、入ってくるといーねー」


 エリに相槌を打ちながら、私も今日はラッキーだったと上機嫌で校庭を歩く。

 秋斗くんと翼くんと昂ちゃん、それから瑞貴くんと漸くんと陽くん。
 この学校の倍率が、偏差値が低いわりにここ数年で思いっきり上がったのは、多分彼らの存在のせいだろう。

 まぁ、そりゃそうだよね。
 あんな美形は例え一人でも、一生のうちにナマで見れる確率は低いんだから。
 それが集団とか、マジでオイシ過ぎる。

 ちなみに私が、一番応援しているのは誰かと言うと……


「明日も、おはよって言えるといいな」

 
 パカリと開いた携帯の待ち受けには、一ヶ月前勇気を出してお願いしたら、快く承諾してもらえた写メが設定されている。

 ――棒付きキャンディーを咥えながら笑っている昂ちゃんと、同じく笑顔の私のツーショット。

 彼女じゃなくても、優しくて強い昂ちゃんと友達になれただけで、この学校に入って良かったって思ってる。

 ほとんど授業を受けない癖が付いてた私が、毎日教室に通えるようになったのも……無駄に他人の悪口を言わなくなったのも。
 実は、昂ちゃんのお陰なんだよ。

 なぁんて、照れるから口が裂けても言わないけどね。


「ミカ、帰りクレープ食べてこーよ」

「えー、エリこないだダイエットとか言ってたじゃん」

「今日は良い日だから特別!」

「うわ適当」


 そして私たちの明るい学校生活は、明日も続いていく。
 それってきっと、ゼータクな事なんだろうな。
 

fin.
***

完全BL派の方からしたら、初の女の子目線作品でしたねー(`・ω・´;)
どうだったでしょうか……。

NLもイケる方はご存じだと思いますが、どうしても私が書く女子って、ぶりっ子かギャルになっちゃうんですよね。何でだろ。笑

ちなみにミカちゃんは「オタク」という言葉をチョイスしてましたが、アレは正しくは「隠れ腐女子」ですw
ミカちゃんがその言葉知らなかっただけ^q^w

そして巳弘が、ほぼ芸能人扱いで呼び捨てな件。
さらに意外と、翼×昂介もバレても問題無いんじゃないかという件。

こっちの子たちは勉強は不得意ですが、ある意味素直で正直なので、順応性がある気がします。

2011.11.10

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