Wants 1st 番外SS
□Original TitleU
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33.The calm before...
Side:Yuya
「ふぁ……」
欠伸をしながら教室に入って行けば、一番前の席に座っている友達に「朝からやる気ねぇー!」とからかわれた。
いやいや、HR始まる5分前に教室来てる時点で、相当やる気はあるでしょ。超真面目じゃん。
しかも今日は初っ端から数学だし、その後僕の苦手なライティング、古典とそりゃーもう萎えてしまう授業が延々と続くわけで。
登校しただけでも偉いよね。
……普通だなんて言わないで欲しい。
世の中に当たり前の事なんて、一つも無いんだから!
とか上手い言い訳を考えてみる。
それにしても寮と学園の往復生活って、ホントに娯楽が少ないよな。
あぁ、実家のグッピーが恋しい。むしろグッピーになりたい。
いや、そんなグッピーが好きってワケでもないんだけど。何となく思い出しただけですけど。
「……おはよう、悠」
「あ、おはよう遥」
教室内の奥へ進んで行き、自分の席へ向かう途中、窓際に座っている遥が控えめに声を掛けてきた。
僕から「友達にして」と頼んだあの日から、律儀にも「おはよう」と「またね」は絶対に言ってくる遥。
やっぱり、根本的な育ちの良さっていうのは隠しきれないんだろうなぁ。
授業中も背筋が伸びていて凛としているし、黙って視線を伏せているだけでも絵になるし。
今突然この場にぶっ倒れて回転してみても平凡な僕とは違う、異世界在住の子だ。
……あれ、涙が。
「でもさ遥、それでも友達になれた僕だってそれなりに凄いよね?」
「え、なに……?」
試しにちょっとそう聞いてみたら、思いっきり不審な目を向けられた。
さらには「また意味不明な事考えてるの? 暇だね」というオプションまで付いてくる。
そう、遥は噂のツンデレなのだ。
遥みたいに存在自体がキラッてても、さらにオプションを付けなきゃ生き延びれない厳しい世の中なのならば、僕もちょっとは対策を考えなきゃダメだな。
うーん……俺のルックスのウリは、へいぼニズム(Heibonismと書く。僕が決めた)だから、 オプションはバランスを取って奇抜な方が良いんだろうか。
実は特技がマジックとか? いや、普通か。
遥レベルに合わせるとしたら――って無理無理、何で遥と並ぶ前提?!
身の程を弁えようよ僕! どんだけチャレンジャーだよ!
「相川……。あーいーかーわー!」
「え、わっ」
「早く答えなさい。問6に使う公式は?」
嘘だろ、いつの間にか授業が始まってる!
やばい、僕の特技って実は……タイムトリップなのかも――!
***
「……ねぇ悠。ちょっと聞いてもいい?」
「うん、何?」
「悠って裏口入学?」
「ぶっ」
「わっ! 汚いやめてよ!」
「いや、今のは遥が悪いと思うよ?! え、何で? ウチそんな金無いよ!」
「だって……あんまり、見た事が無いタイプっていうか……」
「あー、言わなくていい言わなくていい、それとなく自覚はあるよ。うん。あくまでそれとなくだって事にしてるけど」
吹いてしまった紙パックのイチゴ牛乳を机に置いて、僕は一つため息を零す。
――この学園は、この辺りじゃ有名な進学私立校だ。
もちろんその偏差値や進学率の評判が大きいわけだけど、それと同じく……いやもしかしたらそれ以上に、通う生徒に関しても色んな事が囁かれている。
カッコイイ、可愛い、綺麗……形容の種類は違えど、美形率がすっごく高いとか。
そこまでずば抜けた容姿でなくても、有名な家元のご子息だとか。
よくよく見ると持ち物が全部ブランド品だとか、エトセトラ。
とりあえず賢いという前提の元、その上金持ち・有名人・美形のどれかは確実にステータスとして持っているのが、この学園の生徒のデフォルトイメージだ。
だがしかし、僕どれも無いんだよねーあはは。
……あれ、また涙が。
「もうさ、記念受験みたいな感覚だったんだよね。母さんがミーハーで、すっごいこの学園に子どもを入れるの夢だったみたいで」
「ふぅん……」
「それがまさか、ホントに補欠合格するとは……僕が一番ビックリだったよ。お陰で第一希望の公立の合格蹴ってまで、学費の高いこっちに来るハメになっちゃったし」
「へぇ……」
僕のウチは、決して金持ちでは無いけれど。
貧乏って程でもなくて、それなりの……多分平均的な家庭だと思う。
だからこの学園への入学は、それなりに一家にとっては負担になったはずだ。
でもこの学園に入ったことで、何かと将来有利になるチャンスを掴めた生徒が数知れずいるのは、有名な話。
という事でせっかく起きた奇跡なのだから、ぜひとも頑張って卒業しなさいと両親に入学させられてしまったのだ。
ていうか一応実力で入ったんだけど、奇跡って酷いよね。自分の子どもに対して。
「でも悠は凄いよ。何だかんだで、上手くやってるわけだし」
「特に荒波立てられる程の何かが無いんだよ、平凡だから」
「なるほどね」
「遥……その即納得みたいな反応、結構傷付くんだって」
休み時間、窓枠に腰掛けて僕としゃべっている遥。
遥はクラスメート……と言っても一部なんだけど、入学当初はベタベタと慣れ合っていた連中に嫌われている。
客観的に見て、あの頃の遥は確かに態度が悪かったけれど、周りにいた奴らだって家柄に対して媚を売ってるのは一目瞭然だった。
だから僕からしたら、遥が急につるむ相手を変えたからと言って、 イジメようとするのはどうかと思ったのだ。
別にそこまで正義感が強いってワケじゃないんだけど、やっぱり同じクラスでそういう事が起きてるのを見てるのは気分が良くないし。
そう思っていたのは多分僕だけじゃないから、皆僕の行動に対しては何も干渉してこなかった。
一応、リスクはあったと思う。
僕も一緒にイジメられるとかさ。
でも幸い、平凡ながら僕は友達が少ない方じゃなかったし。
彼らもそんな僕をターゲットにすれば、自分たちの分が悪くなるのは明白だと思ったのだろう。
さらにはほら、僕の場合家柄も平凡だし。
遥に近付いたからと言って、「媚を売った」って評価される程のレベルの人間でも無いんだよね。
「でも僕からしたら……伸び伸び学園生活を送れる人って、羨ましくて」
「……」
聞き方によっては嫌味に聞こえるかもしれないけれど、遥の表情は至極真面目だ。
あの桜井家の息子なわけだし、僕には到底理解し得ない苦労も沢山あるのだろう。
平凡さが羨ましいって、アレだよね。
映画とかで、王子様お姫様クラスが言う発言だ……ってそれ何の映画だよ。
やばい、僕の密かな趣味がバレそう。
「この学園にいる間は、別に監視がついてるわけじゃないんでしょ? 適当に気ぃ抜いたり出来ないの?」
「うーん……まぁ、そうなんだけどね。何ていうか、もう身体に沁みついちゃってるんだよね。いつもしっかりしてなきゃ、みたいな感覚が」
「うわぁ、大変だぁ……遥ってホントお嬢様育ちなんだね」
「性別間違ってるけど」
「あぁ、性別ってややこしい!」
「ここは男子高だけどね」
「あははっ、遥ツッコむよねー!」
「……」
白い目をする遥の表情に笑っていたら、不意に教室の扉が開く音がして、その瞬間ざわざわしていた教室が不自然に静まり返った。
何事かと思って僕も遥も扉の方へと目を向ければ、何とそこには……
「お邪魔しまぁす、どうぞどうぞ談笑を続けて下さーい」
「京吾……逆に注目浴びてるよ?」
「あははっ、それは瀬那のルックスが原因だってー。この無自覚! はーるかーっ、テキスト貸してー?」
ま……眩しい! 直視したら目が殺られそうだ!
冗談みたいなキラキラを背負って登場した、この学園の宝と専ら噂の片平瀬那の腕を掴んで中に入ってきたのは、これまたこの学園のアイドルと噂の川瀬京吾。
遥とはまた違う種類なものの、ユニセックスオーラは最早美形軍団の中では流行りなのかもしれない。
もう男とか女とかどうでもいいや! と万歳をしている顔文字を足したくなる衝動に駆られる彼らを見ていると、ホントに同じ3次元の人間でごめんなさいと土下座したくなる。
いや、至近距離で見るとまた凄いインパクトだ。変な汗出てきた。
「もう、また? 京吾ちゃんと前日に確認しないと……」
「遥お母さんみたいだよねー。ちょーウケるー!」
え、女子高生?
「怒んないでー」と言いながら笑い、遥の腕に手を掛ける川瀬くんは、最早向かう所敵無しというイメージ。
甘え上手な男子高生とか、僕初めて見たよ。
すごいな……どこまで貪欲なんだ美形集団。
ルックス+αの要素が、強烈過ぎる。
「……あれ? 遥友達?」
「あ、うん。そう……」
「へぇ、同じクラスにも気の合う子が出来たんだね! 良かったー! これで一安心。ねぇキミ何ていう名前なの? 俺噂の川瀬京吾!」
えー、待ってこの人今自分で「噂の」って言ったよー!
でも即座に「おい!」とツッコめるほど僕はチャレンジャーじゃない。
慌てて窓枠から降り、ちょっと緊張しながら応えた。
「あ……相川悠也、だけど」
「悠也くんていうんだ。……うん、キミはあんまり下心とか無さそうだね。合格」
「ちょっと京吾!」
「京吾、初対面の人に失礼だよ」
突然僕に合格通達をした川瀬くんをキッと睨む遥、窘めるように肩を叩く片平くん。
あぁ、3人並ぶと凄い迫力だ。
「だってほらー、遥って放っておけないじゃん? 変な所で世間知らずだしー」
「そんな事無いから! ほら、はいテキスト。教室移動なんでしょ? 授業始まるよ」
「ありがとー遥ー! 超助かった愛してる! それじゃあ、またお昼にね。バイバーイ!」
「お騒がせしてゴメンね、遥。また後でね」
そう言って、嵐のように去って行った川瀬くんと片平くんに、苦笑しながらも手を振る遥。
うわー……うわー!
何か凄いものを間近で見た。今のを見れただけでも、軽くこの学園来た甲斐があるかも。
「ゴメンね悠。京吾、悪い子じゃないんだけど……」
「全然! ていうかチクショウ、何で僕写メ構えなかったんだ! 時間を巻き戻したい!」
「……」
「やっぱあの中にナチュラルに溶け込める遥って凄いよね! 何かロケ現場でも見てる気分だった。やばい今月良い事ありそー!」
まぁ、内心ちょっとは……やっぱり本来は遥は、僕とつるむなんて有り得ない人なんだなって、改めて思っちゃったりもしたけど。
雰囲気的に川瀬くんて、あれだけハキハキもの言っても嫌味な感じじゃなかったし、片平くんは礼儀正しかったし。
遥も僕を庇ってくれたし、何か総合的に嬉しい事ばかり知れた気がする。
平凡で穏やかな僕にとって、それは珍しく刺激的な体験だった。
「……あれ、悠。今帰り?」
「わ、こんばんは!」
その日の夜。
授業中がっつりトリップしていたせいで、相当鬼畜な量の課題を出されてしまった僕は、遅くまで図書室でそれを片付けていた。
まったく、先生も心が狭いよね。たったアレだけの事で、これは酷い。
「あんまり遅い時間にフラついたらダメだろ?」
「図書室にいたんですよ。課題やってて……」
「あぁ、そうなんだ。でもやっぱり、もう少し早く帰った方が良いよ」
「そう……ですかね?」
「そうですよ。ほら、じゃあB棟まで送ってあげる」
「え、そんな! 悪いですって!」
図書室を出てすぐに鉢合わせたのは、ちょっとしたキッカケから知り合った一つ年上の先輩。
彼もまたこの学園の生徒らしく、笑顔がとても爽やかなイケメンだったりする。
そりゃもう、女の子たちが大騒ぎしちゃうような甘いマスクなのだ。
「通り向かいの寮なんだし、悪いって言う程の事でもないだろ? それとも何、俺とは一緒に帰りたくないって?」
「まさかーっ」
「あはは、まさかなんだ」
にっこり微笑んだ彼につられて、思わず僕の顔も綻ぶ。
めちゃくちゃ課題を出されたのは、ちょっと災難だったけど。
今日は遥と沢山話せたし、川瀬くんと片平くんを間近で見れたし……先輩とも一緒に帰れるし。
ホント、総合的に見ればかなりのラッキーデーだ。
美形オーラを沢山浴びて、僕まで美形に……なれそうとかは言わないけどね、うん。
「先輩、いつ見てもカッコイイですよねー。いいなぁ」
「そう? 悠はいい子だね」
「あははっ、先輩のそういう、下手にそんな事ないよーって言わない所が好きです」
「俺も悠の、そういう正直な所が好きだな」
二つ並んで夜道に伸びた影を眺めながら、僕は笑う。
それは平凡ながらも、充分に幸せを見い出せる毎日の中にある、ほんの些細な一コマだった。
fin.
***
アホが増えた気がする(ノ∀`*アレー
癒し系どこいった。
頭の中がばーんな子なんですね、非常に残念です。笑
そして最後の先輩は、わかる方にはわかったかもですねー☆
ちょっとしたキッカケが何なのかは、まだベールに包んでおこうと思います。
様子を見つつ、この子をどうするか決める予定です。
2011.10.11