Wants 1st 番外SS

□Original TitleU
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29.大好き!

Side:Keigo


「多分秋斗、スゲー喜ぶぞ」

「あははっ、そうだといいなぁ」

「そうに決まってるって。何だかんだで、いつも淋しそうな顔してんだからさ」

「何それ可愛い! 今度写メってよ翼」

「バカ言え、んな事したらぶっ飛ばされる。ただでさえ昂介とイチャついてんと、僻まれんのに」


 弾んだ気分で、そわそわしながら窓の外を見遣る。
 翼の車の後部座席にて、現在俺はサプライズをし掛ける直前だ。

 今日は日曜なんだけど、ウチの学園では学力を計る校内模試をする日で、休日登校だった。
 もちろん昨日はその勉強で忙しかったから、いつもの週末デートはナシに。

 それを言った時のアキの拗ねようと言ったら、かなりのものだったけれど。
 でも実は、明日は振替休日だったりする。
 しかも先生たちの計らいで、最近試験で潰した祝日分の振替も繋げて、連休っていう。

 アキたちは普通に明日から学校だから、一日中遊べるってわけでもないけど……それでもやっぱり会えるのは嬉しい。

 だから嬉しさ倍増計画ということで、今回アキにはこの事を内緒にしておいたのだ。
 その旨を翼にだけ教えて迎えに来てもらい、今から溜まり場にいるらしいアキを突撃訪問するところだった。


「どうしよう翼、どうやって登場しよう?」

「俺に隠れてくか?」

「それいい!」

「ははっ、安易過ぎるだろ」

「あー、超楽しみっ」

「つか、どんだけ初々しい事してんだよ」

「えへへっ、こういうのも大事でしょ?」


 ハイテンションのままドライブを続けていると、間もなく車は静かに停車して。
 俺は翼に連れらて、ドキドキしながら久し振りの溜まり場へと向かった。
 あぁ、どうしよう。すっごく楽しみだ。


「あ、どうせならピアスとか持ってきて、助手席に置いてくれば良かった」

「あ? 何だそれ」

「昂介が発見したら、一悶着だよね。恋の激辛スパイス的な」

「キョウ、頼むから面白半分でそういう事すんなよ? 相手が昂介の場合、シャレになんねぇし……つかマジで何もしてねぇよな?」

「酷っ! まだやってないよー!」

「まだって……あー、そういやキョウって、そういう巧妙な悪フザケを思い付くヤツだったよな。可愛い顔して」

「えー、そうだっけー?」


 軽い足取りで、翼の腕を掴みながら歩いていると、溜まり場の前にたむろっていたヤンキー……多分メンバーであろう子たちが、ざわっとする。
 やたらとこちらを凝視している辺り、新人の子たちかもしれない。


「あれって新人クンたち?」

「おう、先週10人くらい一気に採用してな。今のは午前中に顔合わせした奴らだ。残りが今、中に呼ばれてる」

「って事は、オーディション期間クリアしたメンバーなんだ」

「あぁ」


 “オーディション期間”というのは、いわゆる“白”メンバーとしての試用期間だ。
 そこをクリアしないと、トップのアキとは顔合わせをさせてもらえない。

 そしてそのステップに進んだ時点で初めて、写真等で俺や涼先輩たち、それから由貴たちの顔も覚えさせられるはずなのだ。
 さっき俺の顔を凝視していたのは、きっと覚えたばかりの顔だったからだろう。


「ていうか、それなら今行ったら邪魔かな……?」

「いや、結構前に始めたし。そろそろ終わるんじゃねぇ?」

「そう?」

「秋斗はキョウ最優先だから、心配すんな」

「あはは、ありがとー」


 ぽんと大きな手を頭に乗せられて微笑めば、穏やかな瞳を細めて微笑み返してくれる翼。
 俺にとっては勿論アキが一番だけど、翼もやっぱり良い男だよね。
 お兄ちゃんって感じで、昂介が惚れ込むのもわかる気がする。


「よし、入るぞー」

「わー! 隠して!」

「ガキかよ」


 笑う翼の腰辺りにヘバりついて、そっと建物の中へと足を踏み入れた俺。
 中は少しざわざわしていて、いつもよりひと気があるみたいだった。


「あれ?」


 最初に声を掛けてきたのは、昂介。
 恐らくさっき聞いた新人くんたちであろう連中と一緒に、何やら資料を囲んでいる。


「ただいま。秋斗は奥?」

「おう。つかキョウちゃ――」

「シーッ」


 どうやらアキは、幹部用の部屋にいるらしい。
 多分ここでの話声はそこまで聞こえないだろうけど、俺は念には念をと人差し指を口元にあてた。


「サプライズ訪問なんだとよ」

「あぁ、なるほど!」


 翼にそう聞いて、にっこりと笑う昂介。


「きっと喜ぶよ。さっきも秋斗、ちょー拗ねてたもん」

「ほんと?」

「うん、『京吾と会えると思って、一週間頑張ったのにー』とかブツブツ言ってた」

「勉強も適当にしかやんねぇくせに、何を頑張ったのかは謎だけどな」


 小声でアキ情報を教えてくれた昂介に、翼も小声で答える。
 俺は忍び笑いを零しながら、翼の後について幹部室へと向かった。


「秋斗ー、戻ったー」

「おー」


 おぉ、翼ってば役者!
 至ってナチュラルにそう言いながら部屋に入っていく様子を、むしろ傍観者の昂介の方が向こうからそわそわしつつ見守っている。
 ちなみに翼の影からこっそり盗み見たアキは、ソファーで何かファイルに視線を落としたままだ。
 全然、こっちには気付いていない。


「秋斗、優秀な俺からお届け物があるんだけど」

「……はぁ?」


 翼の言葉の後、一瞬の間を置いて顔を上げたアキ。
 その瞬間に走り出した俺は、そのままアキに飛び込んだ。


「うぉっ?!」

「アキー!! ちょー会いたかった!」

「は? ……は?! 京吾? なん……え、マジで!」

「えへへー」

「え、マジ?! 何、京吾じゃん!」


 俺を抱き止め、驚いて目を見開いていたアキの顔が、みるみる嬉しそうな笑顔に変わっていく。
 それが嬉しくて嬉しくて、俺はぐりぐりとアキの肩口に顔を擦り付けた。


「やべぇ超可愛いんだけど! 翼見ろよ! スゲー可愛い!」

「はいはい」

「つかマジでテンション上がった! え、何でココにいんだよ京吾?!」

「俺ねー、明日明後日連休なんだぁ。お泊まり出来るよ?」

「は?!」


 それから俺は、今回のサプライズ内容をアキに教えてあげた。
 一部始終を聞き終えたアキは、それはもう盛大に喜んでくれて。


「っとに、やる事為す事可愛いなお前は! どうなってんだよ!」

「やだもー、止めてよー!」

「……なぁ、俺もう退場していい?」


 ジャレついてくるアキとイチャイチャしてたら、後ろから呆れたような翼の声が聞こえてきた。
 やば、ちょっと忘れてたし。


「ごめん、翼! 車出してくれて、本当にありがとう」

「いやいや。秋斗の面倒みてもらえるんなら、こっちも万々歳だ。つか秋斗、せっかくだから新人に顔覚えさせとけよ。写真よりナマの方が覚えるだろ」

「あー、そうだな。京吾、おいで」

「うん!」


 こくんと頷いてアキについて行けば、また「マジ可愛いー……」と頭を撫でられる。
 甘やかしてくれるいつもの優しいアキに、何だかキュンとしてしまった。
 アキこそ、本当にカッコイイ。

 部屋を出れば、密かに様子を伺っていたらしい昂介に口パクで「良かったね!」と微笑まれる。
 俺はにっこり微笑み返しながら、大きく頷いた。
 直後には、引き締まった顔で新人を集合させる昂介。


「さっき覚えてもらった中の、川瀬京吾ってこの子な。秋斗の一番大事な子だから、きっちり覚えておけよー」

「キョウに何かあったら、基本ウチは全面戦争になるから」


 昂介と翼の言葉に、ごくりと生唾を飲みながら俺を見つめてくる新人くんたち。
 俺はアキの腕を掴んだまま、「よろしくね」と微笑み掛ける。
 と、いかつい「宜しくお願いします!」という声が次々に返ってきて。


「ほ、ホントにこの人が、元スパイかよ……?!」

「つか男……?」

「目ぇでけぇ……」

「可愛い……」


 どうやら新人くんたちの趣味にも合ったらしい。
 内心ほっとしながらアキを見上げれば、アキも甘い視線を向けてくれた。


「んじゃ昂介、あと頼んで大丈夫だな」

「任せとけー」

「翼も頼むな」

「おう」


 それからアキは緊張した面持ちで直立している新人くんの一人の肩をぽんと叩くと、「またな」と声を掛け、俺を連れて溜まり場を出た。
 どうやらアキのお仕事は、丁度終わったところだったらしい。


「このまま直帰でいいよな? 早く二人になりてぇんだけど」

「うん、俺もそうしたいー」

「……しかし可愛いな。ちょっと見ないうちに、また可愛くなった気がする」

「あははっ、何その贔屓目! 素晴らしいね」


 やたらと髪を撫で回してくるアキに笑いながら、二人でアキのマンションへと向かって歩き出す。
 ちなみにアキの肩には、俺の荷物が引っ掛けられていた。

 同じ男同士なのに、当たり前のように気遣ってくれる所が、本当に優しいしカッコイイと思う。
 俺は満面の笑みを浮かべたまま、アキの隣を歩いた。

 多分男同士にしては明らかに近い距離で歩いていると思うんだけど、身長差や顔立ちで余計に歳が離れて見えるせいか、通行人は微笑ましいとでもいうような視線を向けてくる。
 ので、その状況に甘えて俺はかなりアキにジャレついた。

 俺がちょっかいを出すと、アキってばすんごい嬉しそうな顔をしてくれるし。
 普段あんまり会えない分、出来る限り喜ばせてあげたいんだよね。


「ほら、コケんなよ」

「コケたら受け止めてー」

「それオイシイな。やっぱコケろ」

「わっ、ちょ、危ないじゃんー!」


 上機嫌に構ってくるアキに笑顔で答えつつ、ちょこちょこ隣を歩く。
 いや、170に届いていないとはいえ、俺そこまでチビじゃないと思うんだけど……何しろコンパスの差がね。
 アキって絶対、顔だけじゃなくて足の長さも日本人の域を越えてると思う。
 こんなカッコイイとかずるい……いや、俺の彼氏なんだし、まぁ良いのか?


「何考えてんだよ?」

「え?」

「ほら、もっと俺を構え」

「あははっ、何それー!」


 おかしな俺様主張に笑いつつ、おしゃべりしながらしばらく歩いて。
 いつの間にかアキの住むマンションの部屋の前にたどり着き、やっぱりふざけ合いながら中へと入った。
 玄関で靴を脱ぐと同時に、鍵を掛けつつ荷物を床に置いたアキ。


「アキ、ありが――」


 荷物を見てそう言い掛けた瞬間、肩を押されて壁に背中がぶつかった。
 びっくりして目を見開いた時には、ぴったりと重なっていた唇。


「……っ……」


 そのまま唇を緩く吸われて、恥ずかしい程綺麗にリップ音が響いた。
 綺麗なヘーゼルの瞳が、真っ直ぐに俺の顔を映し出している。


「……」


 その圧倒的な雰囲気にのまれていると、もう一度唇が重ね直された。
 二回、三回、四回……
 繰り返される、いかにも恋人同士らしい甘いキスに、もう付き合って随分経つというのに鼓動が速くなっていく。


「ん……、アキ……っ、ね……」


 中に入ろう、という言葉が続かないくらい、キスの雨が降ってきて。
 それはどんな饒舌な言葉よりも、愛情が伝わってくる行為な気がした。

 俺は思わず笑みを零しながら、ぎゅうっと目の前の最愛の人に抱き付く。
 と、アキは俺の身体を抱き上げて、リビングの方へと運んでくれた。


「もう、アキってば……」

「お前が歩きながら、散々煽ったからだろ」

「えー?」


 俺はソファーに腰を下ろしたアキの膝を跨ぎ、向かい合う状態で座らされる。
 どこまでも愛情に満ちた視線に捕われて、俺は只今幸せ絶頂って感じだ。


「……会えると思ってなかったから。スゲー嬉しい」

「俺はアキが喜んでくれて、すっごく嬉しいよ」


 そっと髪を撫でてくれるアキの指先が優しくて、思わず目を細める。
 しばらく無言のままじっと見つめ合った後、俺たちはもう一度濃厚なキスを交わした。

 何年経っても、好きだって気持ちは溢れてくるばかりで。
 会える日が制限されている今は尚更、一緒にいる時間は甘い空気で満たされるようになった。


「連休だっつってたよな?」

「ん。ここで待ってるから、早く帰ってきてね」

「つか学校はサボる」

「え?! だ、ダメだよ!」

「せっかくお前が休みなのに、行ってる場合じゃねぇって」

「えー! でも、出席日数とか……」

「これでも俺、意外と登校はがっつりばっちりしてるワケ。そりゃ、結構授業もサボってっけど……」

「ほらー! ダメだよ、ちゃんと出ておいで?」

「……」

「ア〜キ〜……」

「わかった、じゃあ譲歩し合おう。ヤバイ授業だけ出て、早退してくるってのは?」

「うーん……まぁ、いっか」

「よし、それで決まりな」


 それで本当に良いのかは微妙だったけど、確かに滅多に無い事だしね。
 俺は苦笑しつつも、俺との時間を優先してくれるアキの気持ちが嬉しくて、その肩口に額を擦り付けた。


「あー……チクショウ、可愛い……」

「ははっ、アキそればっかりー」

「ほんと、お前が可愛くて仕方無ぇんだよ」


 そう言って苦笑しつつ、ぎゅっと抱きしめてくれる頼もしい腕。
 100パーセント向けられてくる深い愛情に、俺の心臓はまた、少しずつスピードを上げていった。


「じゃあ、この二日間はいっぱい一緒にいようね」

「当たり前だろ。多分テレビ観る暇も無ぇから、覚悟しとけ」

「ほんとー? それ凄いね?」

「だろ。愛情漬けにしてやる」

「ふふ、充電だー!」


 きっとアキの言う通り、この二日間はドキドキしっぱなしで、楽しくて幸せな時間が続くんだろうな。
 そう思うと、自ずと顔が綻んできて。

 衝動のまま、「大好き!」と伝えれば……
 アキもまた、俺を喜ばせる言葉を返してくれた。


fin.
***

自分が体調不良の為、ハッピー感の溢れるお話を書きたくなって、ばばーっと書いてみました。※私的過ぎる動機

秋斗×京吾は、相変わらず仲良しです☆
本当はサボりはダメですが、今回は特別にという事で!
にしても、京吾はサプライズ好きだ^q^

2011.10.3

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