Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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6、Drunk Love

Side:Tsubasa


「ただいまー……」


週に数回ある、巳弘のバーを手伝う日の夜。
法律に従ってきっちりと22時で上がり、直帰したアパートで、俺は呆然と立ち尽くしていた。

いつも通りの我が家、いつも通りのリビング。
そして予想通りの訪問客――俺の恋人である昂介と、巳弘の恋人である漸。

そういう意味では、何ら不思議は無かったのだが。
それでも言葉を失ってしまったのは、ひとえに目の前の光景の意味がわからなかったからだ。


「あー、つばさ帰ってきたーー」


いつもより3割増しの甘ったるいトーンで、舌ったらずにそう言った昂介は、にこにこと笑いながら両手を広げていて。
その頬はすっかり上気していて、いつもはくりっとしている瞳もとろんとしている。

ちなみに奥のソファーでうたた寝をしている漸も同様に頬が上気し、無防備に投げ出された肢体からはやたらと色気が放たれていた。

一体、何が起きたというのか。
とりあえずソファー向かいの床に座っていた昂介に歩み寄りながら、俺は辺りに視線を巡らせる。


「んー、つーばーさー……」

「ハイハイ……つーかお前」


めいっぱい広げられた腕に応えるように、とりあえず腕を伸ばしてやれば、昂介はまるで小猫のようにじゃれついてきた。
普段なら緊張して、絶対にしてこないような仕草。

そして昂介が俺の肩口にぐりぐりと額を擦り付けてきた瞬間、俺は大体の事を把握した。
原因は、昂介からふわりと漂ってきたアルコールの香りだ。

俺はくっついて離れない昂介を引きずりつつ、冷蔵庫を開けに行く。


「……やっぱり」


そこに入っていたのは、半分くらい無くなっていたブランデーケーキで。
実は今日の帰り、学校の門の所で出待ちしてた女子高生に、「差し入れです!」とか言ってもらったんだよな。

ちなみにその子は珍しく秋斗じゃなく、俺のファンらしかった。
俺があんまり甘い物好きじゃないって事は結構知られているから、恐らく洋酒風味のものにしてくれたのだろう。


「……って、酒強ッ」


ボックスに雑に掛けてあったラップを剥がして、一欠片口にしてみれば。
じわりと口内に、アルコールの味が広がった。
スポンジが吸収してる酒の量が、ハンパじゃない。

よくコレを差し入れる気になったな……
あれだな、「味見はしてません」ってヤツ。
手作りって怖ぇ……。


「つばさぁー、かまってよー!」

「……」


いや、今の問題はコイツだ。
ていうか何で昂介と漸が、こんな酒の強いケーキを一緒に食べたんだろう……成り行きを詳しく知りたい。
まったく想像がつかねぇ。

この状況に若干呆れつつも、へらへらと笑っている昂介の両脇に手を差し入れて、ぐいっと肩に担ぎ上げた。


「たーかーいーッ」

「こら、暴れんな!」


幼児のように手足をパタパタさせる昂介を叱りつつ、とりあえず漸にはそばにあったタオルケットを無雑作に掛け、リビングの照明を間接照明に切り替えてから自室へと向かう。

その間も、ずっと昂介はパタパタし続けながら上機嫌に笑っていた。
つーか、酒弱過ぎるだろう。


「ほら、ったく。大丈夫か? 水飲むか?」

「んぅー……つばさぁ」

「ん」

「ちゅー……」


……オイオイ、マジで酔っ払いじゃねぇか。
降ろしてやったベッドの上に両手そろえて着き、目を閉じて唇をこっちに突き出してくる昂介。
まぁ可愛いけど、酔っ払い相手に手ぇ出すっつーのも……。


「んー……」


困惑して固まっていると、昂介は再びとろんとした目を開き、不満気な顔をした。
拗ねた口が、思いっきりアヒル口になっている。

……クソ、やっぱ可愛いな。


「してよぉー……」

「……」

「つーばーさー!」


そう言いながら四つん這いで迫ってきた昂介は、ベッドに腰掛けていた俺の膝に乗り上がった。
対面状態になると早々に、唇を押し付けられる。
その柔らかな唇で俺の唇を食む仕草は、どこまでも無邪気だ。

……無邪気過ぎて、子どもとイケナイ事をしてるような錯覚さえ覚えてしまう。
いやダメだ、ここで興奮したら変態の仲間入りな気がする。


「……ほら、昂介。いい子だから……」

「へへっ、いいこー?」

「ん、いい子いい子」

「おれいーこーっ!」


何がツボったのか、満面の笑みで身体を上下させて喜ぶ昂介。
いや、俺の膝の上でその動きは何つーか、


「つばさ、いーこすきー?」

「ん……?」

「すきー?」

「あ、あぁ……」

「おれも、つばさが……」


そう言いながら、ますます目をとろんとさせる昂介。
危うい呂律でしゃべる度に、赤い舌が眼前にチラつく。


「つばさが、すきぃ……」

「……」

「すき、だーいすき」

「……昂介」

「すきすきすきー」


ふにゃふにゃ笑いながら、首元にチューチューと子どもっぽいキスをしてきた昂介。

……これ、俺に罪は無ぇよな?
むしろ、結構耐えた方じゃねぇ? 


「……なぁ、昂介」

「んー」

「気持ち良い事、するか?」

「んーするー」


許可も取ったし。
何の問題も無ぇ。むしろオールオーケーだ。


「よし、じゃあ俺と遊ぼうな?」


そう言って微笑んだ(つもり)の俺に、嬉しそうに再び「すき」を繰り返し始めた昂介。

その後今度はポロポロと涙を流されても、なかなか虐めるのを止められなかったのは、絶対俺のせいじゃないと思う。


「あ……れ? か、身体が、動かない……?」


だから翌朝目が覚めた瞬間、昂介が自分の身体の状態に混乱したのも、もちろん俺のせいじゃないと思う。


fin.

***


若干ショタ風味になってしまったんですが、これ何て現象……?

でも昂介は、絶対こういうタイプだと思う。
そして漸は爆睡タイプ。
遥はぼんやり放心しちゃうタイプで、京吾と由貴と瑞貴は誘惑タイプ的な。
多分瀬那も、昂介と同じ酔い方するだろうなぁ……。

2011.7.30

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