Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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5、溺愛Lover

Side:Keigo


「え、アキが?!」

「悪ぃな、キョウ。巳弘が強引で……」


週末の放課後。
いつものように学園の正門近くまで迎えに来てくれた翼の車に乗り込みながら、俺は目を見開いた。


「今日はハーフのモデルと撮影だったらしいんだけど、体調不良で急にキャンセルになったんだってよ」

「あぁ、だからアキに声が掛かったんだ……」

「やっぱ黒じゃねぇ瞳のモデルって、貴重なんだろうな。……って、秋斗はモデルじゃねぇけど」

「でも、定期的にピンチヒッターで使われてるよね」

「まぁ頭悪くても顔は上出来だし、肝が据わってっからな」

「あはは! 翼何気に酷いよー」


珍しく翼と俺だけの車内。
俺が乗る時は大抵助手席には昂介、隣にはアキがいるから、二人だけだとやっぱりちょっと淋しく感じる。

ちなみに昂介は、お母さんの買い物の荷物持ちに引っ張っていかれたらしい。


「行く前、『これから京吾と会うのに』ってかなり駄々捏ねてたけど」

「あはは、すっごい想像つく。けど、巳弘さんには逆らえないんだよね」

「巳弘荒っぽいからなァ。アイツ引退してんのに何で筋肉落ちねぇのか、マジ不思議」


今でこそバーの店主兼モデルをやっている巳弘さんだけど、元々は誰もが憧れた“白”の初代リーダーだ。

その噂は最早伝説みたいになっていて、今でも大抵の不良は口をそろえて、一度でいいから直接話をしてみたいと言うくらい。
無敵だって言われている涼先輩ですら敬意を払っているし、アキだって悪態は吐いても逆らったりはしない。

だから今日もきっと、アキはもの凄い拗ねつつも同行したのだろう。
その類稀なる華やかなオーラと、クウォーターとは思えないような日本人離れした容姿は、どこへ行っても人目を引く。

巳弘さんのはからいで正式なモデルにはならずに済んでいるみたいだけど、話によれば事務所の秘蔵っ子のような扱いを受けているらしい。


「はぁ……また女の子たちが群がっちゃうなぁ」

「まーな。でも秋斗は、キョウ以外まったく興味無しだから大丈夫だろ」

「うん……」


確かにアキは付き合った当初からずっと、俺を溺愛してくれている。
けど、何かの拍子にこのバランスが崩れてしまったら……って思わずにはいられない。
アキに「もう興味が無くなった」なんて言われた日には、きっと俺は立ち直れないと思う。
あんなカッコ良くて強くて優しい彼氏、もうどこに行ったって見付からないよ。


「うわ、サイアク」

「どしたの?」


赤信号で止まっている間に携帯を開いた翼が、その画面を見て顔をしかめた。
どうやらメールが入っていたらしい。


「撮影もう終わるってよ。秋斗拾ってけとか言われた」

「え?」

「自分はデートだから送るのメンドイとか言って……どんだけ俺様だよアイツ」

「あはは! 巳弘さんらしいや。ていうか、終わるの早くない?」

「いや、今日俺たち午前授業だったんだよ。だから昼過ぎには、秋斗拉致られてったから」

「そっか」


翼は溜息を吐きながら行き先を変更し、アクセルを踏み込む。
翼的にはアンラッキーかもしれないけれど、俺的にはラッキーだ。
一刻も早く、アキに会いたいし。


「俺だってこの後デートだっつーのー」

「そうなの? 昂介とどっか行くんだ?」

「いや、家デート」

「うわ。それをデートとか言っちゃう辺り、翼もラブラブだね」

「ははっ、そうかもな」


ゆったりとした運転で車はどんどん進んで行き、俺はまだ1〜2回しか来たことの無い撮影スタジオが入っているビルへ向かっていく。
警備員が立っている屋内駐車場へ真っ直ぐに進んだ翼は、窓を開けて何かを提示したようだった。


「来慣れてるねー、翼」

「ついでがある時は、巳弘の車じゃなくて俺の車で来るからな。一応俺も関係者扱いらしい」

「そういえば事務所の社長さんに、翼もモデルにって誘われてるんだっけ?」

「あー……あの人しつこいんだよ。俺は本気で無理」

「何で? 普通に翼もカッコイイじゃん」

「カメラの前で、『俺カッコイイから』なんて自信満々な顔出来るキャラじゃねぇだろ」

「あはは!」


笑っているうちに、車は停車して。
それと同時にタイミング良く、俺の携帯が鳴った。
着信元は、アキ。


「もしもーし!」

『京吾、今どこだ?』

「今駐車場に停まったところだよ」

『マジか。んじゃすぐ向かうわ。どの辺?』

「えっとね――」


俺は翼に聞きながら、車が停まっている大体の場所をアキに伝える。
そして、待つ事約10分。
話をしていた翼が、不意に窓の外に視線を遣った。


「あれ秋斗じゃねぇ?」

「え?」


その言葉に反応して、すぐに俺も視線を走らせれば……


「え……え?!」

「ははっ! あいつホストみてぇだな」


アキは、真っ黒なスーツに身を包んでいた。
いつもカジュアルでビビッドな服を着ているから、フォーマルって何だかもの凄い珍しく感じる。

まぁネクタイは無いし襟元は開いているし、ピアスだらけだからフォーマルとは言えないかもしれないけど。


「お帰り、アキ!」

「おー、ただいま」


窓から乗り出して両手を広げれば、ゆっくり歩み寄ってきたアキは身を屈めてチュッと軽くキスをしてくれた。
嬉しくってぎゅっと抱きつくと、「お前らせめて車内でやれ!」と翼が即行ピリピリし始める。


「んだよ翼ー。別に回りに誰もいねぇよ」

「そういう問題じゃねぇよ。モラルの問題だ」

「ムッツリがモラルとか言ってる」

「テメェぶん殴んぞコラ」

「きゃー怖いわー」


いつもの調子で翼に軽口を叩くアキが隣に乗り込んできて、車は再び発車。
俺はまじまじと、見慣れないアキを観察した。

黒地のスーツはよく見ると薄く細いストライプが入っていて、袖口とかポケットの辺りもさり気なくデザインされている。
何よりタイトなシルエットがモダンで、かなりオシャレだ。

そして第三ボタンまで開いた襟がシャープなYシャツ、鎖骨の辺りで揺れると真っ黒なチタンにシルバーラインが入っているプレートのネックレス。
そのラインには、誰でも知っている一流ブランドのネームが入っていた。

全体的にモノトーンでコーディネートされているけれど、金髪とヘーゼルアイが自然なアキが着るとすごく華やかだ。
上品だし、大人っぽく見える。

スーツは元々ロンドン発祥だっていうだけあって、やっぱり西洋系の顔をした人が着ると全然違って見えるんだな……。


「……京吾、見惚れ過ぎ」

「いや、だって超カッコイイよ。惚れ直した」

「マジで?」


正直に感想を言えば、アキは上機嫌に俺の腰に腕を回してくる。


「急に呼び出したお詫びに、事務所の人が買い取ってくれるって言ってさ」

「そうなの?! 得したねーアキ!」

「あんまそう思わなかったけど、お前が見惚れてくれんならもらって良かった」


そう言って、こめかみに唇を押し付けられる。
普段より艶っぽい雰囲気を醸し出しているアキに、心臓がドキドキと高鳴った。


「ん……アキ」

「こっち向け」


首筋に顔を埋められ、くすぐったさとほんの少しの快感が混ざり、身体がぞくりとする。
思わずアキのスーツに手を掛ければ、今度は顎をすくわれた。


「あ……んぅ……」


すぐに挿し入れられた舌先。
どこまでも俺を甘やかすような緩い快感に、思わずうっとりとしてしまう。
そして衝動のままアキの首に両腕を絡めたところで、車が信号に掛かってゆっくりと停車した。


「お前ら……俺はお抱えの運転手じゃねぇんだぞ?! 窓がスモークになってるからって、好き勝手しやがって」

「しょうがねぇだろ、京吾マジ可愛いんだよ」

「それでも我慢しろ。ったく……」

「ごめんね、翼」

「キョウも、すぐ流される癖直せ」

「そんなん京吾じゃねぇよ!」

「秋斗は黙ってろ」


それからしばらく翼にお説教をされつつ、俺たちはアキのマンションの前で降りた。
二人で小さくなっていく車を見送ってから、部屋へと入る。


「お邪魔しまーす」

「ただいまだろ?」

「えへへっ、じゃあただいま」

「ん、おかえり」


靴を脱いで、甘えるようにアキの腰に腕を巻き付けながら廊下を進む。
アキは歩き難いと文句を言う事も無く、俺の頭を撫でながら好きにさせてくれた。


「アキ、スーツほんとカッコイイ! 写メっていー?」

「そんな気に入ったのかよ。どーぞ」


アキは笑いながら、俺の構える携帯の前に立ってくれる。
ただ立つだけで、何でこんなにキマッて見えるんだろうなぁ……

自分の恋人ながら、最高にカッコイイと改めて感動しつつ、俺は全身版とアップ版でがっつり写メを撮った。
しばらく会えない時の待ち受けにしよう……。


「ありがと、満足した!」

「そりゃ良かった」

「じゃあアキ、ジャケット脱いで。良いスーツなんでしょ? ハンガー掛けてあげる」

「ははっ、嫁みてぇだな」

「そうですけど? アキのお嫁さんは、俺しかいないでしょ」


唇を尖らせてそう言えば、アキはふっと目を細めた。
そして、ぱくりと俺の唇を食んでくる。
そのもどかしいような柔らかいキスに、また頭がぼうっとしてきて。
着替える前に、またしばらくキスに没頭してしまった。


「ん……アキ、好き……」

「当たり前」

「あ……っ」

「……このままするか?」

「……シャワー……」

「ん、わかった」


アキは頷くと俺の頬を撫で、さっさとスーツを脱いでいく。
そしてそれを俺がハンガーに掛けている間に、アキはお風呂の準備をしに行った。
数分遅れて、俺もバスルームへと向かう。


「アーキーっ」

「うぉっ」


綺麗に筋肉が付いた身体に飛びつけば、「驚かせんな」と笑いながら髪を掻き混ぜられる。
そしてアキに手伝ってもらいながら、俺も生まれたままの姿になった。

その後、縺れ合うようにじゃれながらバスルームに入って、何が起こったのかは……

もちろん、俺たちだけの秘密だ。


fin.

***


このカップルは、一番付き合いが長い故に安定している&周りの引き立て役な節があるので、恐らくWantsシリーズで一番支持がありません^q^笑

そんな二人がちょっと不憫だったので、今回はこれみよがしにイチャラブさせてみました♪
一緒にお風呂は最早デフォルトw

そして余談。
この間リア友な読者様にも言ったんですが、昂介はずっと実家住まいです。
言ってなかっただけです(・∀・)

2011.7.29

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