Wants 1st 番外SS
□Original TitleT
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4、溢れる程の愛を!
Side:Minato
「……チッ、マジうぜぇ」
鈍い音と共に、腕に凭れ掛かってきた男をそのまま地面に転がした。
だから先に、テメェじゃ無理だって教えてやったのに。
「お疲れ、湊。相変わらず容赦無いねー」
「当たり前だろ。加減して、変にナメられたら面倒だし」
「まぁね。これなら確実に、第一印象はトラウマレベルだな」
真斗は着衣を整えながらそう言い、笑みを見せた。
――休日の夕方。
珍しく学園近くの繁華街で、面倒な団体が現れたと連絡が入った。
この辺は全部、涼がまとめているエリアだ。
それを知らずに好き勝手してるということは、新参者なんだろうけど。
相手は10人越えだっつーから、仕方無く俺が足を向ける事にしたのだ。
相手の実力が書面データ上にしか無い場合は、下手に下の奴らを向かわせるワケにもいかねぇし。
っつーことで、真斗と二人で向かったんだけど……結果はサイアク。
何がサイアクって……
「あーあ、久々にストレス解消しようと思ったのになぁ。何でこんなに弱いんだろ。最近のヤンキーってこんなもん?」
真斗は鼻で笑いながら「最近のヤンキー」を一瞥すると、パチンと携帯を開く。
完全にのびきっている奴らは、痛みに悶絶したり失神したりしているものの、誰も大きな怪我は負っていない。
“最低限の攻撃で、確実に降伏させる”
それは“白”の、絶対的ルールだ。
だから時間が経てば各々自分で立ち上がって帰れるだろうし、取り立てて特別な“後片付け”は必要無い。
よって俺と真斗は、さっさとひと気の無い街外れから立ち去った。
「あ、もしもし伸? うん、片付いたよ」
携帯で伸に報告を入れている真斗の隣を歩きながら、俺は一つため息を吐く。
チクショウ、今日は遥と一日イチャイチャする予定だったのに……
まったく、余計な邪魔が入ったものだ。
「うん、全然問題無さそう。皆口先だけのバカだったから。湊が容赦無くやってたし、もう凝りたんじゃない?」
「……」
「あははっ! 俺は別に普通だよー? ちゃんとやったって。まぁ、弱過ぎて若干イラッとはきたけどね」
普段テニス部に常々勧誘され、何人もの教師に気に入られ、ネコ顔男子からバリタチ男子まで――もちろん他校の女子にまで言い寄られている好青年が、蓋を開ければコレだ。
伸も大概腹黒だけど、変に幅広く社交的な真斗に比べたらまだマシかもしれない。
……いや、やっぱどっちもどっちか。
「はいはーい……じゃ、あとよろしく」
そしてパチンと携帯を閉じ、こちらを振り返った真斗。
「報告完了です、リーダー」
「俺リーダーじゃねーし」
「いやいや、特攻隊長だろ?」
「リーダーと言えばアタマの涼じゃね?」
「いやいや、あれは陛下ですよ」
「……あー」
「あははっ」
確かに、基本最悪な事態にならない限り動かず、一言でメンバー全員をひれ伏させる涼や神崎は、ある意味王様みたいなもんだ。
無駄に上手い事を言った真斗に感心しつつ、足を進める。
「これから遥ちゃんの所直行?」
「当たり前だろ。ホントはずっとあっちにいる予定だったんだっつーの」
「ご愁傷様ー」
「……何がオカシイんだよ」
「独り身の俺としては、ざまぁみろと思ってね」
「笑顔で言うなよ」
「あははっ」
「爽やかに笑うな」
相変わらず詐欺な顔の真斗に呆れつつ、20分くらいダラダラ歩いて。
ようやく寮が見えてきた頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。
「じゃ、またな」
「おー」
軽く手を上げ、真斗はA棟に、俺は遥のいるB棟へと向かう。
ガラスの自動ドアを抜けて一人になると、何だか一気に疲れた。
相手が強かろうが弱かろうが、“白”の決まりに乗っ取った喧嘩をするにはスゲー集中力がいる。
それが初めて見る相手なら、尚更のことだ。
あぁ、早く遥に癒されたい。
「湊さーん! こんばんはっ!」
「おー」
「須藤くんだ! お帰りなさーい!」
「あ、あぁ、ただいま……?」
何故か最近では、B棟で擦れ違う生徒に「おかえり」と言われるようになってしまった。
遥が嫌がるから、なるべく構わないように……と思っているものの、遥みたいなちっさい連中ににこにこしながら言われると、良心が咎めて無視もしにくい。
俺は適当に苦笑しつつ手を振り返すと、足早にエレベータへ乗り込んだ。
もう数えきれない程通っているB棟寮。
遥と付き合わなければ、きっと来る機会も無かったんだろうな。
そんな事を思いながら、廊下を突き進んで。
数室並ぶ一人部屋のある扉の前へと立って、チャイムを押す。
ホントは合鍵で開けてもいいんだけど、出来れば「お帰りなさい」の出迎えを見たいんだよな。
男のロマンってやつ。
「今開けるね」
扉越しに聞こえた、恋人の声。
その瞬間いまだに残っていた張り詰めた空気は吹っ飛んでいき、無意識のうちに口角が上がった。
「――あ、お帰りなさい湊……」
言い終わる前に両手を広げて遥を捕獲し、玄関に押し入る。
あー可愛い。めっちゃ可愛い。
マジ癒される……!
ふわふわしたチョコレート色の髪に顔を突っ込み、ニヤニヤする俺。
別に変態でもイイし。
恋人を前にした男なんて、大概皆変態だ。
「ちょ、ちょっ」
「んー、遥いい子にしてたかー?」
「もう、放してってばー!」
ジタバタする姿まで可愛くてしょうがないなんて、かなり末期かもしれない。
衝動のまま頭に唇を押し付けた後、額、瞼、目尻にも唇を落としていく。
すると最初は暴れていた遥も、そのうち大人しくなった。
調子に乗った俺は、そのまま唇もゆっくりと合わせる。
「……ん……ぅ……」
あーー……やーらかい。
このまま押し倒したら……やっぱり怒るよな。
健気にも理性を総動員させた俺は、ゆっくりと顔を離す。
目の前にある伏せられた瞼を見ながら、いつ見ても遥は美人だなぁと感心しつつ、とりあえずあと一回だけぎゅっと抱き締めておいた。
「……改めて、ただいま」
「ん……おかえりなさい」
そっと頬に掛かった髪を払ってやりながらそう言えば、恥ずかしそうにはにかみながらチラリとこちらを見上げてくる遥。
相変わらずくりっくりなデカイ目がうるうるしてて、何かもうどうにかなりそうだ。
マジ可愛い。
俺の遥ヤバイ可愛い。
「あ、メシ作ってた?」
「うん。もう作り終えたところだけど」
よくよく見てみれば、遥はシンプルな紺地のエプロンをしていて。
帰って来てすぐに美味い手料理があるなんて、俺マジ幸せ……とニヤつきながら、我慢出来なくてもう一回頬に口付けた。
「今日は……怪我、してないね?」
「当たり前ー。俺がやられるワケねぇだろ?」
「そうだけど……やっぱり、心配だから……」
「!」
あーもう可愛い可愛い可愛い!
これ以上煽られたら、俺多分噛み付く。
なんて煩悩に悶えている俺にも気付かず、遥は「あ」と声を漏らした。
「動いてきたなら……汗かいたよね。先ご飯にする? お風呂にする?」
言われた瞬間、俺の本能がぐらっとした。
やばい、覚醒したかもしんねぇ。
「も……もう一回言って遥、今何て」
「え? だ、だから、先ご飯にする? それともお風呂――」
「遥にします!!」
「ちょ、わぁっ」
ちょ、ヤバイ超テンション上がった!
遥ってば、エプロンまでつけてそんな夢の台詞を言ってくれるなんて!
「もうマジ愛してる遥!」
「えぇ?! なに?! 待って何でエプロン外して……」
「え? エプロンは付けたまま?!」
「?!」
「俺スゲー嬉しい! 俄然燃えてきたんだけど! じゃあエプロンだけ残して脱がすから!」
「ちょ、何言って――」
照れて真っ赤になっている遥を肩に担ぎ上げ、テンションマックスで寝室に直行した俺。
さっきまでのイライラは吹き飛び、脳内は遥とのバラ色ラブシーンで埋め尽くされた。
その後、俺が全身全霊で遥を愛し尽くしたのは言うまでも無い。
「ほんっっと可愛いなぁ……」
「……バカ……」
そしてもちろん、
ぐったりとしながら枕に顔を埋める遥も、世界で一番可愛かった。
fin.
***
極度のポジティブシンキングは、時として「勘違い」という危険な武器に変化します。
湊に嬉しそうな顔をされると、結局何だかんだで流されてしまう遥。
バカップルの、日常の一コマです。笑
2011.7.25