Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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3、ファースト・コンタクト

Side:Kosuke


ちょっと飲み物と煙草買ってくるなー。

なんて声を、夢現で聞いた気がする。
「んー……」と自分から発せられた声で、ふと目が覚めた。


「……?」


むくりと起き上がれば、カーテンの向こう側から柔らかい光が入ってきていて。
徐々に動き出した脳で、現状を把握しようとする。

今日は休日で、昨日俺は翼の部屋に泊まって。
結構遅くまで……っていうか朝方までヤッ――

「わっ!」


余計な事まで思い出して、一人赤面。
もう一度枕に突っ伏して、しばらくジタバタしてみた。

超ハズイ……けど、幸せ。
とか思っちゃう辺り、やっぱ俺ってハズイのかもしんない。


ひとしきり翼のベッドでゴロゴロした後、ようやく起き上がって洗面所へと向かう。
今では勝手知ったる何ちゃら的な状況に、また幸せを噛み締めたりして。

最近では翼がそばにいなくても、繋がってるなぁと思えるようになった。
それは些細な事なのかもしれないけれど、俺にとっては凄い大進歩だ。
むしろ、これ以上良い事なんて無い気さえしてくる。

自分でも呆れるほど、翼が好きでたまらない。
顔を洗い終えて洗面所の鏡を見れば、だらしなくニヤけた自分が映っていた。

……しょーがねぇじゃん、だって好きなもんは好きだし。

言い訳がましく内心でそう呟き、リビングに出て。
何かメシでも食おうかなーと思った瞬間。


「――っ」


カタンという物音と共に人の気配を感じて、俺ははっと息をのんだ。


「……」

「……」


振り返ってすぐ、がっつり合った視線。
いや……マジでこれ、想定外なんだけど。
いやいや、むしろ想定はしておかなきゃダメだったか。

気怠げにリビングの椅子に腰掛けていたのは、漸だった。
初めて知った日は冷静さを失って叫ぶくらい驚いたけど、何とコイツは巳弘さんの恋人らしい。

巳弘さんが帰ってくるのは大体店が終わった明け方近くだし、漸も基本的には誰ともつるまないタイプだから、こうして鉢合わせたことはほとんど無かったけれど。

それにしても巳弘さんと翼のアパートで、俺と漸が二人きりになるとか。
やっぱりすんごい想定外なんですけど……! 

「あー……え、と……」

「……」

「お、おはよ!」

「……はよ」


何とか絞り出した挨拶に、漸は無表情ながらもちゃんと答えてくれた。
ていうか……学校以外でちゃんと話すの初めてかも。
改めて見ると、すっげぇ雰囲気のある奴だな……。

漸はチラリと俺を一瞥した後、グラスをゆっくりと煽る。
カランと鳴った氷に向けられた伏せた瞼越しに、青いカラコンが見えた。

白い肌に、アシメのアッシュヘア。
左肩が覗く緩いカットソーは薄手で、女とはまた違った色気を醸し出している。

大人っぽいワケじゃないけど、俺みたいなガキっぽさも無い……不思議な空気を纏っているというか。
思わず一瞬見入ってしまった。


「あ、そういえば巳弘さんは……?」

「……仕事」

「そうなんだ。翼は多分買い出しだよ」

「……」

「……」

「……」


えぇーーー! 
ちょ、翼ダッシュで帰ってきて! 
間がもつ気がしねぇんだけど?! 

密かに半泣きになりながら、キッチンの方へと歩み出した瞬間。
不意に背後から「そういえば」と声を掛けられて、俺ははっと振り返った。


「え……?」

「冷蔵庫」

「へ? れ、れい……?」

「メシ作ってあるって。翼から伝言」

「あ……」


何だ、翼とは顔合わせてたのか。
ならさっき「知ってるよ」とか言ってくれりゃ良かったのに……

なぁんて言えるわけもなく、「サンキュ……」と答えながら冷蔵庫を漁る俺。
あぁ、秋斗みたいなノリの奴ならガンガン話せんだけどなぁ。
漸みたいなタイプって付き合ったこと無ぇから、どうしたら良いのかわからない。


「そういや漸はもうメシ食ったの?」

「いや……」

「一緒に食う? 何人分かあるけど」


大皿に盛ってあるサンドイッチのラップを剥がしながら、そう尋ねてみる。
翼の家では何時に誰がメシを食うかわからないから、結構誰かが作ったメシが冷蔵庫に入っていることが多い。

俺はいつも借りているコップを取り出すと、オレンジジュースを注いだ。
ちなみにオレンジジュースは、翼が俺の為にいつも買っておいてくれる飲み物だったりして……。

思わずニヤけそうになった顔を引き締めながら、俺は意を決して漸の向かい側へと座った。


「漸は何飲んでんの? 水? グラスで飲むとかオシャレだなー」

「ペリエ」

「……へ、へぇ……」


……中身もオシャレだそうです。
あぁ、どうせ俺は万年オレンジジュースなお子様だよ! 
やべぇ涙出そう。


「つーか、瑞貴も漸も美形だよなー。俺がそんな服着たら、ぜってぇ笑われんもん」

「……そうか?」

「いつもどこら辺で買い物してんの?」

「さぁ。結局いつも巳弘が決めてるし……」

「……マジ?」


皆が「さん」付けで呼んでいる中、ナチュラルに「巳弘」と呼び捨てにした漸。
やっぱり恋人なんだなと改めて感じてしまって、何故か俺の方がドキッとしてしまう。


「漸てすごいよな……俺巳弘さんとずっと同じ空間にいるとか、緊張して無理だし」

「何で?」

「放ってるオーラがすげぇじゃん。喧嘩には慣れしてるし、秋斗で美形にも慣れてるはずだけど、巳弘さんは別格っつーか……」

「あんま感じたことないけど」


そう言って漸が意外そうに首を傾げた瞬間、するりと服がズレて鎖骨下に付けられたキスマークがのぞいた。
それが視界に入った瞬間、俺は思わずぱっと目を逸らしてしまう。

え……エロイ……! 
や、やっぱ年上と付き合える奴って何かが違う! 

って、俺も彼氏年上だけど!!
 

「つーか、食わねぇの?」

「え……え?」

「腹減ったんだろ? 食えばいいのに」


ほら、と言って皿を目の前に押し出された。
ちなみに俺が悶々と考えているうちに、漸は一つサンドイッチを食べ終えていて。


「漸は?」

「俺はあんま食えないんだよ。もういい」

「え、もう? 小食なんだなぁ」

「らしいな」


他人事のようにそう言いながら、漸は片肘を着いてこっちをじっと見てくる。
……って、え、何?
そんな見られてると、食いずらいんですけど……


「……お前ってさ」

「?」

「犬みたいだよな」


……はい?
い、犬?! 

まさか喧嘩を売られてるのかと顔を上げたけど、特に漸に悪びれた様子は無い。
純粋に、ただそう思ったから言っただけみたいな顔をしている。


「ど……どこら辺が……?!」

「動きとか。目のデカさとか……雰囲気?」


雰囲気? と聞かれても、自分ではわからない。
むしろ結構な侮辱にすら聞こえるんですけど?!


「一応確認すっけど、デカイ猟犬とかでは……」


そう言い掛けたら、フッと鼻で笑われた。
アレ、意外とこいつイイ性格してる感じ?
めちゃめちゃ失礼な反応だってコレ。


「何かふわっとした丸っこい、よく走る犬みたいなイメージ」

「……バカにしてますよね」

「明るくていいんじゃねぇの」


サラリと返されれば、噛み付くことすら出来ない。
俺はむすっとしながら、仕方なくパクパクとサンドイッチにかぶりついた。
クソー……! 漸と俺の違いは何だ。

……何もかもが違う気がするぜ! チクショウ!! 


「ただいまー」

「おかえり」

「つばさーーッ!!」


リビングの扉が開き、翼が入ってきた瞬間、俺は弾かれたように駆け出した。
おかえりと声を掛けた漸は、また微妙に口端を上げている。

あぁわかるよ、どうせ「やっぱ犬っぽい……」とか思ってんだろ!
今自分でもそう思った!


「翼、聞きたいことがあるんだけど!」

「え? 何だよ。元気だなお前……」

「俺犬っぽい? ねぇ犬っぽいかな? そう思ったことある?!」


そう聞いたら、一瞬目を見開いた翼は笑いを堪えるようにして、俺の頭に手を乗っけた。


「思ってない、思ってない。全然思ったことねぇから。いい子にあっちで『おすわり』してな」

「!」

「オイ漸ー、昂介イジメてんなよ」

「イジメてないよ。思った事を言っただけ」

「ぶはっ」


その後。
俺は一時間ほど、思いっきり拗ねてやった。
まぁ最終的には翼の部屋で「ゴメン、ゴメン」ってぎゅうってされて、うっかり許しちゃったけど。

俺……

犬っぽいかなぁ……?



fin.

***


A.犬っぽいです。

最近読者様から頂いた「昂介はポメラニアンっぽい」というお言葉と、「漸と昂介の交流が見てみたい」というお声から生まれたSS。
個人的には、大分楽しんで書けました。笑

流石にノーカラコンを昂介に晒すには、まだ時間がかかりそうですが。
それでも微笑んでたくらいなので、漸は翼&昂介に好感を持っているのでしょう。

2011.7.15

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