Wants 1st 番外SS
□Original TitleT
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2、ある朝の出来事。
Side:Yuki
「うわ、何か切ねぇな」
「撤去作業とか、昨日の夜のうちにして欲しかったよね」
7月8日の朝。
いつものようにケイと一緒に学園へと向かえば、昇降口からすぐに見えるロビーに飾ってあった、大きな笹が撤去されている最中だった。
昨日は、七夕で。
さすが私立なだけあり、そういったイベントを楽しむ事にも多少重きを置いているのか、数日前から笹が飾られていた。
しかも、その下には短冊とペンも用意されていて。
そこにあればやってみようと思うのが人間の心理であり、皆通り掛かる際には、ちゃっかりと願い事を書き込んでいるようだった。
かくいう俺たちも、その例に漏れてはいなかったんだけれど。
ちなみに隣にいるケイは、「TOEICのスコアが上がりますように」と何とも現実的な事を書いていた。
てっきり神崎関連の事を書くかと思っていたと言ったら、「それは自分で何とかするから平気!」と変に男らしい返事が返ってきたりして。
ちなみに俺の願い事は、「身長伸びろ」だ。
「いくらイベント終わったって言ってもさぁ、あんなに乱雑に扱わなくてもいいよね」
「アレって最終的にどこ持ってくんだ?」
「さぁ。燃やされんのかなー」
用済みになって撤去されていく哀れな笹を見遣りつつ、俺たちは学食へと向かう。
朝食は各自の寮部屋でとっている奴の方が多いから、この時間帯の学食内はわりと人口密度が低かった。
ちなみに俺たちも朝起きれた時間や気分によって、学食には来たり来なかったりなんだけど、今日はケイも俺も和食って気分だったのだ。
「あ、アレ!」
「ん?」
ケイはある方向に視線を向けると、満面の笑みで走り出した。
俺もその場所を目で追って、「あ」と声を漏らす。
ケイが向かった先にいたのは、向かい合った湊と遥の姿が。
……つーか、放っておいてやれよ。
明らかにお前邪魔だろ。
俺は一つため息を吐いて、ケイの後を追った。
「はよー」
「あ、おはよ」
湊に絡んでいるケイを見て、微妙な顔をしている遥に声を掛ける。
前はすぐさまケイと遥の喧嘩が勃発していたが、最近ではケイの対処に慣れてきたらしい。
……いや、湊の性格に慣れたのか。
湊はケイみてぇな猫っ被りでも、小動物系の奴に弱いから。
「みぃくん何食べてんのー? おいしそう!」
「B定食だよ。結構美味いけど」
「ホント? 俺もそれにしよっかなぁ」
ケイも何故か湊にはスゲー懐いてて、やたらと絡みに行く回数が多い。
まぁ、半分は遥をからかいたいからだろうけど。
つーか距離近ぇな。
湊も湊で、ちょっと嬉しそうな顔してんじゃねぇよバカじゃねぇの。
「……はぁ」
「遥、お前偉いな」
「え?」
「俺だったら一発殴ってるわ」
「殴って済むなら、苦労しないよー」
隣に腰を下ろして同情すれば、遥は苦笑してそう答える。
「元々の性格っぽいからね。僕がどうこう言っても、何ともならないっていうか……」
「そういうもんか?」
「まぁ由貴なら、何度でも涼先輩に怒りそうだけどさ」
「間違い無いだろうな」
涼が可愛い奴に言い寄られて少しでもデレデレしてたら、多分容赦無くぶっ飛ばす。
そんなん超ムカつくじゃん。
有り得ねぇ。
「自信持てる由貴が羨ましいよ」
「あ? そういう問題か?」
「そうだよ」
そう言って、遥は視線を伏せた。
そういえば遥は俺とケイの隣で、短冊に「もっと自信が持てますように」って書いてた気がする。
「……何で僕で良いんだろうって、時々思うからさ」
「……」
遥の言った言葉を聞いて、思わず眉間にシワが寄った。
……何だよそれ。
根本的な信頼関係みたいなの、コイツらちゃんと出来てねぇの?
俺は無言のまま湊の方へと回り込み、べりっとケイを引き剥がした。
と同時に、バコンとバッグで湊の頭を強打する。
「ってぇぇ!」
「え、由貴何?!」
「うっせぇ。ケイ行くぞ、湊いっぺん死ね」
「は?! オイ、ちょっと――」
俺は突然の行動に呆気にとられている遥に振り返ると、ニヤリと笑った。
「遥、逆だよ」
「え?」
「お前に、湊じゃ勿体ねぇ」
「……」
「そう思える部分だって、少なからずあるだろ」
そう言えば、目を見開く遥。
きょとんとしながらも、何やら自分が絡んでいるらしいと察して眉を寄せた湊。
俺はいまだ不満を零しているケイを引っ張って、食事の注文へと向かった。
「由貴、今の何ー? 超気になる話題だったんだけど」
「お前もいい加減に止めろよ、悪趣味だな」
「えー」
「遥をからかうなら、もっと別の話題でにしろ」
そう言って、食券のボタンを押せば。
不意にべったりと抱きついてきたケイが、くすりと笑った。
「由貴ってば男前ー優しいー!」
「んだよ、くっつくな」
「これであと身長が10センチ以上高くて、目がもうちょい切れ長で筋肉があれば惚れたのにぃ」
「たとえそうでも、俺はお前みたいな腹黒御免だけどな」
「冷たっ。俺みたいな美少年フるとか何事?!」
「お前のアタマが何事だよ」
ギャーギャー騒いでいると、突然俺の携帯が鳴って。
俺はケイの手を払い除けながら、パチンと携帯を開く。
そこには一通のメール着信があり――差し出し人は、涼だった。
『お前と同じヤツ、もう一個』
はっと顔を上げて辺りを見渡せば、いつの間にか湊の席からちょっと離れた場所に涼が座っていて、こちらを見ている。
珍しく朝から鉢合わせた事に、思わずどきっとしてしまった。
「……」
「……なーんだ、皆ラブラブ」
「あ? ちょ……っ」
「いいもんいいもん、俺は教室でパンでも食べますよーだ」
「別にお前も一緒に――」
「そこまで空気読めなくないよ」
「さっきは読まなかったじゃねぇか」
「みぃくんは怖くないから」
くすりと笑ったケイは踵を返し、購買の方へと去って行く。
ちょっと悪いな、と思いながらも、一人ちょっと照れながら2枚食券を買う俺。
チラリともう一度涼の方を見れば、窓の外を眺めている涼は、朝から文句無しにカッコ良かった。
「……」
――自信持てる由貴が羨ましいよ
顔が見えない時なら、大口叩けんだけどな。
……本当は、俺だって。
時々は、少し心配になったりもする。
なぁんて、絶対口には出さねぇけど。
俺は一人心の中でそう呟くと、さっさとカウンターに食券を出しに行った。
そんな、ある朝の出来事。
fin.
***
日常的過ぎて、あんまりこれといってヤマが無かった気が……;
からかい癖が過ぎる京吾、
天然タラシが健在な湊、
心配性な遥、
意地っ張りな由貴……
いつも彼らはこんなノリです^q^
ただ京吾は、前湊が自分を好きだったという事は知りませんw(知ってたら性悪過ぎる)
2011.7.9