Wants 1st 番外SS
□Original TitleT
21ページ/22ページ
19.彼らの夏U
Side:Haruka
「うーみぃーっ!」
「おいケイ引っ張るなって、ちょっ」
次の瞬間波の音に混じって、バシャンと水音が響く。
二人お団子状態で倒れ込んでいった由貴と京吾の姿に、僕は思わず笑ってしまった。
「てめっ、目に海水入った!」
「ざまぁ!」
「ケーイーー……!」
途端にもの凄い勢いで、追い掛けっこが始まる。
波打ち際を走る二人はまるで無邪気な子どもみたいで、学園内で澄ましている時とは大分違う。
「可愛いなぁ、俺の京吾は」
「まぁな。でも、由貴の方が可愛い」
「……確かに由貴も可愛いけど、京吾には負けるよな」
「と思うのは神崎の勝手だけど」
「……」
「……」
どうでも良い言い合いをしながら、由貴たちの方へと歩いていく“双頭”の背中を見送りつつ、僕は湊と瀬那、伸先輩と一緒に大きなパラソルの下にいた。
今さっきまで由貴たちも一緒に日焼け止めを塗ったりしていたんだけど、早く海に行きたかったのか、凄いスピードで終わらせて出て行った。
今は瀬那は伸先輩に、俺は湊に塗ってあげている最中だ。
といっても湊は涼先輩や神崎さんと同じように、日焼け用のオイルを塗ってるんだけどね。
「湊、真っ黒になったらどうするの。チャラ男に見えちゃうよ?」
「まさか。誰かさんみたいに金髪なワケでもないし」
誰かさん、と言いながら神崎さんの方を見た湊。
確かに、彼が黒くなったらすごい風貌になりそう。
だけど神崎さんの場合は元々外国の血が濃い感じだし、あの白い肌はそれほど黒くならないんだろうな。
「はい、出来たよ。湊背中広いねー」
「そうか? 遥がちっせぇんだよ」
「……うるさいなぁ」
むすっとすれば、振り返った湊はのん気に笑った。
たったそれだけのアクションなのに、湊がキラキラして見える僕はもうダメなんだと思う。
「はい、今度は遥の番」
「うん」
僕は手持ちバッグの中から日焼け止めクリーム取り出し、湊に渡すと後ろを向いた。
と、身体のサイドから両腕が伸びてきて、ぎゅっと抱き締められる。
「わっ、な、何してんの!」
「いや、やっぱ外で遥が裸晒してるって、微妙な気分だなと思って」
そんなバカバカしい事を、至極真面目なトーンで言う湊。
呆れながら両腕を外していると、隣で瀬那の背中に日焼け止めを塗っていた伸先輩が笑った。
「今日だけは、ちょっと湊に同感」
「だろ? 世間的には問題ねぇけどさ……」
「うん、彼氏としては勿体無い気がするよね」
湊と伸先輩の会話に、僕は瀬那と目を見合わせて苦笑する。
まったく、これだから……。
正直、こんななよっとした身体なんて誰も見ないし、何とも思わないだろう。
まぁ瀬那くらい衝撃的な美少年だったら、見られるかもしれないけどさ。
それよりも現実的に考えれば、湊たちの方が見られるに決まっている。
“白”所属の人って、どうしてこうも筋肉がキレイについてるんだろう。
下層部の人も含めて、“白”メンバーの人は皆、男なら誰しも憧れてしまうような身体付きをしていた。
今日初めて見た伸先輩の上半身ですら、綺麗に引き締まっているし。
「……あ」
何となく湊と話している伸先輩をじっと観察していると、不意に瀬那が振り返って伸先輩に抱き付いた。
びっくりして僕が声を上げたのと同時に、伸先輩と湊も不思議そうに瀬那を見る。
「……遥、あんまり見ちゃダメだよ」
「!」
困ったように眉尻を下げた瀬那にそう言われ、僕は一気に真っ赤になった。
恥ずかしい……!
「……は? 遥、何で伸見てたの」
「え、あ……」
「あはは、悪いね湊」
「伸うぜぇ」
瀬那の「見ないで」発言で、一気に機嫌が急降下した湊。
すごい拗ねられて、それからしばらく、僕は湊の機嫌をとるのに必死だった。
「湊、ごめんね?」
「……別に怒ってねーよ」
伸先輩と瀬那をパラソルの下に残して、僕は湊と一緒に、それなりにひと気のあるビーチを歩いて海の方へと向かっていく。
このビーチは遠方から人が集まってくる有名所というよりは、近くに別荘を持つ人たちが遊びにくるような場所だから、それなりに賑わっているものの、混み過ぎてイライラすることは無かった。
タチの悪いナンパや逆ナンも少ないみたいだし。
湊が持っている浮き輪の反対側を持ちながら、僕はチラリと湊を見上げた。
太陽の光や青空が、本当によく似合う人だと思う。
「俺も余所見されねぇように、もっと鍛える」
「だから、伸先輩は意外性があったから見たんだって。湊がカッコイイのはもう知ってるし」
「……見飽きたって事?」
「もう! どうしてそんな風に捉えるかなぁ」
困って立ち止まれば、浮き輪に引っ張られて湊も立ち止まった。
しっかりと交差する視線。
「……湊、怒んないで」
「……」
「……」
「……俺だけ見ててよ、遥」
不意にそう言われて、僕は思わず目を逸らして、俯いてしまった。
湊のストレートな言葉は、意地っ張りな性分の僕からしたら、すごい威力のある愛情表現に思える。
照れもふざけもせずに、本気で僕を求めてくれている瞳。
その熱と甘さを含んだ視線には、いまだに慣れることはない。
と、不意に視界に湊の足が入ってきて、その指先が細かな砂に飲まれていった。
「……あ」
「遥」
僕の頬に湊の手が触れて、弾かれたように顔を上げると。
いつも僕の思考を完全にストップさせてしまう、強い瞳に捕らわれた。
「……」
「……」
「うわ、何これラブシーン中?」
「京吾、黙っといてやれよ。今キスの直前だぜ、多分」
ほぼ同時に湊と一緒に振り返れば、そこには海水を滴らせながら、神崎さんと二人でニヤニヤしつつ立っている京吾の姿が。
って、いつの間に……?!
「な……っ、お前らいつから」
「えー、ボート取りに一回戻ってきたら、みぃくんと遥が何か言い合ってるのが見えたからさー。とりあえずからかいに来てきみた」
「京吾っ!」
湊に答えた京吾を思わず咎めれば、京吾は楽しそうに笑う。
「別に俺は良いけど、ココは公共の場だって事をお忘れなくー!」
「優しいな京吾。湊、肝に銘じておけよ」
そして二人は僕たちにそう言うと、再び海の方へと向かっていった。
ホント、自由というか何と言うか……。
「……アイツらだけには言われたくねぇ」
「だよね」
湊のぼやきに同意しつつ、今の一件で毒気を抜かれ、僕たちはくすりと笑い合う。
「んじゃ、俺たちも泳ぎに行くか。ほら」
「え」
浮き輪をかぶせられて、僕はきょとんとした。
けど次の瞬間には腰から抱え上げられて、問答無用で海の中へと連れていかれる。
「わ、わ、ちょっとー!」
「沖の方まで連れてってやる!」
「え!?」
湊はバシャバシャと水音を立てながら海へ入り、それと同時に僕も水中に落とされた。
「つめたっ、いきなりは酷いよ!」
「あははっ」
「もう、湊?!」
「いいから、いいから。浮き輪掴まってろよ、俺スゲー勢いで泳ぐから」
「それ何の宣言?」
何故かノリノリで泳ぎ始めた湊に言い返しつつ、僕は浮き輪に腕を掛け、紐を引っ張る湊の背中を見つめる。
「……早く皆から見えない場所まで行ってさ」
「?」
「今度こそ、キスしよ」
泳ぎながら振り返り、悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言った湊は、やっぱりキラキラして見えて。
僕は恥ずかしくてそっぽを向きながらも、ほんの少し――ほんの少しだけ、ときめいてしまった。
浮き輪に寄り掛かるように空を仰げば、一面の青空。
波音と光だけの世界で、恋人と一緒に過ごす夏。
それは僕にとって、言葉以上に幸せな瞬間だった。
Continue...
***
あ、まだ続くんですね^q^ww
というのも、毎回それほど場面が動かない^q^
どのCPも、隙あらばイチャイチャしています。
何だか書いていたら、学生に戻りたくなってきました。笑
2011.9.4