Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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18.彼らの夏T

Side:Yuki


「うーあーっ、超晴れた! ねぇ見てよ、めっちゃ晴れてる!」

「わかった、わかったからマジ落ち付け」


――ある真夏日の、午前10時。
いつも昼に食堂でテーブルを囲んでいたメンバー7人プラス神崎という、軽く団体レベルの人数で、俺たちは夏らしくベタに海へと向かっていた。


始まりは、俺とケイが何の気無しにどこかへ出掛けたいと言い出した事。
夏休みになって、一度は全員帰省とか何とかで散り散りになったんだけど。

たった3年間しかない高校時代に思い出を作らなくてどうする! といわんばかりに張り切ったケイのアクティブな働きかけで、この団体旅行が実現した。

普通に考えてスゲーよな……よく全員の予定が合ったもんだ。
しかも一泊二日。どんだけ仲が良いんだと、自分たちの事ながら感心してしまう。


俺は改めて、チラリと視線を動かした。
ちなみに今回この旅行の為に、二台のワゴン車が出ている。
丁度半分ずつ分かれて、涼と俺は神崎とケイ、湊と遥は伸と瀬那と同じ車だ。

ちなみにいずれもレンタカーらしいんだけど、運転手は涼グループに所属する、数少ない大学生のメンバーで。

彼らは彼らで今回の行き先近くに実家があるらしく、送迎を快諾してくれたとか。
いくら夏休みが9月いっぱいまである大学生とはいえ、年上を巻き添えにするとか……ホントに申し訳無いと思う。


「これだけ晴れると、日焼けしちゃいそうだねー。ちゃんと日焼け止め塗んなきゃね」

「別に男だし良いだろ。ケイって、赤くなって焼けずに終わるタイプ?」

「いや、わりとナチュラルに黒くなるタイプ。けどほら、俺のイメージってもんがあるじゃん? 黒い俺とか、ファンが泣く」

「……へぇ」


前のシートで膝立ちし、後ろを向いて俺に話し掛けてきたケイに若干引きつつ相槌を打てば、ケイの隣に座っていた神崎が笑った。


「オイケイ、由貴引いてんじゃん。お前らいつもそんな調子なのか?」

「基本由貴はつれないんだよ、コレで合ってるの」


そう言いながら神崎の首に腕を回し、そのままシートの影に沈んでいくケイ。

あー、マジでやめてくれ。
いくらシートが仕切りになってるとはいえ、こんな近い距離で他人のキスの気配とか感じたくない。


「ねぇわ……無難に湊たちと一緒が良かった……」


ケイたちと伸たちは、どう考えても密室ではイチャつくもんな。
実際出発してから、終始前からピンクな空気が漂ってきている気がする。

その点湊と遥なら、遥がすげぇシャイだからまだマシだろう。
思わずため息を吐いたら、隣で涼が口端を上げながらこっちを見てきた。


「そんなに気になるなら、お前も仲間入りすれば良いだろ? キスしてやろうか」

「ほんと黙れ」

「それ俺に言ってねぇよな?」

「おい、涼っ」

「お前はちょっと甘やかすと、すぐ生意気になるから」


軽く足を蹴ったら、頭ごと鷲掴みにされる。
ジタバタ暴れても、びくともしないから本当に不公平だ。

結局シートに押し付けられて、無理矢理唇を合わされたりして。
酷い羞恥プレイに、俺は思いっきり涼を睨みつけた。


「おーおー、後ろはハードプレイ中だぜ京吾」

「あははっ、由貴顔真っ赤! ウケるー!」


……マジやだこの車。
神崎も大概面倒臭い性格だ。さすがケイの彼氏。
俺は外界の情報をシャットアウトしようと、近くにあったタオルを頭に掛けて寝入ることにした。


「涼って強気なのが好きなのな。アレか? 征服欲が刺激される的な?」

「まぁ、そんなところだ。でもとんがってんのは外だけで、二人ん時はそれ程反抗しねぇよ」

「え、マジで。それはそれで、ちょっと見てぇ」

「ちょっとアキ?! 俺というものがありながら、由貴に興味持つってどういう事!」

「あー、悪い悪い、いって! 叩くなよ、悪かったって! 京吾が一番可愛いっつの」

「当たり前!」


……うるせぇ。
コイツらほんとやだ……。


***


それから 一度だけ休憩を挟んで、約2時間のドライブを終えた俺たち。
たどり着いた先は、風情のある海の家――ではなく、海から程近い場所にある高級ホテルだった。


「無駄にすげぇ……」

「さすがは伸のコネって感じだよな」


車を降りて唖然としていると、もう一台の車から降りてきた湊が苦笑しながら同意してくれる。

ちなみに今回泊まるのは、伸の親戚が経営してる系列のホテルとかで。
特別安く泊まれるらしいけど、本来なら高校生ごときが気軽に泊まって良い感じではない雰囲気だった。

まぁこれももう慣れた事ではあるんだけど、他の面々に比べて特に伸、瀬那、遥は、チョイスするものがいちいち豪華で高級だ。

若干きょろきょろしながら皆で連れ立ってホテルに入って行くと、すかさずボーイが荷物を持ちにやって来る。
チェックインは涼に任せる事にして、俺はロビーのソファーへと向かい、ケイたちと適当に寛ぐことにした。


「うわ、ホント海近い感じだねー。お客さんが水着で歩いてる!」

「そうだな」


はしゃぐケイに適当に相槌を打つと、そばに座っていた瀬那と遥がくすりと上品に笑う。


「京吾、ずっとこのテンションだったの?」

「そうなんだよ。マジ俺、遥とが良かったわー」

「え、僕?」


瀬那の質問にそう答えれば、遥が不思議そうに首を傾げた。

カットソーの上に半袖の爽やかな白パーカーを羽織った遥は、きちんと制服を着込んでいる時よりも放つ空気が柔和だ。
まぁ服装だけじゃなくて、周りにいるメンツも影響しているんだろうけれど。


「遥なら、堂々とイチャついたりしねぇだろ?」

「え?! あ……あぁ」


一瞬目を見開いたものの、遥は数秒で俺の言いたい事を理解したらしい。
苦笑しながら頷く遥の隣で、瀬那は不思議そうな顔をしていた。


「由貴、行くぞ」


いつの間にか手続きが終わったらしい涼たちに呼ばれ、皆で立ち上がる。
今回は2人部屋を4部屋押さえてあるらしく、俺はいわずもがな涼と一緒の部屋だ。

その後俺たちはボーイに連れられて順々にエレベーターへと乗り込み、それぞれ自分たちの部屋へと向かった。


「おー……!」


簡単な説明を終えてボーイが部屋を出て行くと、俺は真っ先に部屋の正面にある窓を開けて、ずっと気になっていたバルコニーへと出た。
ちょっと斜め向こう側ではあるけれど、真っ青な海と空が視界一杯に広がっていて、自然とテンションも上がってくる。
あぁ、潮の香りもするな。海って感じだ。


「結構海見えるな」

「なー」


俺の後に付いてきた涼にそう答え、俺はじっと海を見つめた。

身体を包み込んでくる湿気を含んだ空気は、真夏独特の暑いものだけれど、旅行・海・恋人という要素が綺麗に揃えば、俺だってそれなりに期待感は高まるものだ。
海を目の前にして、ようやくその気になってきたというか。


「多分ケイたち、すぐ出るよな? 支度しねぇと……」


そう言いながら部屋に戻り、俺はバックの方へと駆け寄った。
あぁ、冷房涼しー。


「荷物どうすっか……」

「お前は身ィ一つで大丈夫だろ。遊び道具は神崎と京吾が持ってくるだろうし、金は俺が払うし」

「お前は俺の保護者か」

「違うのか?」

「……」


じろっと睨みつけてやっても、涼はまったく動じずに口端を上げる。
俺はむすっとしながら、とりあえずバッグを漁った。


「携帯も置いてって良いけど、迷子になんなよ?」

「なんねぇし。俺の事バカにし過ぎ」

「してねぇし。愛故だろ?」

「どうだか」

「何でそう捻くれて捉えるんだよ。これだけ毎日可愛がってんのに」


なんてハズイ事をさらりと言われ、俺は思わず沈黙した。
あぁもう、何をしようとしたのか忘れたじゃん。


「……由貴」

「え、何――」


不意にすぐそばで名前を呼ばれて、振り返ってみれば、予想以上に近くにあった涼の脚。
反射的に上を向けば、膝を着いて屈み込んできた涼の顔がアップになった。


「……っ!」


突然唇ごと咥えられ、しゃがんだまま不安定な体勢だった俺は、身体をぐらつかせる。
……が、先回りしていた涼の腕にがっちりと抱え込まれた。


「ん……」


うっかり力を抜いたら、唇を割って柔らかな舌が差し込まれてきて。
間近で感じられる吐息と、伸ばした舌先を甘噛みされる感覚に、俺の理性は少しずつ溶かされていく。

もう何度目かわからない刺激なのに、 どうしてこうも慣れないんだろう。


「……っはぁ」


きゅっと強めに俺の舌を吸ってから離れていった唇に、名残惜しさを覚えて目で追えば、もう一度だけゆっくりと唇を合わされた。
まるでどろどろに甘やかされる感覚を植え付けられるような、中毒性の高いキス。


「ちゃんと、俺の目の届く範囲にいろよ」


挙げ句の果てには、そんな台詞を囁かれて。
結局俺はコイツには敵わないのだと、頭の片隅でぼんやりと思った。


「……じゃあ、目ぇ離すなよ……」

「フッ、そうだな」

「涼」


俺は膝立ちして、色っぽく笑った涼の顔を両手で挟む。
涼はされるがままにじっとしていて……だけどその漆黒の瞳は、俺のことを終始捕えたままだった。


「もっかい……」

「好きにしろよ」


許可を得て、俺は誘われるようにもう一度唇を押し付ける。
耳の下から差し入れられた涼の指先の感触に、身体の奥が疼いた。

涼とのキスは、本当に俺の思考を掻き乱す。
行動的にどっちが主導権を握っていたとしても……精神的に喰われているのは、常に俺なんだ。

見た目も、声も、キスも……そのすべてが、俺の心と身体をがんじがらめにしてくる。
涼と付き合うようになってから、“恋をする”という感覚は、意外と強烈でえげつないものなんだと思うようになった。

なんて、誰にも言えねぇけど。


「……は、ぁ……っ」

「スゲー心臓バクバク言ってんな」

「う……るせ」


服越しではあるものの、心臓の辺りを食まれて何ともいえない気分になってくる。
ぎゅっと涼の肩を掴めば、やたらと艶っぽい笑みで見られた。


「やらしー顔」

「お前に言われたくねー……」


照れ隠しで顔を背ければ、左手首を掴まれ、その拍子に細いシルバーブレスがするりと動いた。
涼と揃いのこのブレスをするようになってから、俺にとって左手首は、自分の身体の中でもやたらと特別な部位になった気がする。


「い……っ」


そして普段そのブレスがある場所――手首の裏側に吸い付かれ、その鈍い痛みに俺は思わず眉を寄せた。
地味に結構痛ぇし。


「何でそんな所にキスマ?」

「お前の場合、首とかだと逆に色気増すんだよ。だから今日はあえて付けねー」

「いやいや、たった今付けたじゃんか。ほら!」

「腕のなんてキスマに入んねぇだろ」

「入るわ! どんだけ不自然な鬱血だよ」


赤い鬱血のついた手首をさすっていると、前髪を掻き上げられて、額にキスをされる。
……何で今日は、こんな甘い空気ダダ漏れなんですかね。
照れるんだけど。


「お前は?」

「え?」

「俺には付けとかなくていーのか。ビーチでは、俺確実にモテるけど」

「……」


しれっとそう言う涼に、単純な俺は一瞬にして苛立ちを覚えた。
んなこと、わかってる……わかってるけど、やっぱり割り切れないのが人間っつーもんで。

両手で涼の頭と肩をそれぞれ掴み、バッチリ誰がどう見ても目に付きそうな場所に思いっきり吸い付いてやる。
そんな独占欲丸出しな行動も咎めることなく、涼はむしろ笑いながら甘受してくれた。


「あ、ケイから電話」

「待ちくたびれたんだろ。結構イチャついてたからな」

「誰のせいで……」


やっぱり照れくさくって、悪態を吐きながら携帯を取り出した俺。
とはいえやっぱり俺も、無意識のうちに浮き立っていたらしく……


「……ふ、いつにも増して甘えただな」

「うっせぇ」


憤慨しているケイの声を聞きつつ、俺は涼の膝の上に乗り、肩に頭を凭せ掛けた。
涼もその間、俺の髪に唇を押し付けてきていて。

――これから迎える夏のひと時に、俺は確かに胸を高鳴らせていた。


Continue...
***

↑^q^ww
まさかのコンティニュー。
さすがにここでは終わりませんよ。笑

コレ本来なら短編サイズだわーとか、途中で気付いたパターン。
たまにはいいですよね。何しろ夏イベSSですし。

次回はいよいよ海です!

2011.9.3

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