Wants 1st 番外SS
□Original TitleT
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お題サイト様:18 and 5
*(english)より
A little more
――もう少しだけ――
たとえば俺が、もう少し素直だったら。
たとえば俺が、もう少し強かったら。
明日も明後日も、君と一緒に過ごせたのだろうか。
「……」
今日は酷い雨だ。
こんな日に屋上へ上がってくる奴なんて、誰もいないってわかりきっているのに。
それでもこうして、俺が階下から上を見上げるのは……
(……やっぱり、いた)
屋上に続く扉の前で、一人地面に腰を下ろして座っている君。
何をする風でもなく、ただぼんやりと宙を見て、そこに座っている。
「……」
それを見届けて、俺はやっぱり踵を返すんだ。
ただ、それだけ。
君はいつも、確かにそこにいて……
そんな君の待つ相手は俺なんだろうと知りながら、こうして背を向ける。
そうやって、時期を遅らせようとする。
……あぁ、何て弱いんだろう。
静まり返った廊下の窓から外を見遣れば、憂鬱そのものの色をした厚ぼったい雲と、校庭を引っ掻き回すような土砂降りの雨が見える。
まるで、俺のこれからの人生みたいで。
雨は、酷く憂鬱だ。
「どこ行ってたんだよ?」
「……別に」
不意に、ひと気の無い小さな階段の前に腰を下ろしていた彼が、俺にそう問い掛けてきた。
最近、俺の隣を歩くようになった奴。
「……別に、ねぇ」
「……」
再び窓の外を見遣れば、そいつも同じ方向へと視線を向ける。
そんな、逃がさないとでもいうような声で言われなくても、俺は逃げたりしないのに。
だってお前も俺も、同じ諦めた目をしているから。
きっと俺と同じで、雨が憂鬱だって感じてるだろうから。
孤独が辛いのは、よくわかっているさ。
だから俺は、お前を残して逃げたりしないよ。
不意に息が詰まるような気がして、俺は窓を開け放った。
古びたそれは、鈍い音を立てて外界との境界線を消す。
「……」
冷たい、霧雨を含んだ風が、背後へと吹き抜けて行く。
あぁ、君が屋上の扉の前にいて、本当に良かった。
だってこんな灰色の雨は、君には似合わない。
君のセカイは、こんな色じゃない。
(……さよなら、しないとな)
それは何度も頭をよぎっては、見て見ぬふりをしてきたこと。
だけど、避けようのないことでもある。
(さよなら、しないと)
「もう少しだけ」なんて感情は、きっと傷を深くするだけ。
「……俺、やるよ」
「……は?」
「居場所が欲しいんだろう? 俺が、やる」
それは、俺と同じく淀んだ世界を眺め続けてきた彼に対して、唯一手を差し伸べられること。
これが良いことか、本当に彼が望んでいることなのかは、わからない。
だけど……
これは、大切な決断だった。
「……良い返事が聞けて、良かったよ」
「明日にでも、身辺を綺麗にする」
「あぁ」
少し救われたような……ますます深みに捕らわれたような、複雑な嘲笑を浮かべた彼は、どこか泣き出しそうだった。
まるで、この雨のように。
だけど俺には、どうすることも出来ないよ。
慣れ合うことでしか、応えてあげられないんだ。
「……」
明日、君にさよならを言いに行くよ。
きっと信じないって……嘘だって、君は言うだろうね。
だけど、もう無理なんだ。
俺のいるセカイは、雨ばかりだから。
君に、さよならを言いに行くよ。
だから――
(もう少しだけ……)
あと、ほんの少しだけ。
君を想っていても、いいだろうか。
fin.
***
スピンオフへの、橋渡しSSでした。
もしかしたら勘の良い方は、すぐに誰だかわかったかもしれませんね。
多分それで合ってます、とだけ言っておきます。笑
ほんと糖度と無縁でしたが、実はこういうのも好きだったりするんですよね。
寂しくなりますが。
2011.2.7