Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
19ページ/22ページ



17.夏祭り

Side:Keigo


「わーっ、ここ来たの凄い久し振り!」

「人スゲーな!」

「昂介行こう! 何か食べながら歩こう!」

「え、もう?! ちょ、キョウちゃん待って待って」


夏休みもあとわずか……という時期の、地元の神社にて。
普段はひっそりとしているその場所だけれど、今だけは活気に溢れていた。

ひっきりなしに聞こえてくるお囃子の音、食べ物の匂い、行き交う浴衣姿の人たち。
関東圏にしては比較的遅めに行われるそのお祭りを、俺はどれ程心待ちにしていたことか。


「おーい、京吾コケんなよ」

「昂介前見ろ、ぶつかんぞ」


後ろからそんな声が聞こえたけど、じっとなんてしてられない。
俺は昂介の手を握ったまま、どこから遊びに行こうとわくわくしていた。

わたあめ、金魚すくい、フランクフルト、焼そば、ヨーヨー……
お祭り独特の出店がずらりと並んでいて、目移りして仕方がない。


「ちょ、キョウちゃんマジで気を付けて! コケないでね!」

「俺は大丈夫だよー、むしろ昂介が危ないんでしょ?」

「うん、だから引っ張らないで!」

「あははっ、昂介浴衣苦手過ぎ! 走り方オカシイよ!」


爆笑しながら振り返れば、「キョウちゃん酷ぇ!」と泣きそうになっている昂介の姿が。

そう。今回は何と、皆ではりきって浴衣出陣したのだ。
浴衣でWデートとか、ほんと楽しいんだけど!
……って、ここに由貴がいたらまた「女子高生かよ」ってツッコまれるんだろうな。


「昂介浴衣着ると、幼く見えるよね」

「……キョウちゃんもね。まぁ、すっごい可愛いけど」

「何で同じ男でも違うかなぁー?」

「キョウちゃん……それは言わない約束だぜ……」


二人で目を見合わせ、苦笑しながら後ろを振り返る。

そこには互いの最愛の恋人がいて、やはり浴衣を着ていた。
ただ俺たちと明らかに違うのは、終始色気を垂れ流していること。
アキも翼も、実年齢プラス2〜3歳って感じに見える。


アキは落ち着いた濃紺地に白く菊花模様が入った浴衣で、金髪・ヘーゼルアイ・ピアスといった派手な要素とのコントラストが凄い。

何て言うか、外人さんがスタイリッシュに着物を着てるって感じで、行き交う人たちも皆振り返って二度見してる勢いだし。

何より比較的白めの肌や、その端正な顔立ちによく馴染んでいて、異様な色気を放っていた。
もう付き合って数年な俺ですら、うっかり見惚れてしまうくらいにカッコイイ。


それに対して翼はシックな黒地の、大ぶりな市松紋様の浴衣。

何でも巳弘さんが取引のあったブランドの模様らしく、近くから見ると薄い部分にはモノトーンでうっすらとゼブラっぽい模様が入っていたりして、何ともレトロモダンな浴衣だ。

元々長身で大人顔な翼は、最早着馴れているんじゃないかと思うくらいサラリと着こなしている。
少し長めの襟足の髪を、今日は暑いからと言って後ろで結っているんだけど……項がとてもエロイですお兄さん。


で、目の前にいる昂介はといえば。
青に近い紺地に、うっすらとストライプやアーガイルが入っている爽やかめの浴衣。

白地の帯がアクセントになっていて、活発な昂介によく似合っていた。
何より慣れない感じで歩く姿が、年下の俺から見ても可愛いというか。


「しっかし、キョウちゃん浴衣似合うよねー。白でもさらっと着こなすんだから」

「あはは、ありがとー。でも昂介もちゃんと可愛いから大丈夫、大丈夫」

「いや、俺は……」

「翼がさっきから、エロイ目でチラチラ見てるし」

「ぶっ、ちょ……っ! え、エロイ目してんのは秋斗だろ?! お、俺アレ買ってくるっ!」

「あははっ!」


俺は笑いながら、両手をパタパタ振りつつ「早くー!」と後ろの二人を呼ぶ。

アキが気に入って、絶対着て欲しいと言ってくれた白地の浴衣。
袖や胸の一部に入ったアラベスクデザインがさり気なくて、俺も試着してみて一目惚れしたんだよね。

やっぱり、いつもと違う雰囲気になれるって楽しい。


「お前ら早過ぎ。どこのガキだよ」

「えー、だって楽しいじゃんっ」


追い付いてきたアキにえへへと笑えば、目を細めて頭を撫でられる。
ホントはがっつり手とか繋ぎたいけど、一応世間の目ってものがあるからね。すごい人の数だし。


「あー……京吾お前マジ可愛い。後で林の方行かね? 浴衣で密かに青か……いでっ」

「秋斗、お前ホントそのうち公然わいせつで捕まるぞ」


アキの頭を後ろから容赦無く叩いた翼は、呆れ顔で溜息を吐いた。
もう慣れた光景のはずだけど、しばらく皆と違う学園にいた俺としては、すごく懐かしく感じる。

ちょっと前までは、一緒にいた4人。
由貴や涼先輩たちと過ごす時間ももちろん楽しいけれど、やっぱり帰るべき場所はここかな……という気がして、すごくほっとするっていうか。


「キョウちゃーん、あそこ空いてたから買ってきちったー」

「わ、ありがと!」


昂介がパックに入ったフランクフルトを手にして戻ってきて、俺はにこにこ顔でそれを受け取った。
ケチャップとマスタードがたっぷりかかっていて美味しそうだけど、うっかりすると垂れちゃいそうだ。

浴衣に付いたら大変だと慌てて舌を伸ばすと、途端にアキがニヤニヤし始める。
あ、もう大体想像ついた。


「ちょっとちょっと昂介くんー。俺の京吾に何卑猥なもの食わせてんだよ」

「え……は?」

「翼へのアピール? あ、むしろ恋しくなっちゃった?」

「ばっ、お前マジでバカ! バカ秋斗げほっ……っごほっげほっ」

「あーあー……オイ秋斗。昂介イジメんなっつったろ。第一俺は、こんなにちっさくねーよ」

「げほっげほっ」

「ぎゃはは翼、サイテー!」

「お前もな」


しらっと答える翼に、爆笑するアキ。
その前で死にそうなくらいむせている昂介の背中を撫でつつ、俺も笑ってしまった。

くっだらないし、到底上品とは思えない会話。
だけどそんな飾り気のない軽い言い合いが、皆らしくて大好きだ。


「ごほっ……けほっ……あー、くるし」

「昂介すごい涙目! 大丈夫ー?」

「いやダメ……キョウちゃん、マジ秋斗黙らせとい――」

「ゴメン手に負えない」

「返事早ッ」


それからも他愛の無い会話を続けつつ、ゆっくりと歩く俺たち。
いつの間にか昂介の隣には翼が、俺の隣にはアキが並んでいた。

ここはかなり地元だから、結構アキたちの顔は知れている。
そのお陰で、見知らぬ土地よりは逆ナンされる率も低かった。

“白”というグループ名までは知らなくとも、アキたちがこの辺を仕切っているっていうのは有名な話だったし。

そう簡単に声を掛けてはいけないランクの相手だという暗黙のルールが、近隣に住む女子たちには浸透しているのだ。
お陰でかなり快適。やっぱり地元って、心安らぐよね。


「マジ秋斗ねぇし! ホントやだ!」

「あ? なーにピュアぶってんだよ昂介、連日翼にアパート連れ込まれてるくせに――」

「わーっ、わーっ! バカ! バカ秋斗!」

「いって、ぶったなコラ! テメェ良い度胸だ!」

「今日は負けねーッ! 秋斗勝負だ!」

「負けたらこの場でチューの刑!」

「なッ?!」

「男に二言はナシ! ハイ決定。んじゃ種目はー……」


アキは昂介の腕を掴んで、出店が並ぶ方へと引っ張っていく。
俺と翼は顔を見合わせて苦笑し、二人の後に付いて行った。


「つーかさっきの罰ゲーム、昂介しかダメージ受けねぇじゃんな」

「だよね。しかもチューって、何気に俺や翼も巻き込まれてるし」

「昂介バカだな……何で気付かないんだ」

「そんな所が可愛いんでしょ?」

「……まぁ、そうかも。つーか種目ヨーヨー釣りかよ」

「あははっ、ホントだ!」

「ここは普通、カッコ良く射的とかだろ……」

「一歩譲っても金魚すくいだね」

「まぁアイツら普通じゃねぇからな」

「あはは翼酷い!」

「毎日アレのお守してる身になってみろよ、大抵の事じゃ驚かなくなんぞ」

「あー、だから翼一気に大人っぽくなっちゃったんだね」

「え、老けた?」

「ははっ、ネガティブ!」


翼の隣をちょこちょこ歩きつつ、子どもたちを傍観者にさせてヨーヨー釣りに励むアキと昂介の方へと近付いていく。
途中丁度列が途切れていたお店で、翼にチョコバナナを買ってもらったりして。


「キョウ、甘いの平気になったのか?」

「ううん、普段はほとんど食べないけど。何だろ、やっぱりお祭りって特別だよね」

「そういうもんか」

「そういうもんー。ねね、翼」

「ん、どした」

「どうやったら卑猥に見えるかな? 舐め上げれば良い? それとも先っぽ食べれば良い?」

「……秋斗とキョウは、一体何を目指してるのか聞いても良いか?」

「あはははっ」

「あー……そういやキョウも、時々悪ノリ酷ぇ時あったよな。何か今思い出した」

「いーまーさーらー」

「勘弁してくれ、さらに老ける」


終始笑いながら、ヨーヨー釣りのそばで翼と話していると。
突然前方で、昂介の悲痛な叫び声が上がった。
ていうか、


「うわ……」

「あのヨーヨーの店、もう店仕舞いだな……」


こっちに戻ってきた二人の手には、無数のヨーヨーが入った袋が。
子どもたちを差し置いて、何で買い占めてるんだか。
ていうか、そんな手に入れてどうするんだろう……


「京吾ー! 勝った! 勝ったからチューして!」

「え、普通にルール変わってない?」

「勝ったご褒美はチューって、今俺が決めた」

「何その自由過ぎる勝負!」


言いながらも、満面の笑みで屈み込んできたアキが無邪気で可愛くて。
俺はちらりと左右を確認した後、比較的人が少ないタイミングでほっぺたにキスしてあげた。

そんな俺を見て、「甘やかし過ぎ……」とぼやく翼。
とか言いながら翼だって、しょげてる昂介の頭をナデナデしてるし、良い勝負だと思う。


「つーかお前ら、そのヨーヨーどうすんだよ……」

「あ、俺超良い事思い付いた! 聞け翼、俺の素晴らしいお遊びプランを!」

「……スゲー聞きたくないけど、お前勝手にしゃべるんだろ」

「近々メンバー集めて遊ぼうぜ! 昔よく、水風船爆弾とかやったよな。夏だしぜってー気持ち良いって!」

「ヨーヨーはぶつけるもんじゃねぇよ……」

「気合い入れて投げりゃ割れんじゃね? 本気ドッジの要領で投げれば!」

「もう不憫だわ、ウチのグループメンバーまじで不憫だわ……」


アキの提案に、片手で顔を覆う翼。
ちなみに昂介は勝負に負けたショックから、俺のチョコバナナ残り3分の1をしょんぼりと食べている。


「昂介、元気出しなよ。見た所接戦だったっぽいけど」

「勝敗の世界に、惜しいも何もねぇ……! クソ、何で俺はいつも秋斗に勝てないんだ……」

「ヨーヨーは勝てなくても問題ないんじゃ……」

「敗因はやっぱり、過信による油断なんだよな。一瞬の気の乱れが、命取りとなるというか……」


あー、昂介トリップしちゃったし。
めっちゃ唇の端にチョコ付いてる状態で難しい事言っても、イマイチ説得力が無いよ。


「ほらー、アキ! 昂介落ち込んでるよー?」

「あ?」

「チューしてあげるから、ちゃんとゴメンてしてあげて」

「え、まじで? 昂介ごめーん! ダイスキヨ!」

「ぶほっ」


アキが後ろから思いっきり抱き付いたら、昂介が倒れ……かかったのを翼がキャッチした拍子に、俺がアキの手を引いて回収した。

もう、ホント元気いっぱいなんだから。
学校でもこのテンションなんじゃ、そりゃ翼が一足先に大人になっちゃうわけだよね。


「もう、アキ落ち着いて? 浴衣着崩れちゃうでしょ」

「そしたら京吾が直してくれんだろ?」

「まぁ、そうだけどさー」

「つーか、約束のチューは?」


そう言って、ニヤリと口端を上げたアキ。
あ、と顔を上げると、アキは俺ごと少しだけ道の端に移動して、さり気なく俺を袖で隠した。


「――っ」


アキの身体と袖に囲われ、俺が影になった瞬間触れ合った唇。
周りのざわめきが遠のき、視界はアキの顔でいっぱいになって、それと同時にアキの香水の匂いに包まれる。
そして微かに聞こえてくる、アキの息遣い……

きっとほんの2、3秒の出来事だったんだと思うけど、俺にとっては刺激的な一瞬だった。


「あ……アキ、ここは流石に……っ」

「誰も見てねーって」

「……そうだけど」

「別に見られてもいーし」


そう言って、フッと笑ったアキ。
無邪気なのに男っぽさもあるその笑顔に、俺の鼓動はどんどん速くなっていく。


「俺たちは、ずっと一緒だろ?」


その時向こうから、翼と昂介に呼ばれた。
アキは返事をしながら、どさくさに紛れて俺の手を掴んで駆け出す。

これからも、ずっとずっと。
こんな風に……大好きな皆と、人生を歩んで行けたら良い。

一回り大きな手をぎゅっと握り締めれば、
アキも前を見たまま、もっと強く握り返してくれた。


fin.
***

終始わいわい。
終始悪ノリ・悪フザケw

何気に京吾も翼も時々便乗するので、ノンストップになってしまうという罠。
読者様は、何箇所ツッコんでくれただろうか……。←

夏祭りって、良い思い出になりますよね^q^

2011.8.28

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ