Wants 1st 番外SS
□Original TitleT
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16.ふわふわ
Side:Haruka
「うわ、これ超遥に似合いそうじゃん」
「え? 何で僕?!」
「ふわふわーもこもこー!」
ある日の放課後。
僕は京吾に誘われて、街の方に遊びに来ていた。
話によるとこの辺は“白”メンバーが目を光らせている区域らしくて、京吾と一緒なら二人でも構わないと、湊も快く送り出してくれたのだ。
「……ていうかコレ女の子の」
「何言ってんの、遥の可愛さはその辺の女には負けないよ?!」
「……いや」
「まぁ俺もだけどね」
「……」
そんな自信満々に可愛いアピールをされても……どうしろっていうんだか。
僕は半ば呆れながら、手渡された服を戻そうとした。
やたらふわふわなパイル生地の、白いパーカー。
確かに、すっごく気持ち良い手触りだけど……
「えー、買おうよ。ココは買うべきでしょ」
「え、京吾買うの?」
「あ、俺は違う色にするからお気遣いなく」
「いや、色とかじゃなくて……え、これ女の子……」
「サイズ的に問題無いんだからいーじゃん。似合う人が着るべき。ていうか遥知らないの?」
そう言って京吾は、ちらりとこっちを見てくる。
「な、何を?」
「男ってー、柔らかい手触りに癒されるんだよ。女の子が良い例じゃん? 身体自体柔らかいし、何かとふわっとした素材のもの身に付けるし」
「そうなの……?」
「何か恋愛心理特集とかで見た。アキも好きなんだよねー、ふわふわもこもこな手触りのやつ」
言いながら京吾はパーカーを取ると、ニヤリと笑った。
その表情は、その辺にいる女の子よりも小悪魔っぽい気がする……。
「遥みたいなうさちゃんがそんなの着たら、多分みぃくん歓喜だよ。終始抱き締めて触りまくって、最終的にはベッドに――」
「わっ、うわーっ! 京吾バカ! こんな所で何言って」
「ね? 楽しみでしょ。だからほらココは買うべきです。はい会計行こー」
「え、ちょ、ちょ?!」
「あーお腹空いたー。支払い済んだらもうご飯行かない? 遥お勧めの店連れてってよ」
京吾のマイペースさ……というか強引さには、今でも時々驚かされる。
本当はすごい良い奴なんだけど、ほんと敵に回したくないタイプだよね……。
友達になる前の頃、よく京吾に喰ってかかれたものだと思う。
今思えば、僕って怖い者知らずだったのかも……。
「次の週末、コレ着て誘惑作戦ね」
「誘惑?!」
「なーに今さら照れてんの。毎日イチャイチャラブラブしてるくせに」
「してないよ!」
「はー? いつもアキに会えない俺の前で見せ付けておいて、まさかの自覚無しー? ちょー腹立つんですけどー。あ、遥ジュース奢って」
「……僕、京吾が時々女子高生に見えるよ」
「あはは! 由貴にもよく言われる」
そしてマイペースな京吾につられ、予定外のパーカーを購入。
確かに気持ち良さそうだけど……何か、ちょっと。
……緊張しそうだなぁ……。
***
そして週末。
いつもの如く僕の寮部屋には、湊が泊まりに来ている。
色んなおしゃべりをして、ご飯を食べて、先に湊がお風呂に入って。
続けて僕もお風呂に入り、今まさに服を着ている最中だった。
「……」
手にしたのは、数日前に京吾と買った……ていうか買わされたパイル生地の、ふわふわパーカー。
せっかくだから着てみようと思ったんだけど……や、やっぱり狙い過ぎかな?
女の子っぽいって、気持ち悪がられるかな。
でも形は普通のパーカーだし……必ずしも男子が着ちゃいけないってものでもないと思うけど。
そんな事を悶々と考えること数十秒。
僕は勇気を振り絞って、それを着ることにした。
ファスナーを上げて、脱衣場を後にする。
そして無駄にドキドキしながら、リビングのドアを開けた。
「あ、出てきた」
ドアがカチャリと鳴ったと同時にソファーから振り返り、笑顔を見せてくれる湊。
僕と一緒にいる時の湊は、常に僕の方を見ていてくれる。
そんな些細なことが嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて。
思わず目を逸らしながら「うん……」と呟き、ソファーの方へ近付いていくと……
「え、何それ! 新しい?」
「え?」
「服! ちょ……っ、こっちにおいで!!」
「?!」
眼前で満面の笑みを浮かべ、両腕を広げた湊。
そのテンションの上がりっぷりにちょっと動揺しながら、僕はおずおずと近付いて行った。
でも、あと数歩のところで湊にフライングされる。
「うわぁっ」
「やべぇ何この可愛い生き物! ふわふわしてやがる!」
「ちょ、何」
「うさぎだ……リアルにうさぎがいる! かーわーいーーっ」
抱き上げられ、そのままソファーに持っていかれた僕。
湊は僕のお腹から背中まですりすりと撫で回しながら、挙げ句の果てには胸元に頬を擦り付けてきた。
ちょ……僕犬とか猫じゃないんだけど!
何かペットを撫でくり回してる感じだよね……?!
「ちょ、湊ってば」
「もう本当可愛い。遥可愛過ぎる。ごめんムラムラしてきた」
「え?!」
「パーカーだけ着たまま出来ねぇかな……ファスナー開けてさぁ。中のシャツだけ脱げない?」
「……ヘンタイっぽいよ湊」
「いやいや止むを得ないだろ、これは遥が悪いって」
「な、何言ってんの!」
「ふはっ、遥真っ赤」
「湊が変な事ばっかり言うから……っ」
「しょうがねぇだろ? 遥がスゲー好きなんだから。好きな相手が可愛かったら、どうしたってテンション上がるっつーの」
そう言いながら目を細め、頬から唇端にチュ、チュ……とキスをしてくる湊。
その甘やかすようなキスが優し過ぎて……いっぱい愛情が注がれているっていうのは、嫌でもわかるから。
僕はそれ以上の事は言えず、ただただされるがままになってしまう。
……湊はずるい。
好きって言われたら……僕は何にも逆らえなくなっちゃうって、きっとわかって言ってるんだ。
「……ん……ぅ……」
「はーるか、ほら」
「んぁ……っ」
「あーんして」
ゆっくりとソファーに押し倒されて、ぴったりと唇が重なり合う。
言われた通り唇をそっと開けば柔らかい舌が入ってきて、口内をくるりとくすぐられた。
「ん……ふ、ぅ……」
弱く湊のシャツを掴もうとすれば、手を握られる。
指先が絡み、親指で手の甲を撫でられて。
どこまでも溶かされていくような深いキスに、頭がぼうっとしてくる。
その間も湊の手はパーカーごと、僕のウエストを撫でていた。
「……あー……マジ可愛い……」
「ん……」
「遥可愛い。ずっと抱き締めてたくなる……」
唇と手が離れて、代わりにぎゅうっと抱き締められたと共に囁かれた言葉。
途端に胸がぎゅうっとなって、僕も湊の背中へと両手を回す。
「……僕も……好き」
「……ん」
「ずっと、抱き締めてて……」
言った言葉は、恥ずかしさと自分の自信の無さで、少し弱々しいものになってしまったけれど。
湊は密やかに笑って、「もちろん」と囁きながら首筋に吸い付いてきた。
ちくっと走った痛みと、優しく身体に触れてくる指先。
甘い甘い声に、とろけてしまうような視線。
すっごく優しくて人気者な湊を、僕だけが独占出来る瞬間……
僕は苦しい程に、幸せだと思える。
「……遥、愛してる」
「うん……」
「中のシャツだけ、脱いで?」
「……」
……時々危ない事を言ってくるのが、玉に瑕だけど。
結局僕も、湊のことが大好きでたまらないから。
「……じゃあ」
「ん?」
「湊が……脱がして……」
「!」
少しでも喜んでくれるなら……まぁいっかって、思っちゃうんだよね。
「……え、湊……?」
「あーやべぇもう我慢出来ねぇ! 遥、今日長期戦だから頑張ってな」
「ちょ、長期戦?!」
「少なくとも、パーカー有りバージョンと無しバージョンで一回ずつ――」
「ば、バカ!」
fin.
***
パーカーも遥の小動物っぷりも恋心も、全部がふわふわw
ふわふわカップルです。※感覚的過ぎる件
そして京吾は、ネコを溺愛するタチの味方^q^
いつも上手い事動いてくれます。笑
きっと同じ頃、秋斗とラブラブしていたことでしょう。
2011.8.25