Wants 1st 番外SS
□Original TitleT
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13.遊びが本業です
Side:Tsubasa
※文中に未成年の喫煙シーンがございますが、あくまでフィクションですのでご了承下さいませ。
「ぎゃははは誠二ダセェ! マジバカ! フビンー!」
「テメェ頭カチ割んぞゴラァ! !」
真面目にノートに視線を落としながら授業を受けていたら、突然廊下からそんな会話が聞こえてきた。
バカばっかの学校だから、元々シンとした教室ではなかったものの、その怒号ははっきりと聞き取れる程のデカさで響き渡っていて。
「俺を捕まえようなんざ、100万年早ぇんだよ! 現役高校生ナメんな!」
「テメェはサルか! 階段は足で下りろ! 手摺りを滑んじゃねぇ!」
「やめられねー止まらねぇー」
続いて聞こえてきたその会話に、教室内は一気に湧き立った。
ただでさえ集中力がもたないクラスメートたちは、好奇心に満ちた顔で廊下の向こう側に興味津々だ。
ちなみに俺は3年A組。
つまりは一番階段に近い教室で、授業を受けている。
お陰で階段のフロアで交わされる会話も、廊下を伝ってガンガン聞こえてきた。
「テメェマジで止まれっつってんだよ! 意地でも教室連れ戻してやるからな、このクソガキ!」
「俺ワイルドボーイだから、追い掛けられると逃げるか戦うかしたくなっちゃうワケ。殴らないんだから超エライだろ? 褒めて褒めてー」
「キモイんだよ! つか……オイッ! 走りながらエネルギーチャージすんな!」
「今の俺、CM撮影中みたいじゃね?! ヤベーちょっとアゲなんだけど! 『どうするよ俺、つづく!』」
「そりゃクレジットのCMだろーが! 若干古ぃし関係無ぇっつの! やるならスポーツ飲料のにしろ!」
「ぎゃはは誠二ナイスツッコミ!」
「マジで止まれバカ秋斗ーーーッ!!!」
…………。
マジでアイツ何やってんだよ。
クラスどころか学年まで越えて授業妨害をする、秋斗と教師……主に秋斗の元担任の誠二との鬼ごっこは、今や珍しいものではない。
ちなみに現在の誠二が担任してんのは、昂介のクラスなんだけど。
まぁそんな情報は良いとして、問題は秋斗だ。
アイツまた授業サボりやがって……最悪サボっても構わないから、誠二にだけは見付かんないで欲しい。
マジでうるせぇ。
「翼くーん……」
「……え」
「申し訳ないんだけど、誠二先生のお手伝いに行ってあげて? どうせもう、授業どころじゃなさそうだしぃ……」
「……」
不意に声を掛けられて顔を上げれば、さっきまで板書をしていた女教師が苦笑しながら立っていた。
ちなみに専ら同じ教科担当である誠二を狙っていると噂が立っている、派手でいまだ女現役って感じの20代半ばの先生だ。
補足をすれば女子には「尻軽」と嫌われ、男子からは「身体のラインがたまんねぇ」と大人気だったりして……まぁそれこそどうでも良い情報だけど。
「……マジすか。出来れば授業続けて欲しいんですけど」
「やだぁ、翼くんだったら、準備室来てくれればいつでも補講してあげるってぇ!」
「……」
いやいやセンセー、そんな下心アリアリなお誘いをされても、俺フツーに恋人いるんで。
俺は溜息を吐きながら、仕方なく立ち上がった。
こうなるのも、珍しいことじゃない。
何しろあのアホ……いやバカ……違った秋斗を止められるのは、この学校では俺くらいしかいねぇし。
昂介がやると、からかい倒されるのがオチだからな。
「……はぁ」
ざわざわと騒ぎながら、秋斗たちの様子を一目でも見ようとはしゃいでいるクラスメートたちを押し退け、俺は教室の出口へと向かう。
溜息を吐きながら廊下に出れば、何故か向こうの方から女子の歓声が上がった。
「きゃー翼くんが止めに出たよ!」
「マジで? ちょ、写メ!」
「バカ、ここはムービーでしょムービー!」
「秋斗くんと翼くんのツーショマジ欲しーっ」
いやいや見せもんじゃないんで。
つか一体、アホを捕獲する俺の図のどこに魅力を感じるんだギャル軍団よ。
第一まだチャイム鳴るまで10分くらいあるだろ、何で廊下で張ってんだ。
時々俺はこの学校の生徒たちの未来が、本気で心配になってくる。
「おーい、誠二ー!」
俺は階段の手摺りから下を眺めつつ、とりあえず誠二の名前を呼んでみた。
実は俺も、1年の時誠二が担任だったんだよな。
俺、秋斗、昂介と3人の担任を網羅するとか……誠二の非運には、同情するものがある。
「おう、翼か」
「秋斗どこに逃亡中?」
「今多目的ホールに入ってった。ぜってぇ機材ぶっ壊すよアイツ……!」
唸るような声でそう言ったヤンキー教師に苦笑しつつ、俺は階段を下りて多目的ホールの方へと向かった。
「誠二、秋斗捕獲すっから昼飯奢って」
「んだとコラ」
「いいじゃん、安月給を見越してディナーとは言ってねぇだろ」
「お前も大概可愛くねぇよな翼……」
「生憎可愛くなれるような教育は、受けてないもんで」
肩を竦めながら誠二の隣を通過し、俺は多目的ホールに入る。
と、階段の最上部にある座席の上に腰掛けた秋斗が、優雅に足を組んで片肘を着いていた。
「んだよ、誠二のヤツもうバテたワケ? だらしねぇなー」
「お前……化け物ばりの自分の体力を基準にすんなよ。つかマジ、俺にメーワクかけんな」
「こうやって俺を迎えに来れるのは、翼だけの特権だぜ? 喜べ下僕!」
「ハイうぜぇ。もうキョウ迎えに行ってやんねー」
「あ、ナシ。今の超ナシ! 俺は翼をアイシテル!」
「どんなフォローだよ」
やたらと声の響くホール内でくだらない会話をしながら、距離を詰めていく俺。
秋斗は相変わらず足を組んだまま、笑みを浮かべている。
そんな王様みてぇな態度に脱力しながら、俺は階段を上りきって、通路を挟んだ隣の座席へと腰を下ろした。
「あー、煙草吸いてぇ」
「翼も大概不良だよな。皆顔にダマされてっけど」
「あ? 俺はスゲー真面目だろうが」
「いやいやお兄さん、嘘はいけませんて。高2ん時、授業中喧嘩ふっ掛けられて机真っ二つに折ったのは誰ですかー」
「……」
「ほーらみろ。俺は器物損壊はまだしてねぇ。2回しか」
「俺だって4年目だけど、まだ2回だっつの。秋斗みてぇに校内ぐるぐる駆けっこしたりしてねぇしよ」
「最近体育が球技ばっかで、走り足んねーんだよ。すっげぇフラストレーション溜まる」
「じゃあ街のパトロールでもしとけ」
「あっははは! それ良いかも! んじゃ翼は、ジャムという名のオジサン役な?!」
「ふざけんな、どう考えても運転免許まで持ってる食パン野郎だろ。二枚目だし」
「ぎゃはは翼似合う! 無駄にその役似合うわ!」
相変わらずよく笑う秋斗とバカな話をしながらまったりとしていると、不意にスゲー音でホールの扉が開いた。
はっとそっちを見れば、青筋を立てた誠二が……
やべ、俺秋斗を捕まえに来たんだった。すっかり忘れてたし。
「翼ァ!! テメェまで感化されてどうする!」
「あー、悪ぃ誠二。今秋斗に街のパトロール勧めててよ」
「あぁ?!」
「つーか誠二ー、俺腹減ったんだけど。追っ駆けっこまた今度にしよー」
「はぁぁぁ?!」
あー、誠二血管切れそう。
可哀相に……俺らと出逢ったことで、多分誠二の寿命縮まったな。
スゲー血圧上がってそうだし。
「誠二、秋斗は構うから喜んで逃げるんだって。放っときゃ適当に戻ってくるんだから、気にすんなよ」
「翼テメェ、目上の人間に説教すんじゃねぇ!」
「えー、今度は俺かよ」
面倒臭ぇと呟けば、秋斗はまたのん気に笑っていた。
と、校内中にチャイムの音が響き渡る。
「よっしゃ昼休み! メシだメシー!」
「一服してぇ。屋上行くかな……」
「オイお前ら、そのまま昼飯行けると思ったら大間違い――って」
グダグダと説教を始めそうになった誠二の両脇を、フェイントをかけて擦り抜けた俺と秋斗。
目を見合わせて走り出すと、誠二は真っ赤な顔で振り返ってまだ何か叫んでいた。
「翼今日屋上ー?」
「おう、先行っとくわ」
「オッケ、昂介回収して後で行く」
「あぁ」
その会話を最後に、俺たちは追っ手の目を眩ますように行き先を別々にする。
その間も廊下で無数の携帯が向けられていた気がするが、それもまぁ珍しい事じゃねぇから気にしない事にしよう。
「あー、走った走った……」
屋上へと続く重い鉄扉を開ければ、澄んだ青空が見えて気持ちが良い。
一服しながら秋斗と昂介を待とうと梯子脇に歩み寄れば、そこには珍しく先客がいて。
「あれ、お前らもサボり?」
「翼さん、お疲れ様でした」
「見てたのかよ」
「いえ、何となく雰囲気的に」
「正解。また誠二と秋斗の駆けっこに巻き込まれてた」
肩に凭れ掛かって眠っている瑞貴を支えつつ、微笑み掛けてきた陽に俺は苦笑する。
よくよく見てみれば、瑞貴のさらに向こう側にある日陰には、フェンスに凭れ掛かって眠る漸がいた。
「どいつもこいつも、不真面目だなァ……」
「瑞貴さんと漸さんのクラスは、自習だったらしいです」
「へぇ」
俺は適当に腰を下ろして、煙草に火をつけた。
今頃秋斗はきっと、机で爆睡している昂介を起こしているに違いない。
よくある、何てことのない日常風景。
だけど最初にここを卒業してしまう俺は、きっと近い将来「懐かしい」と思うようになってしまうんだろうな。
そんな事を思いながら、ぼんやりと雲一つ無い青空を見上げた。
fin.
***
由貴たちの通う学園では、100%有り得ない光景。
まぁ私としては、Wantsシリーズは金持ち学園と不良校の両方が書けて二度オイシイですが^q^笑
ちなみに瑞貴と漸は、普段は巳弘の為にちゃんと授業受けてます☆
今回は自習で抜け出した為、瑞貴→陽に呼び出しコールが掛かったっていう裏話があったり無かったり……。
それにしても秋斗のおフザケレベルが尋常じゃない。
悪ノリ代表ですね。
2011.8.18