Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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12.もっと、もっと。

Side:Keigo


キッチンの方から、鼻歌が聞こえてくる。
その機嫌の良さそうな様子に、俺は思わず頬が緩んだ。

そっと足音を忍ばせながら、リビングを抜けてキッチンへ。
ただの後ろ姿でさえカッコイイ彼氏にちょっと感動しながら、そっと歩み寄っていく。

……多分気付いてるけど、気付かないフリをしてくれてるんだろうな。

俺はにやける顔を抑えることもせず、どんどん距離を詰めていった。
今は包丁も持ってないし、フライパンも丁度置いたところみたいだ。
うん、今行っちゃおう。


「……京吾、危ねぇだろ?」

「危なくないタイミング狙ったもーん」


俺はえへへと笑いながら、服の上からでも硬いとわかる腹筋に、後ろから腕を巻き付けた。

アキは叱る口調ながらも、それを振り解こうとはしない。
むしろ俺の行動に笑いながら、逞しい腕をそっと俺の肩に掛けてくる。


「ほんのちょっとの間も、一人で待ってらんないのかよ」

「んー、淋しがり屋だから」

「ははっ、自分で言ってるし」

「ほんとだよー? 出来るならアキとずっとイチャイチャしてたいもん」


そう言ってチラリとアキを伺い見れば、ライトブラウンが強めのヘーゼルアイがふっと細められた。
続いて身を屈めたアキに合わせ、すっと瞼を落とす。
目尻に、頬に、口端に押し付けられていった唇は、最後に俺の下唇を緩く吸いながら離れていって。


「……アキ」

「キッチンで誘惑すんな。負けんだろーが」

「だってー。アキが好きなんだもん」

「困った奴だな」


苦笑しながら手元を動かすアキに甘えるように、少し背伸びしてシャツから覗いている鎖骨に吸いついた。

アキは俺の腰に腕を回しながら、「マジでちょっと待ってろって」とか言いつつ、やっぱり全然離そうとはしない。
ちなみにその顔は思いっきりニヤけてて、言ってる内容以外の行動は全部一致している。


「アキの嘘吐き。ちょっかい出されなかったら出されなかったで、それこそ淋しいでしょ?」

「……まぁ、具合でも悪ィのかなって心配にはなる」

「あははっ」

「あークソ、それ以上可愛く笑うな。そろそろムラムラしてきた」

「えー、どうしようかなぁ」

「ちょ……オイっ。ったく、どこで覚えてくんだよお前は……」


ふざけて手のひらをアキのパンツのファスナー辺りに滑らせたら、流石に手首を掴まれた。

まぁね、これから昼ご飯だしね。
せっかくアキが作ってくれてるのに、このまますぐベッドに流れるっていうのはちょっと勿体無い。


「キッチンに立ってるアキって、新鮮で大好き」

「大したもん作れねぇけどな」

「でもアキのご飯好きだよ、男! って感じで」


アキは両親の都合で、お姉さんとマンションをルームシェアしている。……まぁ、書面上はだけど。
実際のところお姉さんは彼氏と同棲中だから、今はアキが一人暮らししている状態だ。

だから基本食事は誰かと食べに行ったり、買ったり出前を取ったりする事が多いアキだけど、たまーにこうしてキッチンに立つことがある。

別に得意ってわけじゃないみたいだから、作る料理はいかにも男子高生らしい、チャーハンとかカレーとか、簡単で具材が豪華に入れられそうなやつが多いけれど。

ちなみに今日はパスタらしい。
混ぜてあえるだけの便利なアレがソースだから、せめてトッピング用の具材だけは別で炒めているようだ。
やっぱり大きめに切られている野菜が、アキらしくて何だか笑える。


「アキ、俺も手伝う。何かある?」

「あー、じゃあパスタ見て。そろそろ良いかもしんねぇ」

「はーい」


アキに纏わりつくのを一時中断した俺は、すぐそばでグツグツいっていた鍋の前に立ち、菜箸で一本パスタを取り出した。


「火傷すんなよ」

「わかってるって、アキ心配し過ぎ」


笑いつつも、ちょっと気を付けながら一本味見。
……うん、バッチリだ。


「先生、アルデンテになりました!」

「良し、火ィ止めろ」


カチッと火を止めれば、アキはフライパンを下ろして俺を後ろにどけた。
もう……ザルに上げるくらい、俺だって出来るんですけど。


「俺やるのにー……」

「可愛い生徒が怪我したら、大変だからな」


アキはそう言いながら笑って、シンクでざぁっとパスタをザルに上げた。
もくもくと蒸気が上がり、一瞬にしてシンク周りの温度がふわりと上昇する。


「京吾、皿取って」

「うん!」


テーブルに出していたパスタプレートを渡せば、アキはトングでパスタをどんどん分けていく。
何気ない普通の動作なのに、アキがやると何故かカッコ良く見えるから不思議だ。

俺は一瞬そんなアキに見惚れつつも、はっと気付いて自分も動いた。
リビングのテーブルは拭いてあるから、あとはフォークとスプーンを用意しないと……
それと確か、先に作ったサラダも冷蔵庫に入ってるんだっけ。

アキがパスタにソースと具材をオンしている間に、俺は別の雑用をこなした。
残念ながら俺には、遥みたいに恋人に手料理をガンガン振る舞える程の腕前は無いから。

正直アキと同レベルか、それ以下だ。
だから料理が出来るようになるまでは、せめて最低限の手伝いくらいはしてあげたかった。

本当は、作れたら一番なんだけどね……。
寮に入るまでは普通に実家暮らしだったし、こればかりは仕方が無い。
せめて高校の間に、遥に沢山習っておこうと思う。


「出来たー! 完成っ」

「だな」


アキと一緒に飾った食卓は、決して豪華なものでは無かったけれど。
二人で一緒に用意して、そろって食べる食事はいつだって美味しい。

向かい合った俺たちは、手を合わせて「いただきます」と笑い合った。
普段あまり一緒にいられないから、こういう何てことのない日常の一コマにすら幸せを感じてしまう。


「んー、やっぱクリーム系は美味しいよね! パスタ大好き!」

「女子高生みてぇだな……」

「そこら辺の女子高生には、負けてない可愛さでしょ?」

「そりゃ間違いねぇ」


ふざけてパチンと片目をつぶれば、アキは笑って頷いてくれた。
二人っきりでいる時のアキは、本当に本当に優しい。

そりゃ、たまには状況によって……特に夜とか、激しくて怖いくらいな時もあるけど。
基本的には、俺をとことん甘やかしてくれた。

言葉も仕草も視線も……俺が認識出来るすべてで、愛情表現をしてくれるんだ。
時々アキが、不良たちに崇められる天下のリーダーだって事を忘れてしまうくらいに。


「あー、食べるのはあっという間だね」

「京吾は食うの遅ぇけどな」

「えー、アキが早いんだよ」

「俺がちまちま食ってたら、普通に萎えるだろ」

「あはは!」


ぐっと冷たいお茶を飲み干して、ご馳走様とまた手を合わせる。

俺は後片付けくらいはやらせてとアキにお願いして、テーブルにあるお皿をシンクに持って行き、次々と水に浸けていった。
そして洗い物を始めようと、スポンジに手を伸ばそうとした時。


「もうちょっと浸けときゃいいよ」

「え? でも……」

「先に俺を誘ったのは、お前だろ」


さっきの俺みたいに後ろから腕を回してきたアキに、低い声で囁かれて。
すっぽりと身体ごと抱き込まれて、俺の心臓はドクンと跳ね上がる。
声までカッコイイとか……、本当にアキはずるい。


「もう……。すぐするの?」

「『お預け』は俺がするものであって、お前がするもんじゃねぇ」

「何その俺様ルール!」

「そこも含めて好きなくせに」


笑いを含んだ声でそう言いながら耳朶を食まれ、思わずびくっとしてしまう。
悔しいけど……抗うなんて、到底無理だ。


「……ねぇアキ、ちゃんとベッド行きたい」

「ん、掴まれ」


甘えてそう言いながら腕を伸ばせば、屈み込んだアキに腰から抱き上げられた。

身長が170センチにすら届いていない身体だとはいえ、男子高生を軽々と持ち上げてしまうアキは本当に格好良くて。
大好きな金髪に頬擦りしながらぎゅうっと抱きつけば、身体を伝ってアキの笑う声が響いてきた。


「はい、到着」

「まだお昼過ぎなのに……イケナイ過ごし方だよね」

「休日の恋人同士なんて、皆こんなもんだろ」

「えー?」


他愛の無い会話の合間に、指先や手首の内側、肘へと沢山キスをされる。
普通の人がやったらキザ過ぎるような行為でも、金髪とヘーゼルアイが自然なアキがやると、まるで本当の王子様みたいだ。

うっとりと押し倒されたままの体勢でアキを見上げていると、アキは艶っぽく目を細めた。


「京吾……、会いたかった」

「……俺の方が会いたかった」


たかが一週間……されど一週間。
私立の寮に入っている俺と、公立高校に通うアキが会えるのは週末だけ。

毎晩、たとえ短い時間でも電話はするけれど、アキの体温を感じられない夜はやっぱり淋しかった。
出来る事なら、毎日会いたい。

……本当は、そばを離れたくない。


「……アキ、いっぱい愛して」

「そのつもりだから安心しろ」


ほんの少し先の未来では、また離れ離れにならなきゃいけないから。
せめて今だけは、先を憂う事すら出来ないくらい、アキでいっぱいになりたい。

心も身体も全部、アキ一色に――


「アキ……っ」

「……京吾」


何度も何度も、名前を呼んで。

俺は指先が絡み合った手を強く握り返しながら、

満たされていく幸せを噛み締めた。


fin.
***

遠恋でもないし……っていうか言い方を変えれば「週一で会ってんじゃんかw」と突っ込まれそうな勢いですが、恋する高校生は熱いのです。
一分一秒でも長く、一緒にいたいのです。

京吾の周りは特に、アレ(と書いてバカップルと読む)ばっかりですしね……;

そして秋斗が終始デレデレな件ww
ラブラブって素晴らしい。

2011.8.17

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