Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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にっこりと微笑んだ遥は、俺的にパーフェクトだと思う。
気配りから態度まで、抜かりが無い。
通りで普段から湊が、あれだけ溺愛しているワケだ……。

俺なんか今日は、単純に皆で出掛けるのが嬉しいなって、そればっかに気ィ取られちゃって。

店の提案をするワケでもなく、車の運転をするワケでもなく……挙げ句の果てに車内では、考え事してて話題提供すらしてなかったし。

ちょっと思い返しただけでも、どんどん自分の欠点が露わになっていく気がする。


「よっし、決まった! 昂介は?」

「あ……うん、俺も決まった」

「んじゃ店員呼ぶか」


一人勝手に落ち込んでいる間にも、皆はちゃんと楽しく会話をしていて。
一方俺は、何とか笑顔を作るので精一杯。

俺はここにいる皆の事、それぞれスゲー好きなのに……何でこんな気持ちになってんだろ。
マジで有り得ねぇ。


それからさっきまでの自分を挽回するように、必死に会話について行った。
普段の学校生活のこと、得意なこと、共通で知っているメンバーの話。
だけど話せば話すほど、俺は劣等感に苛まれた。

遥は育ちが良くて、品があって、ただでさえ偏差値の高いあの学園内でも成績が上位で。
さらに趣味は料理らしく、いつも湊にメシを作ってあげているらしい。
湊は初めて肉じゃがを作ってもらった時、すげぇキュンときたと自慢していた。


……どうせ俺は、いつも翼に作ってもらってる側ですよ。
ていうかよくよく考えれば、いつも車の運転をするのも翼、勉強を教えてくれるのも翼、メシを作ってくれるのも翼……

……あれ、翼何で俺と付き合ってくれてんの?
とか、今さら気付いてショックを受けたり。

本来ならめちゃめちゃ大好きなデミグラスソースの煮込みハンバーグも、今は何だか切ない味がする。
ぐいっとオレンジジュースを飲んでから、俺は思わず呟いた。


「……遥って、可愛いよな」

「え?」

「は?」

「昂介?」


何の脈絡も無くそう言った俺の言葉に、皆はナイフやフォークを持つ手を止めてきょとんとしている。
そりゃそうですよね。
俺の大反省会は、あくまで俺の脳内だけで繰り広げられていたわけだし。


「いや、何かもう1から10まで俺と対極っつーか、ほんと出来た子だよなーとか思って」


俺は苦笑しながら、正直に話す。
合流してから今まで、気の利いた言葉一つ言えていないんだ。
せめて遥の素晴らしさを褒め称えるくらい、しておかないと。


「最初は彼氏がいる者同士、参考にさせてもらおうかと思ってたんだけどさ……次元が違い過ぎて、逆に参考に出来るって思ってたのが恥ずかしいっつーか……」

「何言ってるんですか昂介先輩。僕なんて、ホントどうしようもないですよ」

「いやいや、遥にダメな要素なんて見付からないよ」

「そんなの掃いて捨てるほどあります。ネガティブだし、意地っ張りだし……」

「そこも湊からしたら、可愛くてしょうがねぇ部分だろ? まったく問題ねぇじゃん」

「そんな事言ったら、僕は昂介先輩が羨ましいです」

「え?」


思い掛けない遥の言葉に、俺は一瞬聞き間違えたのかと思った。
首を傾げれば、ふわりと微笑む遥。


「いつだって、翼さんや……湊たちと、同じ目線で物事を見れるし」

「……」

「すごい信念を持ってて……周りを従えるだけのカリスマ性だってあるし……」


そう言った遥の瞳は、酷く切なさを帯びていた。
まるで、さっきまで俺がしていたであろう表情のように。


「いや、遥は可愛いから良いんだよ! 可愛いは正義だぞ?!」

「湊、ホント黙ってて」


そして即座にフォローの言葉を掛けた湊は、遥に一蹴されてうっと言葉を詰まらせていた。
そんな二人を見て、俺は思わず吹き出してしまう。

と、その様子をずっと静観していた翼が、ふっと微笑みながら俺の頭を撫でてきた。


「人間、誰だって無いものねだりなんだよ。それぞれの個性によって、良く見える部分も違ってくるだろうし」

「あー、確かにそうだよな。遥は、不器用でついつい意地張っちゃう所が可愛いけど、昂介はやたら素直で明るい所が可愛いし……」

「湊、だから俺先輩なんだっつの」


お前が可愛いって言うなよ。
そう思いつつも、俺は翼の言葉を反芻していた。

無いものねだり……か。
なら俺にも……俺が気付いてないだけで、良いところってあるのかな。

ちらりと翼を見れば、昔から変わらない表情で笑われた。
ずっと一緒にいたからこそ、よくわかる。
何か言葉をあてるなら、“お前はバカだな”って言葉がぴったりくるような微笑みだ。


「……っ」


その時不意に、テーブルの下にあった俺の左手に、翼の右手が重なった。
何食わぬ顔で湊たちと会話を続けながら、きゅっと俺の手を握ってくれた翼。

何か……何か、すげぇ温かいな。


俺は泣きそうになるのを必死で堪えながら、下手くそな笑顔を浮かべて、皆の会話にまた入っていく。
テーブルの下で重なっている手をそっと握り返せば、翼はさらに強く握ってくれて、最後に繋いだままの手で、俺の膝をぽんぽんと叩いた。

まだ翼と恋人同士になる前……メンバーの前では絶対に泣かなかった俺は、翼の隣でだけ、涙を流して悔しがることがあった。
そういう時翼は、決まって俺の膝をこうしてぽんぽんと叩いてくれるんだ。


『お前は頑張ってるよ』

『ちゃんと俺が見てるから』

『だから、そのままでいいんだよ』


――そうだった。
そうだよ、翼はいつも……何度も何度も、俺にそう言ってくれてたじゃん。

何で俺、忘れちゃってたんだろ。
翼は誰よりも……俺自身よりも、常に俺の事を高く評価してくれていたのに。


「……あ、俺、ちょっと……」

「どした昂介?」

「悪い、メンバーに電話しなきゃいけねぇ事あったの忘れてた! すぐ終わるから、先デザート頼んでて!」

「おー、わかった」


皆に手を振り、翼に一回どいてもらって、俺は席から抜け出す。
カーテンをくぐって外に出た時、翼は一瞬俺にだけ聞こえるようなボリュームで、やっぱり「バカだな」って言って笑ってた。

ほんと……俺って、まじバカだよ。
きっと、翼には全部バレバレなんだろうな。

今から俺が……泣くってことも。


足早に店内を出て、ひと気の無い小道に入れば、ボロボロと涙が零れた。
翼の優しさが……愛情が、嬉しくてたまらない。

自分で思っていた以上に、きっと翼は、俺の事を好きでいてくれてるんだ。
そう思えば思う程、涙は溢れてきて。


「今日……来て良かったな」


想像していたものとは、また全然違ったWデートになったけれど。
俺は今、幸福感で一杯だった。

帰りこそ、今度はちゃんと、俺らしく皆と接しよう。
翼が好きになってくれた、俺のままで。


fin.
***

頂いたリクは、ラブコメ色強かったハズなのに……! 
何故かシリアス切甘みたくなっちゃったという事故。ほんとゴメンナサイ!泣

書きながら、見事に昂介と遥って対極だよなぁとか思ってしまいました。(見た目が可愛いのは一緒ですが)

Wantsの受ちゃんたちは、大抵皆無いものねだりで劣等感を抱くんですよね。
実際はその劣等感の部分に、攻めたちは惚れ込んでいる事が多いんですが。笑

2011.8.12

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