Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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※番外短編『ハニーの憂鬱』以降のお話になります。

11.俺のままで
(全2P)

Side:Kosuke


「昂介ー!」

「あ、湊!」


向こうから大きな声で名前を呼ばれて、俺はぶんぶんと手を振った。
アスファルトの照り返しのせいで、さらに暑く感じる道の向こう側から歩いてくるのは、湊とその恋人である遥だ。


「翼っ、来た来た!」

「おう、そうだな」


嬉しくなって振り返れば、咥えていた煙草を灰皿に入れながら、翼は笑って頷いてくれる。
今日はかなり珍しく、この4人でメシを食いに行くのだ。

大抵メシっつったら秋斗やメンバーとだから、新鮮だし楽しみでしょうがない。
特に遥とは顔見知りであるものの、あんまり長く一緒にいたこと無いし。
俺はそわそわとしながら、翼に言われて先に助手席へと乗り込んだ。


「結構待った? 悪かったな」

「いや、大して待ってねぇよ」

「つか涼しー! 車で迎えとか、マジ翼かっけぇわ」

「ははっ、サンキュ。こっちだと皆迎えが来て当たり前だって感覚だから、感謝されると何かくすぐってぇな」


後部座席に乗り込んで来た湊は、翼と話し始める。
俺はそれを横目に見ながら膝立ちし、ぐるりと後ろを向いて、遠慮して「お邪魔します」と後から乗り込んできた遥に話し掛けた。


「遥、ちょー久し振り! 元気?!」

「お久しぶりです、昂介先輩。元気ですよ」


にっこりと微笑んだ遥は、文句無しに可愛い。
くりっとした目がうるうるしてて、性別とか飛び越えた魅力は相変わらず健在だ。


「昂介先輩は元気でしたか?」

「元気元気! 俺それくらいしか取り柄ねぇし!」

「あはは、そんな事無いですよ」


にっこりと笑ってピースサインを決めたところで、突然ペチンと尻を叩かれる。
と、ズボンを引っ張られた。


「こーすけ、ほら発車すっから。ちゃんと座って前向け、ベルト締めろ」

「あ、ご、ごめん」


翼に言われてあわあわとベルトの準備をすれば、斜め後ろから湊に笑われる。


「あははっ、昂介子どもみてぇ」

「うっせ! お前より先輩だ!」

「まったく、嘘みてぇな話だよな……」

「んだとコラ!」

「いいから昂介、おすわり」

「!」

「ぎゃははっ、子どもじゃなくて犬扱い!」

「湊後でぶっ飛ばす!」


思いっきり湊を睨んでから、俺はようやくシートに落ち着いた。
隣では翼がくくって笑ってるし……何だよ何だよ、皆でバカにして。


「はいはい、拗ねんなって」

「あ」


むすっとしながら俯いていると、翼がぽんって頭に手を乗っけてきた。
次に顔を上げた瞬間には、もうハンドルを握っていたけれど。

……ほんと、翼はいつもずるい。
たったこれだけの事でも、俺の機嫌が直るってちゃんとわかってるんだ。


それから皆で話をしつつ、ドライブを続けること数十分。
都心部に程近いその大通りには、背の高いショッピングビルが連なっている。

何でも私立組(涼や湊たちのグループを、時々俺たちはそう呼ぶ)の間では、この辺で買い物をするのが流行っているらしい。
今日メシを食いに行く場所も、湊たちの提案で決まったのだ。

何でも値段のわりにはスゲー美味いし、個室風になっていて、男だけで行っても人目が気にならないとか。

一応Wデートだからなって笑った湊に対し、俺はその場で思わず赤面しちまったけど……
そう、だよな。
今日って、ばっちりがっつりWデートなんだよな。
一度意識すると、やたらと緊張してしまう。


「流石は金持ちだな。こんな所でしょっちゅうデートとか……碌な大人になんねぇぞ」

「あはは翼、説教すんと更に老けて見えんぞ」

「言うじゃねぇか湊……」


軽口を叩き合う翼と湊、それを聞きながら可愛い声で笑う遥。
普段なら……普通の友人同士って意識なら、俺も適当にバカ話に参加してるハズなんだけど。

お互いカップルだと思うと、何だか遥ばかりに意識が行く。
いくら同性愛オーケーなタイプが周りに多いとは言っても、世間的に見れば勿論マイノリティなワケだし。
……つまりは、身近にお手本となる相手もなかなかいないのだ。

そりゃ、俺的にはキョウちゃんが一番身近なお手本なのかもしれないけど……

同じ学校に通い、そばで秋斗とキョウちゃんを見ていた中学時代は、まだまだ俺に彼氏が出来るなんて思ってもみなかったから。
何つーか、あの頃は参考というよりは次元の違う憧れの人みたく見てたんだよな。

だからぶっちゃけ翼と付き合ってから、過去の自分をスゲー後悔している。

何であの時、もっとキョウちゃんの事を見とかなかったんだろうって。
そしたら今、もっと翼の事を喜ばせてやれたかもしんねぇのに……。


「よし、着いたぞ」


え、もう?
色々考え込んでいるうちに、いつの間にか目的地に到着したらしい。

駐車場に停まった車を、皆は次々に降りる。
慌てて俺も降りると、皆の後に追い付いた。


「うわ、またオシャレな……」

「遥がお気に入りの店なんだよ。可愛いだろ?」

「ちょ、ばっ……湊!」


たどり着いた店は、本当に感じが良くてオシャレな所だった。
ショッピングビル街の片隅にあるその場所は、見慣れたファーストフードやファミレスとは違って、建物の作りも雰囲気も落ち着いている。

感心する翼に、遥を自慢する湊、それを慌てて制する遥。
それを見ながら、俺は密かに落ち込んでしまった。

確かに……こんなオシャレな場所がお気に入りの恋人なんて、可愛いに決まってるよな。
そういえば翼が恋人として、俺を自慢出来る部分なんてあるのだろうか。


……いや、無いな。
自分で探しても、まったく見付かんねぇもん。
唯一自慢できる喧嘩の強さは、この場合は候補外だろうし。

だってバリネコなのに、そこら辺の男よりよっぽど強いってどうよ。
守り甲斐とか全然無いじゃん。


「昂介?」

「え……あ、すげぇ良さそうな所だな! 何か一気に腹減ってきた!」

「だなー、早く入ろうぜ」


不意に振り返った翼に声を掛けられ、弾かれたようにそう答えれば、湊が頷きながら足を進める。
そして綺麗なグリーンにペイントされている木製のドアを開けると、湊はそのままドアを押さえて、遥を通してあげていた。
それに対し、小さな声で「ありがとう」と囁く遥。

……そ、そっか。
いくら同性同士でも、あーすれば恋人っぽく見えるんだな。
俺なんかいつも、欲望のままに一人でスタスタ先に歩いてばっかで……

考えてみれば、いつだって翼には後ろから「コケんなよー」とか言われてる気がする。
ぜ、全然ダメじゃん俺!


「……マジでどうした昂介?」

「へ」

「腹減り過ぎて壊れたか? ほら、置いてかれるぞ」


呆然としていた俺を、ぐいぐい引っ張っていく翼。
その面倒見の良さを俺はめちゃめちゃ愛してるけど、何か違う……何かが違うんだよ翼! 
ちなみに俺、腹減り過ぎても壊れたりしないからね!


「はぁ……」

「?」


終始翼から不審な目で見られつつ、ようやく俺は外の世界に意識を戻した。

ウェイトレスに案内されるまま歩いた店内は変わった形になっていて、通路以外は皆個室のようにカーテンで仕切られている。
だけど個室に入ってみれば全然圧迫感は無くて、むしろ広々としているくらいだった。

俺と遥が向かい合う形で奥の窓際に座り、遥の隣には湊が、俺の隣には翼が座る。
店員が去ってしまえば、完全に4人だけの空間って感じだった。

それにしても淡いベージュの木製テーブルからカーテン、テーブルの端に並ぶ調味料の瓶まで、どこもかしこもオシャレだな。
何だか隙無くコーディネートされてるって感じ。
もし仕切りが無かったら、多分俺緊張してたと思う。


「これ何? オリーブオイル?」

「ですね。ここ、オリジナルのパンが評判良くって」

「え、パン?」

「こっちのバルサミコ酢と合わせて付けると、結構美味しいんですよ」

「……へぇ」


俺、パンってバターかイチゴジャムしか塗ったことないんだけど。
急に遥が、遠い世界の人に思えてきた。

若干呆気にとられつつ、無駄にスタイリッシュな瓶に入ったオリーブオイルを眺めていると、今度はすっと遥にメニューを差し出される。


「あ、サンキュ」

「ランチメニューはこっちです。昂介先輩、ハンバーグとかお好きなんですよね?」

「え……」

「このお店なら、口に合うものがあるかなって思って」


そう言われてメニューに視線を落とせば、色んなハンバーグメニューが並んでいた。
しかも俺が好きそうなやつばっかり。超美味そう。
……けど、


「……ありがとな、わざわざ考えてくれたんだ」

「いえ、僕もハンバーグ好きですし!」


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