Wants 1st 番外SS

□Original TitleT
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10、Melting ××

Side:Ryo


「あっつー」

「おかえり。どこまで行ってきたんだよお前……」

「下のコンビニ、食べたかったアイス品切れしててさぁ。しょうがねーから、ちょっと遠出した」

「あ? 一人で?」

「いや、たまたま湊と鉢合わせたから、道連れに」

「ならいい」


寮周りの木々からも、蝉の鳴き声がけたたましく聞こえるようになった、ある真夏日の昼下がり。

突然思い立ったように「アイスが食べたい」と言い出した由貴は、足早に部屋を出ていった。
すぐ下のコンビニに行くんだとばかり思ってたから、俺は俺で自室で寛いで待っていたものの、由貴は一向に帰ってこなくて。

段々心配になってきて、自分も部屋を出ようかと立ち上がった矢先、由貴は汗だくになって帰ってきた。
きめの細かい肌の上を伝っていく汗に、一瞬目を奪われる。


「あー……ここ涼し、癒されるー……」

「オイ、それアイスだろ? 冷凍庫入れてからこっち来いよ」

「ダメ、俺死にそー。涼やってー」

「お前なぁ……」


ソファーにぐったりと倒れた由貴に呆れつつ、俺は手渡された袋の中身を冷凍庫に入れてやった。
ったく、しょうがねぇな……。


「ほら、飲め。脱水症状起こすぞ」

「んー」


水を注いで渡してやり、次に洗面所に行ってタオルを持ってくる。
そしてソファーに戻ると、空になったコップを受け取ってテーブルに置き、シャツを脱がせた。


「汗でびっしょりだな」

「そんなシャツを普通に触ってくれる辺り、何か愛を感じる」

「今さらかよ」


バスタオルで身体を拭いてやるけど、いっそのことシャワーに行かせた方が良かったかもしれない。
そんな事を考えながら無意識に頭まで拭いていると、不意にバスタオルから顔を出した由貴がにやっと笑った。


「何か子どもになった気分」

「子どもだろ」

「えー、子どもにあんな事やこんな事してんの? 涼ヘンターイ」

「……」


呆れて目を細めれば、由貴は何がおかしいのか上機嫌に笑いながら、俺にまとわりついてくる。
俺は溜息を吐きながらも、膝に乗っかってくる由貴を甘受した。

バスタオルを羽織ったまま、由貴は剥き出しの肌で俺に抱きついてくる。
触れ合った場所から伝わってきた由貴の体温は、子どものように熱い。


「くっつくと、もっと暑くなんぞ」

「ここは冷房効いてるから平気」

「何だよ、甘えてんのか?」

「他にどう見えるわけ」


言いながら由貴は両腕を伸ばし、俺の背中へと回してくる。
胸板にぴったり頬を付けた由貴の髪が、俺の眼下でふわりと揺れた。


「何か、マジ愛されてんなぁって」

「あ?」

「いつも怖ぇ顔してんのに、俺には相当優しいよな」


言いながら、もぞもぞと動き出した由貴は俺の鎖骨辺りに吸い付いてくる。
……地味にくすぐってぇ。


「なー、涼」

「ん」

「マジ好き」

「知ってる」

「うぜぇ」


由貴は笑いながら、今度は足を俺の腰に巻き付けてきた。
その拍子にバスタオルがはらりと落ち、由貴の華奢な肩が剥き出しになる。


「……このままシていーのか」

「んー……」

「オイ、誘ってないとは言わせねぇぞ」

「いや、そうなんだけどさ。先にアイス食いたいかも」

「ワガママだな……」

「涼にも半分やるし」

「どんな譲歩だよ、俺別にアイス好きじゃねぇし」

「えー。アイスでベロチューとか、冷たくて気持ち良さそうじゃね?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……わかった、持ってこい」


挑発的な悪戯っぽい上目遣いに、結局俺が折れた。
何だかんだで、最近由貴中心になってきている気がする。

パタパタと冷凍庫の方へ走っていった由貴は、カップのアイスとスプーンを手に、さっきと同じポジションに戻ってきた。
最近、ソファーよりも俺の膝に乗ってる時間の方が多い気がする。


「お前それ好きだな。高ぇのに」

「一回コレ食っちゃうと、安いアイス食えなくなるんだよなー」

「どんだけ贅沢なんだよ」

「まぁ恋人に涼を選ぶくらいには、贅沢な性格なんじゃねぇの」


さらりと言われた言葉に、俺は思わず一瞬由貴の顔を見た。


「実はお前、俺のこと結構評価してたワケ?」

「は? じゃなきゃ付き合ってねーだろ」

「へぇ」


思い掛けない告白に、自然と口元が緩む。
惚れたヤツに褒められれば、やっぱり悪い気はしない。


「美味い?」

「美味い。……涼も食う?」

「あぁ」


頷けば、由貴はスプーンで一口分すくったアイスを俺の口元へ運んだ。
それが口内に入った瞬間、冷たい感触が舌を刺激してくる。
と、次の瞬間。


「ん……」


そのまま首を傾げた由貴の顔が近付いてきて、口の中にブロックのまま残っていたアイスが、由貴の舌に押された。
痺れるような冷たさと甘ったるさのあるそれを、互いの舌の間で溶かしていく。

……まぁ、確かに結構気持ち良いな。
悪くねぇかも。


「……もう一口いる?」

「やってる間にそれ溶けんぞ」

「溶けたら風呂持ってこうぜ」

「お前何プレイするつもりだよ」

「夏を一緒に満喫しようっていう、俺の粋な計らい」


淡々と返ってきた返事に、俺は思わず笑った。

いつもコトが始まればボロボロと泣いて乱れるくせに、意外と積極的なコイツがかなり好きだ。
何かと俺にモーションを掛けてきて、その気にさせようとする姿も健気で可愛いと思う。


「……あぁ、いいかもしんねぇな。じゃ、ちょっと遊ぶか」


そう言いながら、由貴が持つアイスのカップの中へと、直接指を入れてすくって見せれば。
一瞬目を見開いた由貴はニヤリと口端を上げて、俺の指をパクリと咥えた。


これから溶けていくのは、アイスか理性か、それとも由貴か。

冷房で冷えないよう由貴の背中に手を這わせながら、今から風呂を溜めておこうかと思考を巡らせた。


fin.
***

今回は、夏っぽい甘々をテーマに。
最終的には、アイスも理性も由貴も溶けたと思います。笑

本番描写が無くても、エロくて甘い空気がダダ漏れる……を目指してるんですが、うーん難しい。
もっと勉強せねば。

2011.8.9

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