Wants 1st 番外SS
□Original TitleT
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9、Only You
Side:Ryo
連休の一日目。
京吾と買い物に行ってきた由貴が俺の部屋にそのまま帰ってきたのは、19時半を過ぎた頃だった。
上機嫌に紙袋をリビングに投げ出した由貴は、軽い足取りで手を洗いに行く。
まるで自分の部屋のような寛ぎ様だ。
俺は俺でテーブルに広げていたテキストを片付け、別室に置いてきたところで、由貴も丁度こちらへと戻ってきた。
「何、課題してたの?」
「あぁ。暇だったし」
「マジ涼が勉強とか……不良も時代と共に変化すんだなぁ」
「何バカな事言ってんだよ、お前は」
しみじみと感心している由貴の額を小突きながらソファーに座ると、由貴は尚も上機嫌に隣に座ってくる。
「買い物楽しめたか?」
「おう! めっちゃかっけー服買ったから! 俺ますます男前になるわ」
「そりゃ楽しみだな」
「だろー?」
紙袋を膝上に乗せた由貴の腰に腕を回せば、由貴はリラックスしたように俺に背を預けてきた。
何かと趣味の合う京吾との外出は、よほど気晴らしになったのだろう。
中身を取り出しては真上を向いて俺の反応を伺ってくる無邪気な姿に、思わず笑みが零れる。
「そういや、最近新しくオープンした店のメシが超美味いんだって」
「へぇ」
「京吾が神崎と行って、かなり気に入ったらしくてさ。俺たちも今度行かね?」
「あぁ、じゃあ次の週末行くか」
「マジ?! すっげ楽しみ」
終始口角が上がったままの由貴を見ていると、それだけで癒されてくる。
普段のツンケンした意地っ張りな性格も好きだが、こうして二人きりの時に甘えてくる姿は、それこそ文句無しに可愛い。
今日京吾から聞いた話や、実際に自分が見て仕入れてきた情報を、次々と俺に伝えてくる由貴。
相槌を入れながら一回り小さな手に自分の指を絡めれば、特に気にすることもなく当たり前のように握り返してくる。
重なり合った互いの左腕には、海外旅行の際に一緒に買った揃いのシルバーブレスが照明に反射していて。
そんな些細な事一つで、酷く穏やかな気持ちになっている自分がいた。
「涼は今日、ずっと勉強してたワケ?」
「あー……最初はDVD観てた。その後地元のダチから電話きて、しばらく喋って……」
「は?! お前って電話掛かってくる友達とかいたの?!」
「失礼な奴だなお前……」
呆れてそう言えば、由貴は身体ごとぐるりとこちらを振り返り、俺の首に腕を回してくる。
「……そいつ女?」
「いや、男だけど」
「ふーん……どんな?」
さっきまで上機嫌極まりなかったくせに、急にトーンが下がった由貴。
俺はそのあからさまな変化に笑いそうになったが、あえて真顔で質問に答えた。
「見た目は遥タイプだな。でも、中身は京吾に近いかも」
「……サイアクだなそれ」
「お前酷ぇな」
「違ぇし。遥と京吾は別に、友達だから全然良いけど……」
そう言いながら由貴は不満そう顔をしかめ、拗ねたような声を出す。
その様子が可愛くて、思わず両腕を由貴の腰に回した。
と同時に由貴も顔を近付けてきて。
そのまま、唇同士が重なり合った。
「ん……」
宥めるように、ひらすら快感を追うだけのキスを続ける。
由貴は舌先と上顎が、気持ち良いポイントだ。
そこを集中的に刺激してやれば、由貴は鼻から抜けるような色っぽい吐息を零した。
数分間にわたる長めのキスを一段落させた後、由貴は俺の顎から首筋の方へと唇を滑らせていく。
由貴の背中を撫でながら好きにさせていると、不意に首の付け根辺りにチクリと痛みが走った。
これは由貴が、嫉妬した時のサインだ。
「んー……あんま濃く付かねぇな」
「もっかい同じとこ吸ってみ」
「ん」
俺の言葉に頷き、首元に顔を埋める由貴。
視界に入っていた柔らかなキャラメルブラウンの髪に唇を押し付けると、由貴は一瞬ピクリと身体を震わせる。
首や頭部への緩い刺激も、由貴の場合は快感に繋がるらしい。
「……付いた」
「そうか」
「お前とケイみてぇなタイプが、何で電話とかすんの」
「小中が一緒だったんだよ。広く言えば幼馴染みの一人みたいなもんだ」
「へぇ……。用件は?」
「お前、結構突っ込んでくるな」
思わず笑えば、由貴はますます眉根を寄せた。
機嫌を取るように目尻から頬、唇の端へとキスをしていくと、由貴はもう一度ぴったりと唇を重ねてくる。
「……だって昔のお前とか、全然知らねぇし」
「まぁな」
「なぁ、そいつって普通のダチ?」
俺は一瞬口を閉ざす。
何も無かったかと言えば……それは微妙な所だが、今となっては互いにすっかり過去の話だ。
今さらわざわざ由貴に話すのは、得策ではないような気がした。
「……わかった。別にイイ、ムカつくから聞きたくねぇ」
「その方が良いだろうな。完全に過去の話だし、今後お前の知らねぇ誰かと何かある事なんて、絶対に有り得ねぇから」
「当たり前だろ。浮気とかしたら、マジぶん殴る」
不機嫌そのものな顔でそう言うものの、「別れる」とまでは言わない辺りがまた可愛い。
無意識のうちに口端を上げれば、由貴は俺の両手首を掴んで、自分の方へと寄せた。
「せっかく気分良かったのに、何か萎えた。奉仕しろ」
そう言って俺の両手をTシャツの裾から中に入れて、自分の身体に滑らせていく。
大した誘惑方法だ。
俺に奉仕しろなんて言う奴は、世界中のどこを探し回たって他にいないだろう。
「涼……」
手首から離れていった由貴の両腕は、再び俺の背中に回って。
また押し付けられた唇は、何度も角度を変えて重ね直された。
それに煽られるように、俺は両手を由貴の為に動かしていく。
「お前が望むなら、何でもしてやるよ」
ドサリと紙袋が床に落ちたのにも構わず、俺たちはただ互いの存在だけを求め合った。
由貴は嫉妬深くて、負けず嫌いで、口だって相当悪い奴だけど。
共に過ごす時間が増えれば増えるほど、愛おしさが増していく。
「由貴……」
華奢な身体を抱き締めながら、今の俺にとって「すべて」である名前を呼べば。
腕の中の恋人は酷く嬉しそうに、再び唇を寄せてきた。
fin.
***
ちゃんと甘かったですかねー?
由貴の嫉妬結構好きなんですよね、素直で◎笑
由貴は強気受ですが、涼がからかったりしない限りは、基本普通に積極的なタイプです。
そして多分、『Wants』内で一番のキス好きw
涼の過去は面倒なので伏せ続けてるんですが(笑)、時々止むを得ず不穏な空気が漂うという罠……^q^;
たまに書こうかなとは思うんですが、この二人には新たに亀裂とか入れたくないんですよねー。
ラブラブ甘々が好きです。
2011.8.7