Wants 1st 番外SS

□ふたり暮らしで10のお題
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4、お風呂上がり

Side:Yuki


「はぁっ、はぁ……っ、マジ、死ぬ……っ」

「おっと。しっかりしろよ、足フラついてんじゃねーか」

「てめぇが言うな! 誰のせいだよこのアホッ! のぼせた! 運べよ!!」


素っ裸のまま脱衣所の壁に手を着き、ぜぇはぁと息を切らせながら怒鳴る俺。
頭がぐるぐるしていて、気持ちが悪い。
つーか熱いし喉乾いたし、ホント最悪だ。


「はいはい、しょうがねぇなぁ」

「しょうがなくねぇし! てめぇがねちっこくヤるから――!」

「悪いな絶倫で」

「何で得意気なんだよバカ! 恥を知れ恥をッ――って、うぁっ」

「そろそろ落ち着け。興奮しっぱなしだと、ぶっ倒れるぞ」

「だからてめぇが言うなって!」


軽く正面から担ぎ上げられたまま、ひたすら文句を言い続ける俺。

そりゃそうだ。
風呂に入る直前に一回、中に入ってから二回。
さらにバスタブに浸かったところでまた突っ込まれそうになり、流石に本気で抵抗した。

俺、そのうちヤり殺される気がする……マジで笑えねぇ。


「あーー……死ぬ……」

「んだよ、だらしねぇな」

「だらしなくねぇだろ! 普通に考えてキツイっつの! 水!!」

「ったく、俺を顎で使うのはお前くらいなもんだ」


使うも何も、動けなくしたのは誰だっつー話だよ。
俺はソファーに下ろされると、ぐったりと身を沈ませた。

今週は定期テストだったから、約一週間はそれぞれの自室に缶詰状態で……
つまりは、一度も身体を繋げることはなかったのだ。

涼は、学年順位3位以内という成績をキープする為に。
俺は元々集中力が短いから、なるべく逃げ道を作らない為に。

だから相変わらず昼休みと帰り道は一緒だったものの、週末は涼と一切会わなかったし、会いたくなるから電話もほとんどしなかった。
その反動が、これだ。


そりゃ俺だって会いたかったし、シたかったけど……
実際最初の2回くらいは、別に俺も乗り気っつーか……まんざらでもなかったし。
けど、限度ってものがある。

まず、まだ夜じゃねぇし。
風呂だけであの回数とか、普通に死ぬ……


「ほら、水。起きれっか?」

「んー」


足元の方に涼が座って、ソファーがギシリと沈んだ。
伸ばされた手を掴んで、どうにか状態を起こす。
喉がカラカラだ。


「ちょーだい」

「あぁ」

「って、何でお前が飲んで――」


手を伸ばした先にあったミネラルウォーターのペットボトルを、何故か自分で煽った涼に文句を言えば、次の瞬間勢い良く肩を抱き寄せられる。
一瞬の出来事に目を見開けば、みるみるうちに涼の顔が近くに迫ってきていた。
そして、重なった唇。


「ん……っぅ……っ」


顔を上向けられたのと同時にコポッと音がして、突然冷たい感触が舌先に走る。
直後にどんどん水が流れ込んできて、俺は咽ないように慌ててそれを飲み込んだ。
ほんの少しだけ喉は潤ったものの、全然足りない。

もっと欲しいのに、今俺の口内を占領しているのは誰かサンの舌だ。

それは俺の上顎を擦り上げ、歯列を往復し……さらには舌の根元から吸い上げられて。

文字通り喰われそうなキスに、俺は剥き出しになっている涼の二の腕をバシバシと叩いて抗議した。
つか、固ぇ腕だな……どんだけ筋肉ついてんだよ。


「……ぷはっ……っはぁっ、ちょ、おま……っ!」

「あ? 何」

「もうやだ、お前……はぁっ、はぁ……っどんだけ、盛ってんだ、よ……! ……っ……、俺マジで、もたねぇって……!」


かなりプライドには反するが、正直最早涙目で懇願状態だ。
冗談抜きで、涼に合わせてたら俺死ぬと思う。

ぐったりと涼の胸板に身を預ければ、ようやく素直にペットボトルを渡してもらえた。
あぁ、水が飲める……
まるで、砂漠でオアシスを見付けたような気分だ。


「大袈裟だな。いつもよりちょっと激しいだけだろ」

「ちょっととか可愛い単語使うなバーカ!」

「いつも手加減してんだよ。たまには普通にヤらせろ」

「これが基準とか、俺マジで死ぬんで……」


俺はうんざりしながら横になり、ソファーに座る涼の膝に後頭部を乗せ、いまだにグラグラしている身体を落ち着かせようと深呼吸をする。

と、涼が冷たい濡れタオルを目の上に乗せてくれた。
つかそんな良いアイテム持ってるなら、キスする前に出せよ……。


「あー……気持ち良い……」


ひんやりとしたタオルもそうだけど、ゆっくりと俺の髪を指先で梳いてくれる感触も。
何だかんだで、結局は俺も涼のことが好きだから。
しんどいとか有り得ないとか悪態を吐きつつも、最終的には絆されて許してしまうのだ。

視界が遮られているせいか、やたらと感覚が研ぎ澄まされていて、触れられる場所に意識がいってしまう。
涼の手は俺の髪を撫で、頬から顎まで滑っていき、肩を撫でてきた。

それがさっきまで俺を翻弄していたものと同じ手だと思うと、何となく気恥ずかしいというか……微妙な気分になってくる。


「……お前は可愛いな」


ふと、涼がそんなことを呟いた。

いやいや、何恥ずかしい事言っちゃってんだよ。
普通に反応に困るんですけど……


「由貴、愛してる」

「……」

「全然足りねぇ」

「……もうちょっと待て」


……ほら、な。
結局「もう無理」とは言えないんだ。
きっと涼もわかってて、こういう事を言ってくるんだろうし……
チクショウ、マジでフェアじゃない。


「ちょっと動かすぞ」


一人溜息を吐いていたら、不意に頭の位置を微妙に動かされた。
そして同時にタオルも、少し上にずらされる。


「寝ながらなら、いいよな?」

「……」


聞こえてきた声は、既にもの凄い近い場所から発せられていて。
俺は一瞬ぴくりと身体を揺らしつつも、何も答えない。
この場合、無言は肯定の意で。
つまりは、承諾したということになる。

数秒後、再び重なった唇。
涼も今さっき水を飲んでいたから、その唇は少しひんやりとしていて気持ちが良かった。

膝枕状態で、キスされてるとか。
どこのバカップルだよって思うけど、何かもう今更な気もする。
……とか考えるようになってしまった時点で、俺はもう手遅れなんだろうか。


「ん……っ」


さっきとは打って変わって、もどかしい程に優しいキス。

チュ、チュ……と口の端から端まで口付けられる弱い刺激に、何となく身体の芯がじんわりと熱を帯びてきた。

瞼の上にあるタオルの厚みのせいで、微妙にいつもより遠い距離感。
俺は腹の上に置いていた手を伸ばして、タオルをどけた。

ゆっくりと瞼を持ち上げれば、ぼやけた視界の中でかち合う視線。
俺を――俺だけを見つめるその漆黒の瞳は、雄弁に“欲しい”と訴え掛けてきていて。

それを見た瞬間、限界を越えているはずの俺までも欲しいと錯覚を覚えてしまった。
あぁ、欲は身を滅ぼすって多分本当だな。
俺いつか、涼とシながら死ぬのかも。


なんてイカれた事を考えながら、俺は片腕を伸ばして涼の首に回し、自分の方へと引き寄せる。

いつもと違ってテレビさえついていない無音のリビングに、生々しい音だけが響いた。
挿し込まれた舌先に自分の舌先を絡ませて、ゆるゆるとその快感に身を任せる。

終わらないキス。
終わらない欲。

一体いつまで続ければ、満たされるんだろう。


「ん……」


鼻から抜けるような吐息を漏らしつつ、額に大きな手を添えられ、更に深く深く口付けていく。
一度も離れることなく、弄ぶように……溶け合うように。
まるで元々一つだったものを取り返しにいくように、必死になって求め合った。

そうしているうちに身体はヘトヘトなはずなんだけど、ますます足りないような気がしてきて。
キスを続けながら肘を立てると、力を振り絞って身を起こした。

それを動作を察してくれた涼が、やっぱりキスを続けながら俺の背中に腕を回して、体勢を立て直すのを手伝ってくれる。

起き上がって、今度は涼の膝の上に正面から跨って。
その広い肩に両肘を預けながら、さっきとは逆に下に見えるようになった唇を、夢中で求め続けた。

腰に回された腕。
こめかみから髪に向かって差し入れられた指先。
すべての感触が無性に愛しくて、やっぱり流されてしまう。

そのまま夢見心地の時間がしばらく続いた後、ふと涼の唇が離れていった。
突如訪れた違和感に、俺はすっと目を開ける。


「……?」

「メシ、どうする」


……このタイミングでかよ。
ムードもへったくれもねぇ……と眉を寄せれば、涼はくくっと笑いながら俺の頬に口付けてきた。


「俺はこのまま、また突入しても良いけど……多分解放すんの、朝だぞ?」

「……」

「休憩入れてぇんなら、今がラストチャンスだけど」
「……入れさせて頂きマス」


顔を引き攣らせながら即行膝を降りると、涼はまた笑った。

今日この部屋にやってきた時よりは――あからさまなまでに、上機嫌な顔。
いつの間にか纏っている空気も、ここ数日放っていた真っ黒なものじゃなくなっていて……

涼を満たし、翻弄しているのは俺なんだと思うと、何だかすげぇ優越感を感じる。
俺もつられて笑い出しながら、もう一度テーブルに置かれていたペットボトルのキャップを開けた。

腰にタオルは巻いているものの、二人とも素っ裸のまま何やってるんだか。


「外に食べ行くの?」

「いや、弁当買っといた」

「用意イイな」

「当たり前だろ。今日はお前放す気無ぇし」


そう言って口端を上げた涼は、悔しいくらいカッコ良かった。
なんて、死んでも絶対に言ってやんねぇけど。

俺はうっかり熱くなった頬を隠すように立ち上がり、俺と……俺との時間の為に用意された弁当を物色しようと、キッチンまでペタペタと裸足で歩いていく。

今夜はまだ、始まったばかりだ。


fin.

***


ここ最近の中でも、大分濃厚な感じのSSになってしまいました^q^;

チューって、テクより心で気持ち良くなるものな気がするんですよねー。
ということで今回のサブテーマは、「チューでどこまでラブラブ感が出せるか」でした。笑

2011.6.19

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