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□バレンタイン★ララバイ
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コンコンッと控えめなノックの音と共に「ルルーシュ…、起きてる?」と扉に向かって声をかければ、室内から僅かに聞こえる程度の声が返って来た。

「スザクか…。入れ」

ただ一言だけ告げられて、自動扉を遠慮なく軽快に開く。
薄暗い室内をぐるっと見渡せば、部屋の主であるルルーシュは起き上がる事無く、布団から出した顔を訪問者であるスザクの方に向けた。
スザクはそのままベットの淵に腰を下ろすと、寝転んだままのルルーシュに優しく話しかける。

「今日、学校休んだんだって?」
「今日じゃない。もう15日になった」
「風邪って聞いたけど…」
「リヴァルにか…?」
「うん。…バレンタインチョコお渡し企画の目玉が居なくて散々だったって、愚痴られたよ…」
「学校には行かないんじゃなかったのか?」
「行ってないよ。折角だからって、大学までチョコを届けに来てくれたんだ」

紙袋にどっさりと入っていたチョコを思い出して、スザクが少し困った様に笑えば、何が気に入らないのか目の前の綺麗な顔は、眉間にグッと皺を寄せて睨んできた。
チョコを受け取った事に対する不満だろうか?不可抗力なのに…と、思いながら「ここには、届けに来なかったの?」と艶やかな黒髪に手を伸ばせば、「知らん」と紙一重で首を竦めて避けられた。
スザクは行き場を無くしてしまった手を引っ込めると、溜め息をひとつ吐き出して見慣れた天井を仰ぎ見る。

「えっと……。具合悪い?それとも、ご機嫌斜め?」
「……」

どうやら後者の方らしい。
ルルーシュの機嫌を損ねる原因が、バレンタインチョコにあることをスザクは充分理解していたが、それでも会話を反らそうとは思わなかった。
理由はただ一つ。
目の前にいる幼馴染みは、幼馴染み兼、恋人だからである。

「ねぇ、最近は逆チョコとか、男から渡すのも流行ってるらしいけど、ルルーシュは……」
「……」

仕事で行けなかった学校。
しかし、もしかしたらそれでも、チョコをくれるかも知れない。
そんな淡い期待をスザクは一日抱いていた。あっさりと裏切られはしたが。

「……その、誰かにチョコ、あげたりした?」
「いや。やってないが…」
「えッ!?嘘!!ナナリーにもっ!?」

あまりにも意外な一言に驚いて、ギシッとベッドに乗り掛かりルルーシュに近付けば「煩い。バレンタインなんだから、オレはナナリーから貰う方だろ」と拳で頭を小突かれてしまった。
まあ確かにその通りだ…と納得して、ベットから身体を下ろすと、ならば…と個人的に最も大事な質問をする。

「じゃあ、ルルーシュ。バレンタインチョコは?」
「…何が言いたい」
「ボクに、」
「無い。お前が14日は仕事だと言ったんだろ?」
「そうだけど…」

一応恋人なのに…と呟くスザクを横目に、ルルーシュは相手にする気もないのか、被っていた布団を払いのけて、ゆっくりと机まで歩いて行ってしまった。
そんなルルーシュの姿を、期待に満ちた目で追うのは、やはり諦めがつかないからで…。
細く白い手が机の引き出しに掛かったのを見て「やっぱりあるんじゃないか」と喜んだのは一瞬、取り出されたのは既に包みを剥ぎ取られたピンクの箱。
それは、どう見てもルルーシュが誰かから貰った物にしか見えなくて、あまりのやる瀬無さにガクッとうな垂れた。

「…ルルーシュ、本当に用意してないんだね…」
「だから、そう言っただろ」
「で、それは何?」

若干イラッとした声になってしまったのは仕方ない。
何故なら目の前の恋人は、自分にチョコをくれるどころか、どこの誰に貰ったかもわからない、その可愛らしいピンクの箱から手作りを思わせるトリュフを一つ取り出し、美味しそうに頬張ったのだから。

「……ッ、ルルーシュ!」

イライラしながら、その憎らしいチョコを奪い取ろうと手を伸ばせば、本気で焦ったのか「ナナリーに貰ったチョコだ。リヴァルが届けたお前宛てのチョコの中にも入ってるはずだぞ!」と、大きな声で遮られてしまった。

そして、そのチョコの贈り主がわかったと同時に、じゃあルルーシュからチョコを貰えることは、本当に無いんじゃないか…と、スザクは諦めるしかなくなった。

ナナリーのチョコは、ルルーシュの態度から、恐らく彼が一緒に作った物ではなく、咲世子か誰かに手伝って貰いつつも、ナナリーが一人で作った物なんだろうとわかってしまったからだ。

(仕方ない、か)

最近でこそ、男から渡す「逆チョコ」と言うものが流行りだしたが、元は女の子のイベント。
いくら恋人とは言っても、誰よりも男としての自尊心の高いルルーシュが、ウキウキとチョコを用意するとも考えにくい。
見た限りナナリー以外からチョコを受け取った様子もないし、ならばもう、それで良しとしよう。
残念に思いながらも、そう自分に言い聞かせると、スザクは制服のポケットに手を突っ込み、おもむろに小さな箱を取り出した。

「ルルーシュ、これ…一日過ぎちゃったけど、ボクからのチョコ」
「……え?」
「ナナリーみたいに手作りって訳じゃないんだけど……」

本当はルルーシュにチョコを貰ってから渡すつもりだった…、と言う言葉は飲み込んだ。
バレンタインと言うものは、恋をしている人が大切な人にその気持ちを伝えようと頑張るイベント。
チョコレート会社が勝手に決めたとか、そんなのは関係ない。だって当日は誰もそんな事覚えてない。
ただ、想いを伝えたい人の事だけを考えて…。
だから。

「好きだよルルーシュ。ハッピーバレンタイン」
「……ス、ザク」
「受け取ってよね」
「あ、ああ。ありが…とう」
「うん…」

部屋が薄暗いから、俯かれてしまうとルルーシュの顔が見れないのだが、それでも僅かに部屋を照らす月明かりで、耳が紅く染まっている様に見えた。
だから、まあ今年はそれだけで良いか…と、箱を手に取ったまま固まってしまったルルーシュを抱きしめた。


とりあえず、耳元に「お返しは3倍返しだよ」と囁いたのは、けしてチョコを用意して貰えなかった仕返しでない事だけは、後でちゃんと伝えておこう。



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アレ??
スザルルなんだか、ルルスザなんだか解らなくなったゾ??
しかも、途中で疲れてチャチャッと終わらしてしもた。
久々に山も谷もない話になりました☆←万死。

つか、なんでか知んないけど、始め脳内ではルルたん、めっさパティシエだったんだけど、なんか「ウチのルルたんは、当日に会えないスザクにまでチョコとか作らないんじゃね?」って思ったら、作らなくなってました( ̄▽ ̄;)オーマイガ☆


⇒09.02.14


  

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