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□ホワイト★アルバム
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「ルル〜!!」

少し離れた所から自分を呼ぶ声がしてルルーシュが振り返ると、腕を頭の上にまで上げて、力いっぱい振りながら駆けてくるシャーリーの姿が見えた。
頭一つ分小さい彼女が、自分の横に並ぶまで歩を止めて待っていると、近くに来たシャーリーは横に付く手前で足を止め、ルルーシュの顔を覗きこんで首を傾げた。
「おはよう、ルル。また寝不足?」
「おはよう、シャーリー。昨日も少し本に夢中になってしまって」
「ふーん。ホント美容に良くないよ?」
そう言って笑うシャーリーに「気をつけるよ」と一言告げれば、彼女は満足そうに「うん」と微笑んだ。
シャーリーを横目に見ながら、彼女相手ならいくらでも素直になれるのに何故スザクにだけ…と考えて、また彼の事思っている自分にルルーシュは一人落ち込んだ。


悪夢の様なホワイトデーから既に四日が経っていた。
ルルーシュは自分から別れを切り出したくせに、携帯に連絡があるかもしれない、学校で会ったら何もなかった様に話し掛けて来るかもしれない、そんな矛盾した想いを捨て切れないまま日々を送っていた。
しかし、その矛盾と反する様に、スザクからはあれきり何の連絡もない。
学校にすら来ていない。
全く音沙汰のないスザクが気になって、気にしない様すればするほど、スザクの事を好きな自分を思い知らされた。

毎日毎日スザク、スザク、スザク。
結局今日も繰り返し。不定期に現れるスザクを気にして授業中に仮眠も取れず、授業が終わっても生徒会室で同じ思いをした。

「いい加減、もううんざりだ」
こんな自分自身に。
その溜息混じりの自嘲に、キランッと瞳を光らせた存在をルルーシュが気付いたのは「ふ〜〜ん」と楽しげな声が、頭の斜め上から聞こえた瞬間だった。
「そんなに仕事がうんざりなら、イベントでも催そうかしら〜?」
そう言って学園の絶対的権力者である生徒会長のミレイは、ルルーシュが持っていた書類を素早く取り上げた。
「会長。何でそうなるんですか?」
「だぁって〜。ルルーシュ最近つまらなそうなんだもん。毎日毎日溜息ばっかり。辛気臭〜い」
そう言いつつもやはり会長。
取り上げた書類にさっと目を通して、そこに彼らしくない誤字を一つ見付けては、ヒラヒラを紙を振りながら、ルルーシュの視線に合わせた。
「ホントどうしたのよ?ナナリーに「お兄様なんて大嫌い」とか言われちゃったりした?はい。ここやり直しぃ〜!」
「そんな事言われる訳ないでしょう!!」
「そうよね〜。言わないわね〜。ホワイトデーに三倍でお返し貰ったって喜んでたもの」
その瞬間、ガチャンを椅子を倒してルルーシュは立ち上がった。
「三倍返しで!?ナナリーがそう言ったんですか!?」
「え…そうだけど…、何?」
座っていたルルーシュを見下ろす様に話していた目線が自分より高い位置に移って、ミレイが顔を上げるとルルーシュは何やら一人考え込んでしまった。
何故だ?ナナリーには三倍でお返しなどしていない。ナナリーがくれたチョコ118gに対して、オレは126gのクッキーした渡していないのだから。では、やはり金額か?いや、ナナリーが作ったチョコの、おおよその費用を3倍にしたぐらいではワンピースの額にはならない。なら、何が三倍だと言うんだ!!??
ルルーシュが悶々としながら、右手を頭に添えた時、突然正面から「気持ちでしょ?」と声が聞こえてきて、伏せていた瞼を持ち上げた。
「え?」
「だから、三倍ってのは気持ちの問題でしょ〜って話」
「な、んで…」
「声に出てるから、ルルーシュ。『ナナリーがくれたチョコ118gに対して、オレは126gのクッキーした渡していない…』」
「ちょ、会長!!」
ルルーシュの真似のつもりなのか、野太い声を出すミレイをルルーシュは慌てて止めた。
しかし、そんなルルーシュのおでこをペチンッと軽く叩くと、ミレイは呆れた様に話を続ける。
「だ〜から、バレンタインって、チョコをあげるだけのイベントじゃないでしょ?って話」
「違うんですか?」
「まあ、ルルーシュの場合。毎年貰い過ぎてるから、あまりそういう感覚、あげる方にもないのかも知れないけど。一応ね、好きな相手に「好きです」って伝えるイベントじゃない?」
そう言われて、チョコをくれた時のナナリーの顔と……スザクの顔を……、ルルーシュは思い出した。
「だから、相手の気持ちに答えるなら、三倍でお返しするのが男デショ?って事。か弱い乙女に告白させたんだから」
か弱い乙女ではないが…。と、今度こそ心の中でツッコミを入れて、事の次第を思い出す。
つまり、ルルーシュは根本的にバレンタインデーとホワイトデーを勘違いしていたと言うことだ。
そして、自分の胸にずっと支えていた物がスコーンッと落ちたのを感じたと同時に、目の前が真っ暗になった。
何故ならルルーシュは、勝手な自分の思い違いから恋人のスザクを責めて、一方的に別れを切り出したと言うことになるからだ。
それは完璧な『絶望』の出来上がりだった。
さっきまで、何をそわそわしていたのだろう。
謝ろうにも、4日も過ぎていれば今更である。
しかも、その4日間。スザクからは何の連絡も無かったのだ。
それは、完全に見限られたと言うことではないだろうか。
ルルーシュは心底、自分の恋愛非体質を呪って、叫びたくなるのを必死に堪えた。


  
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