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□彼と僕の2LDK
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我慢できなくて





バタンとドアが閉まる大きな音の後に、玄関にせわしなく服が擦れる音も耳についた。


十希夫は黒澤の両腕を掴み、ドアに押し付けてキスをする。その唇は大人しいものではなく、黒澤を捕らえるために始めから薄く開いていて触れたと同時に押し入った。


黒澤は十希夫のキスに応えながらも頭の隅で考える。
家に帰ってくる途中から様子がいつもと違ったのはこのせいか、と。しかし、十希夫が外でそういった気分になるのを見たことがない黒澤は続けて思った。十希夫をこんなふうにした何かがあったのだろうか。


黒澤は押さえ付けられている片腕を解いて、十希夫の腰を引き寄せた。下半身が密着してお互いに背筋にゾクリと快感が走る。

そういえばこの感覚は久しぶりだ。
と思って、一旦唇を離そうとしたが、十希夫はそれを追って尚も舌を絡めてきた。明かりもつけていない静かな暗い玄関で絡まる水音だけが耳につく。


「十希夫、どうした…」
「ん…キスしたかった」
「迎えに来たのと関係あんのか?」
「お前が帰ってくるの待てなかったんだよ」


我慢がきかなかったのを恥じるように唇を尖らせたのを、子供っぽいと思いつつも可愛くて、今度は黒澤からキスをした。





−−−−−数時間前

黒澤の仕事がまだ数時間残っている頃、十希夫からメールが届いていた。

迎えに行く

と、簡潔な一行だけ。
迎えに来るなんて初めてのことだったので黒澤は少々驚いたが、何か用事があったついでだろうかと思い理由は後から聞くことにした。

仕事が終わり、十希夫の迎えを待っていると姿を現した彼はどこか元気がない様子で、十希夫に何か起こったのだろうかと一瞬不安が過ぎる。
しかし、元気がないのではなくしおらしくなっているだけだと分かったのは、ぴったりと肩を寄せて手を繋いできたからだった。
時々握り直す指先も擦り寄るように甘い動きで。



−−−−−−


「迎えにくるほど我慢できないなんてお前らしくねーな」
「そりゃそうだろ。なあ、クロサー?」
「なんだ」
「最後にしたのいつか覚えてるか?」


先程、快感を久しぶりだと自分でも思った黒澤は十希夫にも言われて思い出してみる。だが、その記憶は曖昧で正確にどれほど経過しているかは分からなかった。


「二週間くらいだったか」
「違う、もっとだ。先月の始めだよ」
「……マジか」
「俺も今日気付いた」


先月の始めと言っても、今月は既に中旬に差し掛かろうとしている。
二人が最後にセックスをしてからゆうに一ヶ月以上は経っていたのだ。


「最近仕事つまってたもんな」
「あぁ。だからな、気付いたらクロサーに会いたくて家でじっとしてられなくて…」
「で、こんなんなってんのか?」


黒澤は腰を引き寄せた時に感じた十希夫の猛りに手を這わせて軽く揉みこんだ。


「いつから?」
「んっ…駅、出て…から」
「ふぅん、歩きながらどんなこと考えてたんだよ」


尚も揉み続ける黒澤のせいで十希夫は完全に前を固くさせて呼吸を荒くした。足から力がだんだん抜けていくのを感じて黒澤の首に抱き着く。
今度はぴたりとくっついた胸が跳ね返すように鳴っているのがわかった。


「言わせんなよ、そんなこと」
「聞きたいんだよ」
「………お前と早くぐちゃぐちゃに、なりてーって…」


黒澤は、どんな顔をしてそんなことを言っているのか知りたくて手探りで明かりのスイッチを探して点けた。
自分にくっついている十希夫の肩を押しやると目元を赤くさせた彼の表情がやたら生々しくてごくりと喉が鳴った。


「ぐちゃぐちゃになぁ…なるか、一ヶ月分」


十希夫は俯いてしまったが、しっかりと頷いて返事をしていたので二人は夕食のことも忘れて寝室へと向かった。
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