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□彼と僕の2LDK
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浴槽の中は二人だとどうしても狭く、黒澤は十希夫をそこで立たせて壁に押し付けた。
浴室は湯気がこもって温かいものの、壁に肌が触れればわずかに冷たく感じる。十希夫は黒澤にキスをされながら、背に感じる冷たさに肩が跳ねた。
黒澤は十希夫の舌をすくい上げ甘く吸い取りながら耳を優しく撫でる。
耳が弱い十希夫をそうするだけでも感じることは知っているので、内側も指先でなぞっていくとキスの合間から早くも声が漏れた。
「ほんと耳弱いよな」
「ん…んぅ、」
恥ずかしいのか、返事も返さずそっぽを向いてしまった十希夫は自らそこを黒澤に差し出したのに気付いたのは、耳に彼の熱い舌が這った時だった。
黒澤は耳たぶを軽く歯をたてながら舌とで挟み刺激した。時折吸い取るようにするせいか、ちゅっちゅ、と直接耳に響くその音にぞくぞくと快感がはい上がってくる。
「あっ…!はぁ、…」
次第に耳の中にも舌は忍び込んできて、吐息と水音とで脳がふやけるように思考能力をなくしていった。
しばらくすると十希夫の体からすっかり力が抜けているのが分かって、黒澤は離れると背けていた彼の顔を無理矢理こちらに向けて言った。
「まだ始まったばっかでへばってんじゃねぇぞ」
言葉とは裏腹に優しさを含んだ声色。
十希夫だってこれだけで参るはずかない。黒澤に抱かれて、その優しさに溶けるように終わりを迎えるのも好きだったが、彼を追い込むのもまた同様に好きだった。
十希夫はぼんやりとした意識を取り戻すと、何か言うでもなく手の動きだけで黒澤を浴槽の縁に座らせた。足を開かせ、自分はその間に納まると体は湯の中で、熱が上がってきている今は熱く感じてしまう。
目の前にある黒澤の性器はまだ柔らかい。十希夫は手で包むように持って吸い付くように根元から上まで何度も行き来する。くわえ込めるギリギリまで口に含んでゆっくりと出し入れすると、黒澤が自分の中を可愛がってくれる時のことをふと思い出し、いつも彼がするようにやってみることにした。
始めはゆっくりと味わうように、そして段々と早くなる動き。
口だけでは足りない根元の部分は手で補い、黒澤の動きを思い出すことで十希夫の下腹は疼くほどに熱が高まった。自分が黒澤を愛撫しているのに、まるで自分が犯されているかのようで十希夫の目には涙が浮かんでいた。
「十希夫、十希夫」
フェラチオに夢中になっている十希夫の肩を叩いて呼ぶと、ゆっくりと上げた彼の顔は既にとろとろに溶けていて、名残惜しそうに性器から離した唇からは透明な糸が一筋、湯に落ちた。
「そんな激しくしたら出るだろ」
「ん…お前にされてる時のこと思い出して…たまんなくなった」
そう言うとまた性器にちゅうっと口づける。
黒澤は、スイッチが入るとセックスに夢中になって甘える仕草を見せる十希夫を可愛く思っていた。
「コンビニ、行きたいんじゃなかったのか?」
「いい。もう今は抱かれたい…さっきみたいにしてくれよ」
普段は恥ずかしさからかあまり甘えてくることはない。しかしその反動かのようにセックスの時は素直に欲しがる言葉も、もっともっととくっついてくる手もこれ以上ないくらいに甘く感じた。
黒澤は再び十希夫を立たせて、後孔を解しにかかった。
黒澤の指がいいとこ掠めるたびに十希夫の腰が揺らめいて喉がゴクリと鳴る。
「あ、あ…カズ、いい…そこ」
高校の時から抜けない、クロサーの呼び名もこの時ばかりは下の名になる。自分の名前がこんなにもあまい響きになるなんて、嬉しさで十希夫の背をぎゅっと抱きしめた。
穴も柔らかくなったとこで黒澤は十希夫を自分に向かせて、片足を浴槽の縁に掛けさせた。大きく足を広げたはしたない姿に十希夫はわずかな恥ずかしさを感じたものの、黒澤の性器がそこに擦り付けられると彼の肩に手をかけてその時を待った。
じっくりと入り込んでくる気持ち良さに早くも足に力が入らなくなってきた十希夫は黒澤の首に抱き着いた。
熱い固まりが隙間なくぴったり収まる息苦しさとそして心地良さ。黒澤が律動を繰り返すたびに、それが素直に口から零れた。
「あっ!はぁ…あ、あぅ!あ、あ」
「気持ち、良さそうだな…ん」
「ん、気持ちい…んぁ、あ!すげぇ、いい…あー!あ、あん!カズ…もっと」
ねだるように十希夫からキスをされる。たまらなさそうに舌が震えていて、下半身に意識が集中しているせいで半端になってしまったが黒澤もそれに応えて舌を絡めあった。
立ったまま向き合う形では絶頂まで追い上げることができない。黒澤は十希夫をもう一度後ろに向かせ壁に手をつくように言った。
十希夫は上半身を壁に預け腰だけ黒澤に差し出す。そうして、黒澤は十希夫の腰を掴むと一気に攻め立てた。
激しい動きにお湯が波立つがそんなの気にもならず、ただ快感を享受する。
「あぁ!あ、…も、だめ。んぅ、ふっ…あ!も、いく…ぅ」
黒澤が後ろから十希夫の肩を抱きしめると、十希夫の背がびくびくと跳ねて、いったようだった。腕の中でのその震えに黒澤も感じて十希夫の中に精を放った。
「クロサー、コンビニ行きたい」
事後処理も終えて、甘い空気のまま二人して風呂から出ると着替えながら十希夫がそう言った。
しかし声は何故か小さい。
セックスの後はどうにも体が怠くなりしばらく動けなくなるのはよくあること。さっきも、動けなくなってコンビニに行けなくてもいいから激しくしてくれ、と言ったのだが、今は体が動く。
風呂に入る前から、アイスが食べたいと思っていたので、体が動くならまた急に食べたくなってきたのだ。
「お前、動けんのかよ」
「し、知らねーよ!なんでか動けんだよ」
十希夫自身どうしてなのか分からないが、激しくされたのにこの状態なことが恥ずかしいようだった。
「じゃあ帰ってきたらもう一回するか。十希夫が上乗れよ」
「はあ?」
「動けるみたいだから」
自ら動いている姿を見られる騎上位は十希夫が苦手としていた。それを分かって黒澤は言っている。
十希夫は、やはり動けないと言ってアイスを諦めるか、仕方なく上に乗ってやるかしばしの間本気で悩んだのだった。
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