2

□彼と僕の2LDK
3ページ/6ページ

【浴室にて】




夕食を作った十希夫に代わり、夕食後の皿洗いは黒澤がやることになっている。もちろんその逆もある。家事分担はしているものの、時間があれば代わり、役割も交換するのが二人の間で定着していた。

だいぶ前に家事のことで口ゲンカになり、言い合った末に実はその原因がとてもささいなことだったので二人してバカらしくなって新しいルールを追加したのだった。



黒澤が二人分のわずかな食器を洗っている間、十希夫は風呂へと足を向けた。黒澤が食器を洗い終える頃に上がって、一緒にコンビニでも行こうかと考えながら。


しかし、頭を洗おうとした十希夫がシャンプーに手を伸ばすとポンプは空の音がなり、そういえば昨夜使いきってしまったのだとそこで思い出した。
買い置きがあったはずだと洗面台の下の棚を探ってみるが見当たらない。黒澤に聞こうとして風呂場から呼んでみた。


「クロサー!シャンプーの買い置きなかったか?」
「あー!?なんだって?ちょっと待ってろ。もうすぐ終わるから」


そう言われてしまっては大人しく待つしかない。十希夫は仕方なく湯舟に浸かって待つことにした。

しばらくの後食器を洗い終えたらしい黒澤が浴室に顔を覗かせる。ドアのすぐそばに湯舟に浸かった十希夫の頭があって、その音に気づいて十希夫は髪をかきあげながら振り返った。


「悪い。シャンプーもうないみたいなんだ。買い置きが見当たらなくて」
「ああ、棚の奥の方にあったぞ」


そう言った黒澤は浴室のドアを開けたまま、さっき十希夫が探した所のさらに奥から買い置きのシャンプーを取り出した。それを手渡しながら十希夫の顔を見ると、額を出しているのが可愛くてついそこにキスをしてしまった。


十希夫も黒澤に見つめられているのには気付いていたが、まさかキスが降ってくるとは思わず、不意をつかれたうえに随分と甘いことをされてびっくりしたせいで、普通ならありがとうと言って終わりになる場面だったがなんだか変な返しをしたのだった。


「風呂まだだろ。入るか」

十希夫にとってはそれ以外の意味はなかったが、黒澤の方が口の端を上げてにやりと笑ったことではっと気付いた。
もしかしたら変な意味でとられてしまったかもしれない。しかし実際黒澤がどう考えているかは分からずそれ以上は言えなかった。



十希夫は、黒澤が着替えを持って来る間に頭を洗っていたがその途中でやって来た。
シャンプーの泡で目をつむりつつも、耳から何か置いた音が聞こえて不思議に思い首を傾げた。

それが何なのかは頭を洗い流してからすぐに分かったが、それと同時に大いに突っ込みを入れてしまう。


「な、何持ってきてんだ!」
「そのつもりで誘ったんじゃないのかよ」


汗を流し順番待ちのために湯に浸かっていた黒澤は悪びれた様子もなくさらりとそう言った。十希夫は、やはりさっきのは変な意味で取られていたらしいことがここでようやく分かった。

十希夫はつい握ってしまったローションを浴槽の縁に置き直し、上から黒澤を見下ろして僅かに顔を赤らめた。


「ここでやるのかよ…。俺、風呂上がったらコンビニ行きたかったんだけど」
「いいぜ。じゃあ風呂では抑え気味にしてやるから帰ってきてからもう一回な」


黒澤は実に楽しそうに笑って十希夫の手を取ると指の付け根に舌を這わせた。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ