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□彼と僕の2LDK
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【とある平日の三日間】
十希夫は集中していた。
今までの人生でないくらいに集中した三日間だった。
仕事で急ぎの依頼が入り、通常一ヶ月はかかるものだが社内で緊急にチームを組み早急に作ることになった。
十希夫に割り当てられた分だけでも一週間はかかりそうなものだったが上司命令により三日でこなさなければいけないことに。
どう考えてもパソコンにかじりついて作業しないと出来上がりそうにない。
十希夫は同居中の黒澤にそう愚痴をこぼしてから、仕事用としてもらった2LDKの一部屋にこもった。
普段は一日数時間の作業時間で仕事は終わってしまうが、今回ばかりは食事とトイレ以外はほぼカンヅメ状態。
黒澤は、朝出勤前に見た十希夫と帰ってきてからもう一度見た十希夫が全く同じ、パソコンに向かう形だったのには驚いた。ただならぬ空気を感じとった黒澤はドアの隙間からそっと顔を出して話しかけた。
「ただいま。お前、朝と同じままだぞ…」
「おかえり……はぁ!?今何時だ!?」
「俺が帰ってきてんだから7時すぎてんぞ」
「マジかよ!そんなに時間たってたのか…悪ぃ、晩メシ用意してねー」
在宅の仕事をしている十希夫が夕飯の担当だったがそれを忘れるくらいに仕事に没頭していたらしい。
そんなことが二日ほど続き、さすがに十希夫のことが心配になってきた黒澤は大丈夫かと声をかけた。すると十希夫は頭を抱えて首を横に振る。
「あと少しで終わるけど集中力がもうダメだ…」
人の集中力ばかりは自分がどうすることもできないと黒澤が思っていると、十希夫がよろよろと黒澤の方へと歩み寄った。
そして締めるかのような勢いで黒澤の首元を掴み上げ、かぶりつくようなキスをする。
突然のことで少し驚いたが、黒澤は十希夫の意図が分かって宥めるように肩を撫でてやった。
ちゅっと音をたてて唇が離されると十希夫はさっさと離れてまたパソコンの前に戻る。
黒澤はその背中に声をかけた。
「集中力、補給できたか?」
「できた。あと1時間くらいで終わらせるから外にメシ食いに行こうぜ」
「分かった。その後でお前も食わせてくれよ」
「………誘いかたがオヤジくせぇんだよ」
いつからか、十希夫は心の中で何かまとまらないことがあるとキスをするようになった。それで落ち着くならいくらでもされて構わないが、しかしまるでエネルギー源のようされているなと思ったら黒澤は笑うことしか出来なかった。
そして、俺がいなくなったからコイツはどうなるんだという、いらない心配も。
1時間後、少し時間をオーバーしたものの怒濤の数日間を過ごした十希夫はようやく作業から解放されたのだった。
「終わった…」
「よし、メシ行くか…ってお前その前にヒゲ面なんとかしてけ。風呂入ってねーだろ」
「昨日徹夜したから」
「待っててやるから入ってこい」
「入れて」
「は?」
「もう今は何もかもが面倒」
甘えているのか、ぐったりしているのか、十希夫は黒澤にもたれてそう言った。こんなに風に何かを要求されるのはあまりないことで、珍しい彼の姿を見た黒澤は十希夫の言う通りにしてやったのだった。
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最終的にラブラブを追求したらこうなってしまった。この後ヒゲ面もクロサーに剃ってもらうっていう以前呟いたネタが風呂で待ち構えてるわけです(笑)