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□寒い日はここで
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静かな美術室ではくしゃみは意外と響く。たいしたくしゃみでもなかったのだが、十希夫が今しがたしたそれは随分と大きく聞こえた。

「俺は平気だけどお前は寒いだろ。教室戻ってていいぞ」
「平気です。ここにいます」

美術室は教諭が居なければ暖房はつけられないようになっていて、軍司と十希夫は上着を着込んで過ごしていた。風がない分外よりは少しはマシという程度で気温の低さはほとんど外と同じだった。
(ちなみに秀吉たちがいる図書室も同じようなもの)

教室はストーブが設置されていて、快適に過ごせるからそっちに行けばいいと軍司が言ってくれたにも関わらず十希夫は美術室に留まると言う。勿論理由なんて軍司と一緒にいたいという単純明解なものだった。


とは言え寒いのはどうにもならず、さっきから背筋がゾクゾクしっぱなし。そんな十希夫の気持ちを分かっている軍司は、可愛い事を言うなあと笑みを浮かべつつ十希夫においでと手招きをした。

言われるままに軍司に近づくと、何を言うでもなく上着を脱がされて体がくるりと反転したと思ったら軍司に背を預けるように座らされたのだ。


軍司の上着の前は開いていて、それで後ろから包み込むように抱きしめられる。いつも温かい軍司の体温が背中から伝わってきてとても心地がよかった。


「あったけー……」


耳の上辺りには軍司の息がかかりそれでまた温かさを感じて、このままこうされていたら眠ってしまいそうなほど心地良い温かさだった。


「それはいいんだけど、この体制と密着具合はちょっとなぁ」


言われると同時に首筋に一際温かい感触を感じた十希夫は、軍司がそこに唇を当てているのだとすぐに分かった。言葉尻からして色を含んだ欲が沸いてくると言われたのだろうと思い、十希夫の心臓はだんだんと大きく脈打つ。

自分がそういう気分でない時、平静の状態から軍司の手によって気分を高められるとどうしようにもなく自分は軍司に溺れているのだと十希夫は思った。
他の誰にこうして触られたって気持ちは揺らがないのだから。



寒い部屋なのにちっとも冷たくならない軍司の指先が服の裾から忍び込んで直に肌に触れると十希夫の肩がびくついて急いで止めた。


「軍司さん、ここ学校」
「んだよ、いちゃつくぐらいいいだろ?人目があるわけでもねーし」
「まぁそうなんですけど、その…いちゃつくだけでも、俺がその気になっちゃうんで…困るというか」


すると上半身を捻って軍司の方を向いた十希夫は、ちゅうっと上唇を吸うようにキスをした。自分は本当にいちゃいちゃするだけでいいと思っていた軍司だが、思わず十希夫からの戯れの先を思わすかのようなキスに胸がキュンとした。
そして十希夫は柔らかく微笑むと


「だからここじゃだめ」


子供に注意するように言うと十希夫は前に向き直して、包まれていた軍司の上着を自分で引っ張ってまた軍司の懐に納まった。


「じゃあ学校じゃなきゃいいんだろ?」
「もちろんです」
「よし、今日は俺の部屋に来いよ」


後ろから顎をくすぐられて肩をすくめた十希夫はくすくすと笑いながら珍しく「はーい」と間の抜けた返事を返したのだった。











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