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□仮定の元のある日常
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古びたたたずまい、暇つぶしに用意されている雑誌は数カ月前の物、キィキィ音をたてる折りたたみのパイプイス、どこか薄暗い蛍光管。
辛気臭いとは思うけど嫌な気持ちにならない。それは多分洗い立ての洗濯物の匂いが漂っているからだ。

壁に一列に並ぶ大型の乾燥機たちは真面目に働いていて、でもここには誰もいない。コインランドリーはそういう時非日常の空間になった。親子で乾いた洗濯物を畳んでいたりする人がいると日常の風景なのに。

と、京介はパイプイスを揺らしながら思う。

「京介、うるせぇ」

隣で静かに漫画雑誌を読んでいた公平が、京介がたてるパイプイスの音を咎めた。

「だってよ、公平が構ってくんねぇからだろ。暇だし」
「だから一度帰ろうって言っただろ」
「えー、コインランドリーっていい匂いしない?俺この匂い好きなんだよね」
「じゃあ暇くらい我慢しろ」


二人しかいないコインランドリーは狭いのに声が響くようでさらに物悲しい。その時一つの乾燥機が終了音をたてて止まった。また少し静かになる。


「俺らのはあと8分だって」
「すぐじゃねぇか。暇つぶしするほどでもないな」


漫画を読むのにも飽きてきた公平はイスを軋ませて立ち上がり元に戻しに行く。
ふと外を見ると先程まで薄明るかった空はすっかり暗くなっていた。夕食には少々早いかもしれないが、それでも空腹を感じた公平は京介の隣に戻ると「今日、外に飯食いに行くか?」と誘いをいれてみる。


普段交代で食事の用意をしているため外食はあまりしない。そのおかげで貯金もだいぶ貯まってきて、目標額までもうすぐだ。でもたまの外食もいいだろう。


「いいね、行こう。公平何食いたい?」
「うーん…麺か…米」
「ビミョーな答えだな」
「じゃあ通りのそば屋に行こうぜ。あそこ丼もあるし」
「そうだな」


話しが纏まったところでちょうど洗濯物の乾燥も終わったようだ。畳むのは家に帰ってからにするとしてとりあえずカゴに詰め込む。それを京介が持って外に出たが、公平は京介の肘を軽く突くと何も言わずにカゴの持ち手を片方持った。
仲の良さを表すかのようなそれに少しからかってやろうかとも思ったが、公平がふと笑ったことで二人の間の空気が思いの外柔らかくなって、京介は出かけた言葉を引っ込めた。


「なぁ、公平。もうすぐ車買うための頭金貯まるだろ?」
「あぁ」
「買ったら一番にどこ行こうか」
「どこって、うーん…あ、海とかいいんじゃねえ?」
「あー!そうか、それがあったか!俺、どこにしようか考えたんだけど思いつかなくってさ」


せっかく二人で買うと決めた物だから思い出になるようなことをしたいと思った京介は、公平の提案により既に気持ちは海へと向かっていた。
自分たちが出会った場所、そしてまた新しい一歩を踏み出すには相応しい場所かもしれないと思った。


二人が暮らすアパートはすぐそこだ。短い会話をしている内に着いてしまって二人してドアを開けた。









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