Parallel

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逃げる体を秀吉に後ろから抱え込まれてそうできないようにされている米崎の手の平はジワリと汗ばんだ。


「いや…秀吉。もうやめて……」
「まだ始まったばっかだろ。ほら、目閉じるのも駄目だ、ちゃんと見ろよ」
「や、やだ!なんでこんなことするの…あ、あ、いやぁーー!!」


悲鳴と同時に米崎の体は強張り、秀吉の腕をきつく掴み顔を反らすが顎をつかまれまたすぐにテレビ画面へと戻された。

秀吉はそんな様子の米崎を見てとても満足そうに笑みを浮かべる。普段は気丈だがちょっといじめると泣いてしまうそんな脆い一面も愛しくて仕方がない。米崎からすれば迷惑な話しだが。

テレビ画面から時折大きく鳴る効果音に合わせて米崎の体がびくっと震える。映像は常に薄暗く、それが余計に恐怖を掻き立てた。



こんなことになるならあの時行くのを止めておけばよかったと米崎は今更後悔する。
秀吉の部屋に泊まりに来ていた米崎は、もう自分のとこと同様に使いこなせる秀吉のキッチンで夕食を作っていたのが二時間ほど前。それを食べ終えて、秀吉が一服するのを眺めていたら珍しく秀吉から出掛けようかと言い出したのだ。

米崎は、出無精の秀吉の口からそんな言葉が出るなんて嬉しくてすぐに返事を返した。
夜中なこともあって歩いて15分ほどのレンタルDVDショップへ行こうと言われ、ちょうど見たい映画があった米崎は秀吉と並んでそれを探した。
しかし探すのに熱中してしまい秀吉がいないことに気付かず、お目当てのDVDを手にして秀吉を探すといつの間にか秀吉は自分だけ先にDVDを借りてしまっていた。


「借りるなら先に私に声かけてくれてもいいのに」
「まだ探してるみたいだったからいいかと思ったんだよ。で、何借りるんだ?」
「これ。レンタルされるの待ってたんだけど借りるのすっかり忘れたの」
「……ベッタベタの恋愛もんじゃねーか。俺は見ねぇぞ」
「じゃあ一人で見る…」

米崎が少しむっとした顔がほほえましくて秀吉は頭をつい撫でた。

「まぁいい。借りてきてやるからちょっと待ってろ」

そう言って米崎の手からDVDをさっと奪って会計をしに行く秀吉の後ろ姿を、米崎はレジカウンターから少し離れた所で眺めるとつい周りと彼を比べてしまってやっぱりかっこいいと見惚れてしまったのだった。



そして二人で楽しくDVD鑑賞をできると思っていたのに、帰ってくると米崎の期待は見事に打ち砕かれた。

秀吉は自分の借りた物が何か言わないままDVDをセットするから米崎は始まるまでの楽しみにしようと秀吉の隣に大人しく座ると、突然体を抱き込まれて身動きが取れないようにされた。


一体何事かと思っていたら、秀吉が借りてきたDVDは米崎が死ぬほど嫌いなホラー映画だったのだ。

米崎の怖がる姿を見たくて企んだ秀吉だったが、予想以上の怯えぶりにそれは満足したわけで。




一時間半、たっぷり恐怖を味わった米崎はすっかり疲弊して秀吉のベットに倒れ込んでいた。


「コメ、そんなに怖かったのかよ」
「今更聞かないでよ…私がああいうの大嫌いなのしってるくせに」


自分に触れてこようとする秀吉の手を払い落として、米崎は背を向けてしまった。
小さく丸まる背中に愛しさを感じずにはいられなくて抱きしめたくなったが、お楽しみはまだまだこれからだ。





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