TEXT1

□溶けゆく日曜日
1ページ/2ページ

来週の日曜に一緒に出掛けようと誘ってきた軍司さん。
約束した時間にうちまで来ると言っていたのに全然やって来ないから俺から迎えに行った。

軍司さんちの呼び鈴を鳴らすと今から出掛けるのか上着を着たおばさんが出てきた。

「今日、軍司さんと約束してたんですけどどうしてます?」
「そうだったの?あの子まだ寝てるから起こしてあげて。私は今から出掛けなくちゃいけなくて」

そう言ってそのまま出て行ってしまった。
静かな岩城家。もう昼も約束の時間も過ぎているのに寝ているなんてどうしたのだろうか。
軍司さんは休みの日はだらだら過ごすことはそんなにないし、時間には結構きちんとしている。

軍司さんの部屋のドアを一応ノックしてみるが返事はなくてまだ寝ているのだろうかそっと開けると、その通り布団に丸まって寝ている軍司さんの頭だけが見えた。

締め切ったカーテンで薄暗い部屋に入り、カーテンと窓を開けて軍司さんを起こした。

「軍司さん、起きて。今日出掛けるって言ってたじゃないですか」

布団の上から体を揺すると軍司さんはもそもそと顔を出して、本当に眠そうな目を少しだけ開けた。

「…もうそんな時間か?」
「昼過ぎてますよ」
「目覚まし……」

と言ってベッドの脇に置いてある目覚まし時計に手を伸ばしながら、その文字盤を見ることなく力尽きてまた寝てしまった。

「軍司さん!」

ベッドからだらりと垂れる腕を取って強い口調で呼ぶと今度こそ起き上がって、でも開かない目で俺に抱き着いてきた。

「一体どうしたんですか。いつもならもうとっくに起きてるでしょう」
「んー…色々考えてたら明るくなって、それで寝た」

そんな時間まで何を考えていたんだろうか。抱き着いている軍司さんはそのままにしていたらまた寝そうだったから、肩を掴んで引きはがして頬をぺちぺちと叩いてやった。

「その時間に寝てても、もう起きていい時間です。ほら顔でも洗って目覚まして」

そこまで言ってようやく起きる気になったのか、半分閉じたままだった目をパチッと開けるとキスをされた。ちょっと勢いがあってぶつかるみたいなキスだ。

「おはようのチュウ」

満足そうに笑った軍司さんの顔が可愛かったけど、そういう恋人同士の何気ないスキンシップには未だに慣れなくて恥ずかしい。照れ隠しに軍司さんの肩を押して離れたらまた笑って額にキスされた。

だからそういう恥ずかしくなることは止めて欲しい。このドキドキは中々治まらないんだから。


「なんかまだ頭すっきりしねーから風呂入ってくる。もうちょっと待っててくれ」

そう言って下に下りて行ったから俺も下りてリビングで待つことにした。昔から出入りしてる軍司さんちは遠慮しなくてもいいから我が家と同じくらい居心地がいい。

リビングのソファーに座ってテレビをぼんやり見ているとしばらくして風呂場から軍司さんが呼んだから顔を出した。

風呂場のドアを開けると熱を帯びた湿気が乾いた肌をくすぐる。
軍司さんの髪はお湯に濡れて束になった毛先からぱたぱたと滴が音をたてて落ちた。

「十希夫、髪洗って」
「は?何言ってんですか。自分で洗えばいいじゃないっすか」
「お前冷たすぎるぞ…」
「別に冷たくしてるわけじゃ」
「じゃあ洗ってくれたっていいだろ。十希夫にやってほしーの、お願いしますー」

軍司さんは開き直った駄々っ子のような口調で、それがなんだか甘えているような感じがした。
そういえば、いつもは俺が甘やかされてばっかりで軍司さんが甘えることはあんまりないなぁ、と思ったら胸がきゅっと締めつけられた。





靴下を脱いでズボンの裾を捲って風呂場に足を踏み入れる。背を向ける軍司さんの前に立って、要望通り髪を洗ってあげた。

「なんで髪なんですか?」
「何が?」
「何かやってほしいなら別に髪を洗うんじゃなくて他のことでも良かったんじゃないかと思って」
「いや、いつでもやってもらえることでもないし。それに髪切りに行った時、店で洗ってもらうとすげー気持ち良いだろ。十希夫にやってもらったらもっと気持ち良いかなー、なんて思ってな」

軍司さんの髪はその見た目とは違って随分と柔らかい。泡でもこもこになった軍司さんの髪で角を作ったりして遊んでいたら、昔一緒に風呂に入った時同じようなことをして遊んでいたことを思い出した。

一緒に風呂に入っていたのは小学四年くらいまでで、軍司さんが五年生にもなるとお互い思春期特有の大人ぶったり隠したかったりで、全てを開けっ広げにすることもなくなって自然とそういうことはなくなっていった。

そんなことを考えながら視線を肩や背中に移すとがっしりと筋肉のついたたくましい体に男らしくて、もうあの頃の軍司さんとは全然違う。
セックスする時は軍司さんの背中なんてほとんど見ないから、数年ぶりに目にしたその背中はまるで知らない人のようだった。確実に欲を刺激する色気が纏わりついていて俺の体の奥がチリチリと騒ぎだした。

髪を洗い流すと垂れた前髪をかき上げた軍司さんと鏡越しに目があって、小さく騒いでいただけだったそれが引っ張り出された。

目の前にあるご馳走に噛り付くように軍司さんの背中のキレイに盛りたがった筋肉に軽く歯をたててその力強いしなやかさを味う。隆起したとこを舌で辿ると、ぴちゃっと粘着質な音が響いた。

「十希夫。これ、誘ってんのか」
「ん…だって、軍司さんの体エロすぎ」

落ち着いた軍司さんの声に反して俺の欲はどんどん高まるばかりだった。スキンシップは恥ずかしいくせに一旦意識しだすともう治まらなくて、俺の体はすっかり軍司さんにはしたなく反応するようになっていた。

「軍司さん、キスして…」

自分でも驚くくらい熱く濡れた声でねだったら、軍司さんは何も考えられなくなるくらいとろとろに甘いキスで俺を可愛がってくれた。





その後、風呂場で脱ぎ捨てた服は濡れて着れなくなったから軍司さんの服を借りて出掛けたのだった。





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ