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□やがてネムノキに刺され
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明日からの三連休、とくにやることはないと言ったら軍司さんが一緒に見ようと言ってしこたまDVDを持って泊まりにきた。
邦画も洋画もごちゃ混ぜなその山を見て、全部みたら何時間かかるんだろうと思った。
「どんだけ借りてきたんですか」
「ここんとこ忙しくってゆっくりできなかっただろ。まとめて見ようと思って」
どれから見ようかと選んでいる軍司さんの横から手を出して自分の好みのものを探したけど無かった。
軍司さんと俺は好みがそんなに合わないけどお互いの好きなものを教えることで、自分が興味なかったものに目を向けることができてうまく影響し合っている気がする。
「今から見るんですか?俺、風呂まだだから入ってきますよ」
「おー、先に見てるから。十希夫の見たいやつどれだ、後にしといてやるよ」
適当に真ん中のを取って渡しておいた。
風呂から出ると、飲み物とつまめるものを持って部屋に戻った。
軍司さんはすっかり映画に集中していて、テレビ前のローテーブルに置いたそれにぼんやりと手を伸ばした。
「ん?あぁ、十希夫お茶あるか、今はそっちのほうが・・・・」
手に取ったものがジュースだと分かると軍司さんは視線を俺のほうにやって聞いてきたと思ったら、目を丸くして一瞬固まった。
「お、お前、なんて格好してんだ!」
慌てたように少し身を後ろに引いてそう言われる。
俺は返事をする前に、ベッドの上に置きっぱなしになっていたスウェットの下を穿いた。
「なんて格好って・・下持ってくの忘れてたからそのまま来ただけじゃないっすか」
「・・・だからってパンツ一丁はないだろ・・・」
とかなんとか語尾を濁してごにょごにょ言っていた。
「ガキの頃なんて素っ裸だったじゃないですか」
「昔と今は違うんだよ。大体いくらなんでも意識しなさすぎだろ」
そう言って手を引っ張られた。胡坐で座っている軍司さんのそこに座らされると、軍司さんの腕にすっぽりと収まった。
俺はそんなに身長が低いわけでもないし、こんなことしたら俺の頭で見にくくないだろうか。
そんな今の状況と関係ないことを考えていたら、軍司さんは俺に腕を回して鼻先を首筋に擦り付けてきた。
軍司さんに好きだと言われたのはそんなに前のことじゃない。
恋愛的な意味で好きなんだというのは分かったけど、俺の気持ちはそういうものではなかった。
でも軍司さんと一緒にいられるのは嬉しいことだし拒む理由もないから、首を縦に振ったら二人の時はそういう雰囲気が漂うようになって優しく触れられたりする。
そんな雰囲気がくすぐったい感じはしたけど、それ以外は昔と変わらなくて無邪気に笑っていた頃の延長のように感じていた。
でもそうだとしたら軍司さんはいつから俺のことを好きだったんだろう。
さすがに幼馴染のしかも男からの好意を感じとるなんて難しい話しだけど、鈴蘭に入学してからだって全然軍司さんの態度は何も変わらなかったんだ。
軍司さんはこういう類の感情を伝えるのはうまくないからすぐ行動に移したわけじゃないだろう。
そう考えると、長い間俺のこと想っててくれていたのかもしれない。
俺のことを考えて胸が軋んだりしたんだろうか。
想いを伝えるのには勇気がいっただろうか。
そう思ったらなんだか切なくなった。
軍司さんの手を握り返したら、俺の首筋に唇を押しつけて溜め息をつくように「ときお」と言った。
聞いたことのない、甘く掠れた声に背筋がゾクゾクする。
その声は昔の「軍司くん」ではなく「岩城軍司」のものだった。
そう意識したら途端に体が熱くなって恥ずかしくなった。
こんな声で自分の名前を呼んでくれる人に対してそんなに考えもしないで首を縦に振ってしまって、自分はなんて子供だったんだろうと思う。
「十希夫?どうした、耳真っ赤だぞ」
「・・・・・いや・・恥ずかしいのと、軍司さんなんだって・・・・思ったら」
「は?」
俺の言ったことが分からなかった軍司さんの疑問には答えらなかった。
たぶん、好きだと言われて嫌じゃなかった時から軍司さんの手の中に落ちていたのかもしれない。
もっと今の軍司さんを見て、言える時になったらちゃんと言おうと思う。
今は手を握り返すので精一杯だった。
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