虚域夕刻
□境界線
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「めちゃくちゃだけどいかしてたぜっ!」
「なんて奴だ!」
「なんかスカっとしちゃった!」
「見直したぜ!」
ガクガクと名前も知らないクラスメートらしき奴らに肩を揺さ振られる。
笑みを浮かべながら飛び交う賛辞に、“ダメツナ”は未だ呆然としていた。
“ダメツナ”ならば、こんな、皆の真ん中に囲まれるなんて虐め等以外には有り得なかっただろうから。
持田が【友達になってくれ】宣言を【告白】と勘違いしてくれやがったおかげで行われた勝負。
やはりリボーンという名のヒットマンに、半ば強制的に勝利を収める事となった。
後悔とかは、ない。
だってコレは、リボーン(同じくボンゴレ等のマフィア共)に無理矢理用意され決められた道筋で、生徒達の遊戯。
本性を隠し周りを欺き結局は従うという“ダメツナ”を演じる事は、自分で選んだ。
けれどそれ以外は全て周りの責任であり、俺の意思は1ミクロンたりとも含まれちゃいないから。
自分で決めたものなら未だしも、何故他人が決めたものを俺が後悔しなければならない?
「ツナ君!」
深層での思考を中断させた声に振り返れば、笹川京子が。
「昨日は怖くなって逃げ出してゴメンね…」
まぁ、そりゃあ下着姿の男に内容はともかく突然叫ばれたら驚くし怖く思うんだろうな…。
苦笑いする笹川京子に表で慌てつつも内心はとても冷めていて。
「あたし、よく友達に笑う場所わかってないって言われるの」
あ、持ち前の超天然で冗談だと思ったわけね。
ん?それじゃあ笹川京子も持田と同じで【友達になってくれ】宣言を【告白】と受け取ったのか?
「ツナ君って凄いんだね!ただ者じゃないって感じ!」
そりゃあ前世忍者でその記憶持ちプラス裏世界No.1マフィアの次期後継者候補ですから。
後半は不本意で不愉快で認めてはいないが。
そう、深層で思いつつ表層では“ダメツナ”が思いそうな事をつらつらと並べ立てる。
リボーンがそれを読み、満足げに家へと帰るのを気配で認知して、深層で思いっきり盛大にため息を吐いた。
目の前で実に輝かしい笑顔を浮かべる笹川京子に、気付かれない程僅かに瞳を細める。
…実を云うと、笹川京子は苦手であり、羨望の対象であり、同時に些細な和みでもあった。
真っ白で、穢れを知らなくて、負の感情に塗れた世界から1番遠い、綺麗過ぎる笑顔。
それこそ前世から闇に浸かり染まっている俺には、眩し過ぎる存在。
隙を晒せる程の平和を、他人への疑念等抱かない程の日常を、何気ない幸せを味わえる世界を得ている。
俺に無いものを持っていて、羨ましくて、でもそれだからこそそれに癒されるのだ。
そして、そうやって癒される事がそもそも幸せだと、噛み締めながら。
境界線
(区切られている)(だからこその存在)