頂き物

□ありがとう
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翌日の朝、今度はスネークの部屋をカズが訪ねた。

「その……ボス。すまなかった」

俯きがちに、しかし視線がチラチラとスネークを見上げる。

「……体調はもういいのか?」
「あ、あぁ。点滴打たれたし……薬で強制的に眠らされたし……今は問題ない」
「そうか」
「それで……その……定期的に健康診断って……」
「これは命令だ。そのかわり俺も受ける」
「あ、あぁ。別に否やはない」
「ならいい。……昨日は俺も悪かったな。大人気なかった」
「い、いや。ボスの言ったことは正論だ。仕事に支障をきたす前に改善すべきだった。なんとかなると自分の体力を過信していた。なんで……あんなに意地になってしまったのか……自分でもわからない」
「…………」
「………………」

しばらくお互いに沈黙してしまう。

「本当は……」
「え?」
「本当は……悔しかったんだ。側にいなかったとはいえ気付いてやれなかった。そしてお前も俺を頼ってくれなかった」
「ボス……」
「俺たちはパートナーだろう?俺を信じられないか?」
カズは首を横に振る。
「カズ……」
名前を呼ぶと恐る恐るといった態で顔をあげる。
セットされた柔らかそうな髪から前髪が一房落ちる。
それをかきあげてやるとサングラスの隙間から目が合った。
「ごめん」
苦笑してそのままカズの髪をかき混ぜる。
「あっ…」とカズが小さく声を上げて止めようとしたが大人しくされるにまかせていた。
すっかりカズの髪型がぐしゃぐしゃになってから解放してやる。
「あ〜あ……もう……」
必死に手櫛でカズがそれを直す。
しかし一度崩れているので何本か前髪がどうしても落ちる。

「なぁ……?」
「え?」
「なんで前髪あげるんだ?」
「え?なんでって……似合わないかな?」
「いや、そんなことはないが……面倒じゃないか?毎朝毎朝……」
「お、……」
「ん?」
「幼く……なるから……ひげはまばらにしか生えないし似合わないって言われたし……」

あぁそういえば。カズは自分の容姿にひどくコンプレックスを持っていたのだ。
サングラスもそれを隠すため。
ではこの髪型もそれを隠すため?
思わず衝動的に抱きしめたくなった。
「うわぁっ!ぼ、ボスっ!」
そしてせっかく直した髪をまたグリグリとかき回す。
頭半分下から「やめろバカ!」と文句が聞こえるが無視してグリグリとかき回し続けた。
すっかり大人しくなったので調子に乗る。
ぐしゃぐしゃになった髪の毛を引っ張ってみたりまとめてみたり「ちょんまげってこんなか?」などと遊んでみたり。
自分のゴワゴワの髪の毛と違ってテディベアでも撫でている様な感触で気持ちがいい。
しかしあまりにカズが静かなのでおや?と顔を覗いてみた。
無防備に目を閉じている。撫でられている方も気持ちよかったようだ。
手が止まったことに気付きハッと目を開いたカズと再び目が合う。
その途端一気に顔が赤く染まった。

「やっ、これっ……ちがっ……」

動揺してどもる口を軽く指で押さえた。
そして軽く口付ける。

「たまには今みたいに素直に甘えろ。俺に見栄はったって今さらだぞ?」
「今更って……くそっ。……どうせ……」

いつもは饒舌な男だがさすがに言い返せないらしい。
いつもは口では負けるのでいい気分だ。

「カズ……」
「ん?」
「ありがとうな……」
「な、なんだよ。急に」
「お前がいるから今がある。お前と会えてよかったと俺は思うよ」
「ぼ、スネーク……俺も……あんたと会えたことを今は感謝している」
「これからもよろしくな?」
「俺こそ……」
後は深くその口を塞いでしまったので聞けなかったが意味は伝わったので問題ない。




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