戦場に踊る竜

□極楽鳥花〜ストレリチア〜
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天国にいるという想像の鳥、極楽鳥。此岸と彼岸の案内人。ストレリチアは極楽鳥の化身といわれる花。
七色の鳥に似た姿の花。



「あぅ…んっ」

微かな吐息のような喘ぎが口腔に響く。
その感触にギギナはうっすらと口の端に笑みを浮かべた。
ふるふると震える睫毛が愛おしい。薄い瞼に隠れた藍を思うと、その愛おしさは更に募る。
舌を絡ませ、啜り上げると、腕の中の痩躯がビクリと震える。
「い、かげんにしろっ。腐れドラッケン!」
「黙れ。眼鏡置場。まだだ」
潤んだ藍が自分をどれほど煽るのか、全く自覚のないガユスは至近距離で騒ぎだそうとする。それを尻から腰までを撫で上げて甘やかな声にすり替えた。さらけ出された象牙色の喉に吸い付きながら、ドラッケンたる己を捕らえて離さない腕の中の恋人を思った。

出会いは陳腐でありきたり。倒れていた男を拾って、世話を押し付けられた。実力が伴わないのに噛み付く様は、正しく懐かない動物そのもので。
以来、ガユスを飼育動物(愛玩動物)扱いする事には躊躇をする事はなかった。コレは自分のモノだと、自分だけが好きに扱っていいのだと、周囲に圧力をかけて隣に立った。

輝かしく、そして無惨に砕けた過去は未だこの男を縛り続ける。
並び立つ事を望んだ女は敵となり、傍らにと願った女は遠くに去った。愛を強請った少女は白い欠片になって、一人土の中に眠る。男の元を去っていった女達の背中を思い、ギギナは胸中で哂った。
上っ面だけでこの男の隣に立つのが間違いなのだ。
何よりも強い執着だけが、この男を捕らえる事が出来るのだ。
隣を歩くだけでは足りぬ。闘争のその先、涅槃まで掠って逝く。その覚悟をした者だけが、自分だけが、この男を手にいれた。

長い口付けで脱力した痩躯を抱き込む。
赤銅色の髪、蕩けた藍の瞳、象牙の肌、濡れた紅唇、桜色の目許、真珠の歯、小さく見える朱色の舌先。

薫り立つ花のような。花よりも尚、己の欲を煽る身体。逃しはしない。手離す事などありえない。己の欲が欲するまま、ギギナはガユスを抱き締める。

それは天国の鳥を閉じ込めた気分だった。
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