作品展示

□依存、依存、依存
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「……隼人」


うっすらと浮上する意識の中重力に逆らい片手を天井に伸ばす。
掠れた声で愛しい子の名を呟く。

勿論返事は、ない。

代わりに耳に届いたのは小鳥の囀り、目を開いて移した視線の先には朝日を受け反射した
白いカーテン。


あぁ、隼人は学校…か。


今更ながらそんな事を思い出し、上げていた手を降ろしそのまま頭を抱えるとゆっくりと
身体を起こす。
昨晩の情事による気だるさを引き摺りながらまだ恋人の残り香を纏うベッドから這い出
る。

「は…やと、」

ふらりふらりとキッチンに向かう。
無論其処に探す姿はなく、テーブルの上に朝食、それから置き手紙。
何と無くそれに相手を見い出せた気がして、ふらりふらりと席につく。
まずは手紙に目を通す。


『朝食は温めて食えよ。
昼飯は冷蔵庫の中適当に漁っていいからな。
今日も夕方に帰る』


恋人の文字、一瞬だけそれに何かを感じたがこれは『隼人』じゃない。
ぐしゃりと紙屑を握り潰すとそれを床に投げ捨てる。
それから何と無くサランラップを捲り、何と無くウインナーをつまみ上げ口に運ぶ。
……美味しくない。
だって隼人が居ないから。
何と無く腹ただしくなってがたりと席をたつ。
そのまま皿を持ち上げれば苛立ちを込めてその皿を床に叩き付ける。
がしゃん、と皿が割れる鈍い音がした。
それにさえ苛々してがしがしと乱暴に頭を掻いた。


「隼人、隼人隼人」


…――隼人が、足りない。

「足り、ない…!!」



その衝動の赴くままに手を伸ばし、拳を振り上げ、叫ぶ。


がしゃんがしゃん。


耳障りな音が鬱陶しくて苛々にその力を強める。


がしゃんがしゃんがしゃん。



それなのにその音は大きくなるばかりで。
あぁ、苛々する苛々する。


「隼人」



どうして君は今此処に居ないんだろう。
どうしてオレの所有物が今此処に無いんだろう。
どうして、どうして君は


「オレをおいて、」
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