NOVEL

□よ・わ・み
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――何だ、これは。

私は今の状況に目を疑った。
いつも強くて、しっかりしていて、格好良いトシ。
そのトシが、珍しく弱々しい。
私に持たれかかる勢いで抱きしめてきて、どうしたのだろうとトシの顔を覗き見ようとしたけれど、それは叶わなかった。
私の首元に顔を埋めるトシは、今の顔を見られたくないのか、徐に私の視線を避け出す――その割に、私の体はしっかりと捕まえているのだけれど――。
こんなトシの姿は見た事がない。
その姿は酷く頼りなくて、トシの背中は私より大きいのにどこか小さく感じて、私は何だかトシの背中を抱きしめ返さねばならないような気がした。
都市が落ち着くように、私はトシの背中を撫でる。
しばらくそうしていたら今度は私が少し焦り出してきて、この状況を何とかしなければ総悟君に見られてしまうと思い、背中を撫でている手を、止めた。

「ね、トシ……どうしたの」

「うるせえ」

「ええっ」

うるせえって言われちゃったよ!
私、うるさくしていた訳じゃないのに。
……けれど、トシにはきっと、私には触れられたくない部分があるのだろう。
全ての弱みを一人の人に曝け出す事なんか、出来やしないのだ。
少しずつ、少しずつ、沢山の人に、それぞれ違う弱みを見せながら、それぞれ違う言葉を受け止めて、トシはしっかり地面に足を付けて、生きている。
私もそうだ。
トシに全てを見せている訳ではない。
けれど、……少し、寂しいなあ、なんて。
矛盾しているのは分かっている。
けれどこの気持ちを打ち明けて私の全てを見せたところで、トシはきっと私に全てを教えてはくれないだろう。
だから、良いのだ。
私はこの気持ちに蓋をする。
この関係が崩れていくのを、私は酷く恐れている――変化を恐れるのは日本人の特徴らしい。全く、これだから――。
弱みを見せた時に傍にいてもらいたい人を、私に選んでくれただけでも、良かった。
トシは何も言わないけれど、ただ、私の体を抱きしめるその腕が、一時の弱さを物語っている。
私はそれに応えるよ。
トシが何も言わないならば、私も何も言わない。
トシが私を抱きしめたいのならば、

「……、」

私もトシを、抱きしめるよ。












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