NOVEL

□退屈
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「何もしたくないけど、何かしなければ暇だ」

娯楽に限界を感じた日があった。

働く事に意味があるのか、とか、好きでもない仕事に一生を捧げる意味がどこにあるのか、とか、色々考えてしまって、折角大学をきちんと卒業して良い会社に就職したのに、やめた。
大学に入学する際金を出してくれた親は、相当怒った。
この親不幸者、とか、親として情けない、とか、言われた気がする。
……別に、金を出してくれ、って俺が言った訳じゃねぇし。
アンタらが俺を買い被って、勝手に俺に金を投資しただけの話だ。
その金を俺がどうしようと俺の勝手であって、文句が言えない立場のアンタらに何を言われても、何も思わなかった。
これが大人になるという事か、と、その時少し思った気がする。

今は家出して、幼なじみの家に居候している。
奴はマンションの一室を借りて一人暮らしをしていたので、俺は都合良くそこに転がり込んだ。

奴はちゃんと仕事に就いている。
好きでもない仕事を、文句も言わずに。よくそんな事が出来るな、とも思うし、続けて仕事が出来るアイツを、偉いな、とも思った。

仕事をしている奴はこの家の主のくせに、この家に帰ってくる事が少ない。
だから自ずと家にいるのは大抵、大体、俺という事になる。
だから家にあるテレビとかゲームとか、ちょっと金を手に入れたらパチンコとか(風俗もちょっと興味があったけど、そんな金もない)、色々やったけど、

退屈、だ。

何をするにも億劫。
手に余る"暇"をどこかへ放り出したいけれど、体が"暇"に汚染されて、言う事を聞かない。
今日はたまたま奴も休みだったから、暇を持て余す事はないが、"暇"はまたいつか、やってくるのだ。

耐えかねて、言葉にしたら、

「じゃあ、」

奴が口を開いた。
すると奴は勢いよくソファから立ち上がってキッチンへ向かい、片手に何かを持って戻ってきた。

包丁だ。

その包丁を奴は、勢いよく振り上げて、切っ先で俺の目を狙った。
俺はそれを間一髪の所で避ける。

「……っ、!何を……!!」

するんだ、言葉を紡ごうとしたけれど、口を何かで塞がれた。
柔らかい感触……視界がぼんやりして、一体何が起こったか分からなかったが、ふと、目の前に奴の顔があった。

嗚呼、俺、キスされたのか。

「何をって、お前を殺すんだよ」

瞬間、奴の口が言葉を紡ぐ。

「……!!!」
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