短編小説

□追跡悪夢
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「思い上がってんじゃねーぞ、この妄執が」


 我ながら低い音が喉から漏れる。ああだって、なんかすっげームカつくもん、こいつ。わかりあえないはずですよ。
 俺は苛立ちで恐怖を忘却し、溜まった不満を、友の形をしたものにぶつけていく。

 ──だってさ、こんなのと、逆立ちしたってわかりあえるわけがないじゃないか。


「迷惑だ。犠牲を出さずにおさめる器がないんなら、初めから何かをしようとするな、小者風情が」


 そんな小せえ器の奴が何かを望んだって、周りが迷惑するだけでしょ。ほら、ちょうど、今みたいに?
 ああなんか本気で腹立ってきたわ。何が怨念そのものみたいだふざけんな。


「あ? 何? 綺麗事じゃ世の中救えない? ──救えないなら救おうとするな。誰があんたに救いを望んだよ? 救われないやつは救われないなりに、せめて小者には救いなんか求めないんだよ。お前にはできなくても、綺麗事を通せるやつが必ずいる」


 何を一人で盛り上がってんのか知らないが、救世主気取りかこの野郎。ただのB級ホラーなんだよ、このド三流が。
 あったまきたわ、マジもう最悪だ、役者不足の分際で舞台にあがろうとしやがって。大根が。


「つまりさ、俺だけは手を汚す覚悟ができてる、って勘違い野郎でしょ、あんた。そんなんただの自己顕示欲だろうがゴミが。汚れはてめーだ。そんなもん押し付けられる方の身にもなってみろ。汚れる俺はかっこいい? は、勝手に一人で浸ってろよ」


 誰の迷惑にもならねーところでな! 知ってるか? ゴミが生きるだけで酸素は減ってんだぜ畜生が。


「愛だけじゃ救えない? それは救えない奴の理屈だろ。てめえができねえからって周りを同レベルにするな弱者」


 ばっかじゃねーの、マイナスにマイナスかけてるつもりだろうが、思いっきり足してんだよ馬鹿。あーあーあー、マジで余計なお世話ですよくそが。


「そんな底辺が、思い上がって、何かしようなんて思いやがった! それがこのザマだ。どうしてくれんだよ、あんた、俺の友人、返してくれんの?」


 あーハイハイ、わかりますよわかってますよ、無理だよな無理なんだよな、それができる奴なら、こんなことしてねーもん。
 ああもうマジ迷惑。何、壮大な公開自慰行為ですか。どんだけ変態だよマジ滅べ。■ね。■ねじゃなくて■ね。


「悪いけどさ、こんな悪夢は必要ねーわ」


 いくら現実が悪夢だからって、別の悪夢にすり変わったところでなんの意味もない。
 というわけで、とっととこんな悪夢とはおさらばだ。


 それじゃあ、ばいばい。

 二度と出てくんな。



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